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「寒冷地手当引き下げ」強行の大学側の理屈について 11/22/04 山形大学職員組合書記長 品川敦紀 この間、いくつかの大学執行部は、組合や過半数代表の反対を無視して、就業規則の不利 益変更による「寒冷地手当引き下げ」を強行しました。 その際、多くの大学が持ち出している理屈について、問題点を指摘しておきたいと思いま す。 まず第1に、共通して大学側が持ち出している理屈は、独立行政法人通則法第63条第3 項の「前項の給与及び退職手当の支給の基準は、当該独立行政法人の業務の実績を考慮し 、かつ、社会一般の情勢に適合したものとなるように定められなければならない。」との 規程にもとづき人事院勧告に準拠しなければならない、という理屈です。 この「社会一般の情勢に適合した給与」とは、どのように理解すべきか、国立大学法人法 の審議過程での質疑を見てみましょう。 平成15年4月16日の衆議院文部科学委員会の議事録の一部を抜粋してご紹介いたしま す。 藤村委員 「・・今回、これは国家公務員ではない非公務員型を選びました。それから考 えるに、当然、給与とか労働条件など、まさに労使の問題になってきます、それも一つ一 つの法人ごとに。こういうことだと思うんですが、その人件費というか給与というのは、 労使交渉で決めるものかどうか。」 玉井政府参考人 「まず人件費でございますが、要は、各国立大学法人みずからが自主的 に決めるというのがまず基本でございます。・・・では、具体的にさらに中でどういうふ うにやっていくかということでございますけれども、具体の給与や労働条件は、これは各 大学法人が作成する就業規則の中に規定をされるわけでございます。その就業規則を作成 あるいは変更する場合には、これは労基法の適用になりますけれども、労働者の過半数で 組織する労働組合がある場合においてはその労働組合の意見を聞きますし、過半数で組織 する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければならない としております。したがって、各大学法人において教職員等の意見を聞いた上で就業規則 を作成する、その中に給与表等が入ってくるわけでございます。 また、賃金や労働条件について、労働組合法に基づき労働者側の求めによって労使交渉 を行うということも当然あるわけでございまして、その際には、やはり給与等の支給基準 は、各大学法人の業務の実績を考慮し、かつ、社会一般の情勢に適合したものとなるよう に定めなければならないというのが基本にございますので、そのことを十分勘案して、関 係者において適切に対応していただくということになろうかと思います。」 この二人の質疑応答から、国立大学法人における職員給与の決定過程について判るのは、 まず、給与は各国立大学法人が、自主的に、労使の話し合いで決定するのが基本だという こと、そして、その際、いくら労使交渉によるといっても、青天井に引き上げられるとい うものではなく、法人の業務実績と社会一般の情勢に適合したものにすべきである、とい うことです。 この際注目していただきたいのは、「社会一般の情勢への適合」の理屈は、「労働者側の 求めによる労使交渉」での給与決定の場合を想定しているということです。つまり、組合 から、賃下げの労使交渉を要求することはありませんから、想定はあくまで「賃上げ交渉 」であって、交渉の結果引き上げる場合でも、非常識な引き上げは出来ないと言うことを 主張しているにすぎないことです。つまり、「社会一般の情勢への適合」の理屈は、賃下 げの根拠に使うのは、趣旨が違うと言うことです。 次に、その不利益変更の合法性の主張について見てみます。 何度もご紹介していますように、労使の合意による労働契約の一部をなす就業規則の不利 益変更は認められないのが原則です。そして、例外的に許されるとされる就業規則の不利 益変更は、それが、賃金など特に重要な労働条件に関する不利益変更である場合、「高度 の必要性」にもとづいた「合理性」がある場合に限られるとされています。 そしてその「高度の必要性」として、(ア)法律の要求に伴う必要性(例えば、法律によ る週休2日制の実施を行った場合の一日の労働時間の延長や法律による定年延長を行った 場合の賃金のカット)、(イ)合併による労働条件統一に伴う必要性(合併によって賃金 水準の高い側のカットによる労働条件の統一)(ウ)企業経営の破綻(経営状況が破綻に いたるような重大かつ緊急な場合)などが認められやすいとされています。 今回の「寒冷地手当引き下げ」の不利益変更は、(ア)〜(ウ)のいずれにも該当しない ことは明らかです。独立行政法人通則法第63条3項は、上記の通り、賃下げを要求する ものではありませんし、人勧どおりに切り下げなければ罰則があるわけでもありません。 (ア)に該当しないことは明らかです。(イ)(ウ)は問題外ですから、今回の不利益変 更には「高度の必要性」はないといえます。 次に、「内容の合理性」について見てみますと、ご存知のように、(1)就業規則の不利 益変更によって従業員の被る不利益の程度、(2)企業側の変更の必要性の内容・程度、 (3)変更後の就業規則の内容自体の相当性、(4)代償措置その他の関連する他の労働 条件の改善状況、(5)多数労働組合又は多数従業員との交渉経緯 、(6)他の労働組 合又は他の従業員の対応、(7)不利益変更内容に関する同業他社の状況から判断される 、と言われています。 (1)に関しては、年間10万〜20万の賃金引き下げになり、年収の2〜4%の切り下 げであり、被る不利益は極めて重大です。(2)の大学側の必要性は、上記の通り、一般 的必要性は認められても、あえてせざるを得ないほどの「高度の必要性」は有りません。 (3)の変更後の相当性については、現に寒冷地における寒冷地故の出費からすれば、必 ずしも相当性があるとはいえません。(4)の代償措置(例えば、賃下げに見合った時短 など)に関しては、伝えられるところでは、全く取られていないようです。(5)、(6 )については、多くの大学で、「切り下げ提案」が直前になされ、充分な時間をかけての 話し合いすらもたれていません。また、知る範囲では、組合も、過半数代表も、大学側提 案に反対を表明しているようです。(7)については、本年、切り下げをしなかった大学 も多数有りますし、私立大学でも従来通り支給しているところも有りますから、同業他社 の状況も、切り下げを要請しているわけではないといえます。 こうしてみますと、今回なされた就業規則の不利益変更による寒冷地手当の切り下げは、 それ画許される前提条件である「高度の必要性」も「合理性」も欠く、全く違法な措置で あるといえます。 すでに切り下げが強行された大学に於いても、組合、組合員に於かれましては、寒冷地手 当の切り下げ分の支払いを大学に要求しつつ、労働基準監督署に対しては、労基法24条 違反で申告、告発するなど、最後まで諦めずに頑張っていただければ幸いです。 |