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he-forumをご覧の組合員ならびに大学人事・労務担当者 各位           11
/11/04

     山形大学職員組合書記長 品川敦紀

この間、いくつかの大学で、寒冷地手当の引き下げを行う就業規則の変更が、強行されま
した。これは、就業規則の一方的不利益変更であって、断じて認められるものではありま
せん。

このことは、社会保険労務士で作る「是正勧告対策協議会」が、企業経営者、労務担当者
のために公開しているウェブサイトでも、簡潔にその問題点、留意点について紹介してい
ます。ご参考までに、アドレスをご紹介いたします。

http://www.zeseikankoku.com/kisoku/zitsumu004.html

当ページに掲載されている内容ですが、就業規則の不利益変更に関連する部分を、抜粋し
て、以下に、ご紹介いたします。

*************************************
I. 就業規則の変更にあたっての留意点

1. 労働条件の不利益変更にあたる場合

 就業規則の変更によって、労働条件が低下する場合には、労働条件の不利益変更として
問題となることがある。就業規則は、手続きを行えば、事業主が一方的に制定することが
できることから、就業規則の変更によって、労働契約の内容を一方的に不利益に変更する
ことは、勧められない。
 この件について、最高裁の判例では(秋北バス改正就業規則効力停止事件)
 労働条件の不利益変更は、原則として許されないが、合理的な理由があると認められる
限り、個々の労働者によって拒否することはできず、「団体交渉等の正当な手続き」を必
要とする、とした。
 この「合理的な理由」の判断基準とは、その必要性及び内容の両面の諸事情を総合的に
勘案する必要がある、としている。

2. 就業規則に同意約款、協議約款がある場合

 就業規則中に、就業規則の変更にあたっては労働組合の同意を得ること又は、協議する
旨を定めている場合には、その規定に反して(組合の同意又は協議を経ないで)変更され
た就業規則が有効か無効かが問題となる。
 この件については、下級審の裁判例のなかには無効とするものもあるが、最高裁の判決
は有効説に立っている(三井造船玉野製作所就業規則改正効力停止仮処分申請事件)。
 この判決では、(1)就業規則は、本来、事業主の経営権の作用として一方的に定めう
るものであること。(2)就業規則に「協議調わざる場合の措置等について何等考慮を払
った形跡がない」こと、の2つを論拠に、労働組合との協議約款の定めによらずに変更し
た就業規則を有効としている。

II. 「不利益変更」の判断基準

 Q、「例えば、賃金制度の変更によって、不利益変更になる人と、利益になる人の両者
がいる場合、又は、不利益になった労働条件もあれば、改善された部分もあるという場合
には、どのような基準で判断するのでしょうか。」

 A、簡単に言えば、従来なら請求できた利益が奪われた場合が不利益変更だということ
になります。ただ、具体的な判断については、いくつか検討しなければなりません。

 成果主義の賃金制度に変更した場合など、昇給額が減った人もいれば、前よりも増えた
人がいるということがあります。この場合、労働条件の不利益変更に関しては全体として
どうかということでなく、個人に着目して判断されることになると考えます。したがって
、仮に、他には有利になっている人がいるとしても、また全体として必ずしも不利益変更
になってはいないとしても、その人にとっては不利益変更であり、変更に同意しない者に
適用するためには、合理性が要求されるということになります。利益になっている人が大
勢いるとか、全体では不利益変更になっていないということは、合理性判断の一要素とし
て考慮されることになります。
 賃金は減額されたけど、定年が延長されたというような場合は、不利益変更された労働
条件の内容・程度を検討したうえで、他方の労働条件の改善については、代償措置、又は
、その他関連する他の労働条件改善状況として、合理性を是認しるための一つの判断材料
となります。

III. 不利益変更が認められえる「合理性」

 合理性とは、規定や制度内容が合理的か否かというだけでなく、変更の必要性と内容の
両面から照らして、労働者の被る不利益を考慮してもなお、不利益変更を是認できるか否
かという観点から判断されます。そして、賃金、退職金など労働者にとって重要な労働条
件に関する不利益変更については、この変更を「労働者に法的に受忍させることを許容で
きるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容そのものであることを要する」とされて
います(大曲農協事件)。
 この合理性の意味することとは、
 1.不利益の程度
 2.変更の目的、必要性
 3.内容の相当性
 4.代償措置、経過措置
 5.変更に際しての組合との協議等
 6.他の社員の反応(多数の者が賛成しているか否かなど)
 7.当該労働条件に関する世間相場
などがあります。
 つまり、合理性の有無は、就業規則の変更によって労働者が被る、不利益の程度、事業
主側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その
他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の
従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般状況等を総合判断して判断すべ
きである」(第四銀行事件)としています。

IV. 強引に変更した場合のトラブル

 変更の合理性判断の要素の中に、他の労働組合または、他の従業員の対応という点があ
りますが、やはり、多くの従業員が同意しているとか、少なくとも大多数の者は、会社の
事情を理解しているという状況でないと、変更の合理性が認められるのは困難ですし、何
よりも労務管理上、さまざまなトラブルが生じると思われます。
 具体的には、制度変更に同意しない従業員が、従前の就業規則に基づく処遇を求めて訴
えを起こすということがあります。
 例えば、賃金制度や退職金制度の変更であれば、差額の請求をすることとなります。
 労働時間に関する制度変更であっても、従前の規定のもとであれば時間外労働として時
間外手当の支給を受けることができたということから、時間外手当の差額請求をすること
があります。
 また、労働組合との交渉がまとまらず、強引に変更した場合には、断交拒否、不誠実団
交に該当するなどとして不当労働行為救済申立がなされることがあります。交渉が決裂し
たこと自体は、労使双方が譲らなかったということであって、会社だけが非難される筋合
いではありませんが、交渉経過いかんでは、不誠実団交が問題となることがあります。