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『北陸中日新聞』2004年11月11日付 東アジアの知の拠点めざします 法人化元年 金沢大・林学長に聞く 文理融合研究で『総合性』を発揮 今年四月の国立大学法人化から半年余りが過ぎた。北陸の雄、金沢大(金沢 市)は、今の八学部を三つの学問領域に再編する「学域構想」や「北陸地区国 立大学連合」などを矢継ぎ早に打ち出し、改革を進めてきた。今後も激しさを 増す大学間競争の中で、「ミニ帝大」色を払しょくし、個性をどう磨いていく のか。「東アジアにおける知の拠点」を目指す林勇二郎学長に聞いた。 (報 道部・沢井秀和) −大学の現状をどう考える。 「わが国の高等教育は国立大学に続いて公立大学の法人化も動き出し、混沌 (こんとん)としている。文部科学省の21世紀COE(センター・オブ・エ クセレント)や現代的教育ニーズ取組支援プログラムなどによって、国・公・ 私を交えた競争が仕掛けられている。これらの“外圧”を大学の魅力づくりに 生かすには、大学側が自らの位置づけを明確にする必要がある」 「金沢大は大学憲章を制定し、『教育を重視した研究大学』という方向性を 打ち出した。意思決定に関するトップダウンとボトムアップのシステムは、テー マを分けることによって機能しつつある。もっとも、法人運営が軌道に乗るに はもう少し時間がかかるだろう」 −八学部の教育組織を二〇〇八年から人間社会系、自然系、医薬系の三学域 に再編する。その狙いは? 「あらゆる学問領域で問題が複雑化しており、その解決には従来の枠組みを 超えた専門知識と能力が必要になっている。学部の壁を取り払い、基礎に根ざ しながらも新しさを組み入れた幅広い専門の教育体制を整えることで、社会の 要請と学生のニーズに応えたい」 「人間・社会系や自然系の学域では多様なコースを設置し、主専攻に加えて 副専攻を学べる複数専門制を導入する。ゲノム医科学をベースとした高度化や、 患者中心で人と人との心のつながりを大切にする全人的医療が求められる医薬 系学域では医学、薬学、看護学などの教育を連携させて、質の高い人材を養成 したい」 −大学院研究科を横断する「フロンティア科学研究機構」を、どう位置づけ ている。 「基礎研究と実践研究との距離は急速に接近している。ナノテク材料や遺伝 子治療などの開発においては、基礎研究をベースに実用を目指す探索型研究が 主流となり、新たな研究領域が芽生え始めた。科学技術が将来の地球や人類に 対して責任を持って発展するためには、産学連携や知財管理、さらには文系理 系にまたがる研究こそ重要になる。フロンティア科学研究機構は、本学の新た な総合性を引き出すだろう」 −そのほかの工夫は? 「北陸地区国立大学連合の事業として、富山大や福井大などとの双方向遠隔 授業を二〇〇五年度から開始する。また昨年十月から、石川県内にある十九の 大学や短大による『いしかわシティカレッジ』が県庁跡地を共通キャンパスと して始まっている。立教大との『ビジネス・クリエイト工房』は、両大学の知 的資源を生かした連携事業として期待される。これらの協調的競争を進め、こ れからも北陸、さらには東アジアの知の拠点として役割を果たしたい」 金沢大 1949(昭和24)年に第四高等学校、石川師範学校、金沢高等 師範学校、金沢医科大、金沢工業専門学校などを母体にして金沢城跡に開学し た。89年から城跡から南東5キロ離れた金沢市角間町に移転が始まり、医学 系研究科など一部を除いて2005年9月をめどに一段落する。04年4月に は法務研究科(法科大学院)が設置された。大学院生を含む学生数は1万79 0人。教職員数は2236人。 はやし・ゆうじろう 東京工業大大学院理工学研究科機械工学専攻博士課程 修了。金沢大助教授を経て1981(昭和56)年から金沢大教授。評議員、 工学部長など歴任し1999年9月から学長。専門は機械工学・熱工学。国立 大学協会理事、事業実施委員会委員長を務めている。 |