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新首都圏ネットワーク


『しんぶん赤旗』2004年11月14日付

新潟大 地質科学科
国立大学法人化で予算激減
中越地震調査に支障

 国立大学法人化が、大学の教育研究に影響を及ぼしています。新潟県中越地
震の発生直後から被害状況などの調査にあたってきた新潟大学地質科学科では、
研究教育費が三年前と比べ三割以下に落ち込み、研究者らが自腹で現地調査を
行わなければならないなどの事態に直面しています。

3年前の3割以下

 「中越地震新潟大学調査団」に十人の研究者が参加している理学部地質科学
科では、研究予算がこの間激減しました。

 国立大学法人への移行にともない、教育と研究の基礎単位での配分が削減さ
れたのです。三年前には二千六百六十万円配分されていた研究教育経費が、今
年度は七百五十三万円に落ち込みました。

 学科運営に必要な最低限の経費、非常勤職員の人件費を差し引くと教員一人
当たりの配分額は十七―二十四万円にしかならず、地震が発生した十月末の時
点ではほとんど底をついていました。

 研究者らの窮状が大学当局に伝わり、十一月九日には、学長裁量経費から急
きょ三百万円をメドに調査費を出すことが決まりました。

 現場の研究者はこれを歓迎しながら、「複数の学部で調査団を構成しており、
他大学とも協力しながら活動している。大学からの手当てだけでなく文科省と
しての支援も求められている」と話しています。

国立大学法人化 今年四月から国立大学の設置者が国から法人に変わりました。
六年ごとの中期目標・計画を文科相が定め、認可。各大学はこれにそった“効
率的な経営”を求められるしくみです。「競争的経費」への学内予算の集中や、
雇用保険費用をはじめ法人化に伴う新たな出費などが基礎的研究予算を圧迫し、
各地で矛盾が噴出しています。


予算不足の新潟大地震調査
航空写真を購入できず
現地調査も日帰り

 「泊まり込んで現地調査できればいいのでしょうが金がないので車で往復。
日帰りですよ」――新潟大理学部地質科学科長の立石雅昭教授は語ります。

 同大の研究者らは、被災地を歩き回り、崩落や地すべりなど地形の変化、墓
石の倒れ方などを観察、記録しています。雨が降れば地形はどんどん変わって
しまうため、機動的に調査を行うことが重要です。このため、地理を熟知した
地元大学の役割は絶大。全国から訪れる研究調査団を受け入れ、案内するのも
重要な役目です。

 しかし、初動から予算不足に悩まされました。

 地形の変化を見るため航空写真を購入しようと思っても、民間会社のものは
数十万―百万円で手が出ない。現地に移動する車の高速料金もばかにならない。
地震計や、地すべりの危険度の測定装置などを現地に設置したくても、すぐに
は購入できません。

背景に法人化

 背景には、一面所報のように、国立大学法人への移行にともない、教育研究
の基礎単位への予算配分が削減されたことがあります。教員一人当たり十七 ―
二十四万円という額では、一年間の教育研究をまかなうにはとうてい不十分で
す。「学会が東京であれば二泊三日で五万円はかかりますが、学会は例年春夏
に一回ずつあるんです。ほかにコピーや電話代もかかる。地震が起きる前に使
い尽くしてましたね」と立石教授もいいます。

 教育にも影響が出ています。学生に自由にコピーをとらせることもできませ
ん。博士課程の大学院生に一人二十万円出していた研究費補助も、昨年は十五
万円、今年は五万円に減額せざるをえませんでした。「非常に悩みました。研
究者としての成長に必要なお金を出せないんですから」。立石教授は苦しい胸
の内を語ります。

被災地の警告

 予算不足だからといって、地震の調査で手を抜くわけにはいきません。文部
科学省に突発災害にかかわる科学研究費補助金を申請したり、車を緊急車両扱
いにして高速料金を免除させるなどして、大学の協力も得ながら改善のメドを
立ててきました。

 立石教授は「私たち理学部だけでなく、工、農、教育、人文などの学部の教
員、大学院生が調査団に参加しているし、他大学とも協力している。文科省か
らの支援も必要です」と話します。

 調査に追われながら費用の工面に四苦八苦させられた新潟大の事例。必要な
財政措置をしないまま国立大学の法人化を強行した政府の責任を浮かび上がら
せています。しかも、来年度から、各大学に国が出す運営費交付金は毎年1%
(病院は2%)ずつ削減されます。「全国どこでも大変な状況になる。高等教
育が機能しなくなるのでは」と立石教授は懸念します。

 地震で表面化した法人化の問題点。現地からの警告に、政府はしっかりと耳
を傾けるべきです。

 坂井希記者