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新首都圏ネットワーク


『文部科学教育通信』2004年11月8日号 No.111
 
教育ななめ読み 58 「経済効果」
教育評論家 梨戸 茂史


 最近、高等学校の同窓会から会誌が送られてきた。おやっと思ったのは一種
の「サポーター」になってほしいとの案内。なんでも地元信販会社のカードを
作成すると一件あたり数千円の寄付がその同窓会に入り、使用するたびに数パー
セントが同じく寄付される仕組み。年会費がタダで、こちらの負担がなく、そ
の上年間のクレジット金額に応じて商品券までくれる。早速、書類を送ってし
まった。ふと気がついたのは、その「商品券」は地元でしか使えないものだろ
うから実際使用するには「プラス旅費」が必要だということ。でも、これって
大学もできるな、と考えていたら同じような案内が大学のOB会からもやってき
たのには驚いた(法人化の効果かしらん?)

 法人化が経済に与える影響は決して少なくなさそうだ。金融で言えば、まず、
メインバンクが設定されたのが大きい。運営費交付金は年数回に分けて交付さ
れるからすぐ使わないお金は大学の口座にプールされる。規模の大きなところ
は金額も相当なもの。その上、この低金利時代、運用について銀行の提案もあ
またやってくる。これまでは国庫金として金利もつかなかったが、手数料も取
られなかった。が今度は法人だから、しっかり手数料が取られる。預ける金額
が大きい大学は、交渉で手数料の引き下げから無料までの交渉ができたでしょ
う。教職員の給料だって他行・他支店への振込みが手数料収入につながる。そ
の上前後期の年二回、学生からの授業料の払い込みもある。振込み手数料をゼ
ロにしようとして、同じ銀行の同じ支店に口座を持とうと、突然新入生の口座
開設が急増したところもあったらしい。

 大学を市場(マーケット)という観点から見たとき、国立大学は、学生数約
六二万人、教職員一一万七千人。授業料、病院等の収入に国からの交付金を合
わせるとおおむね二兆三千七百億になるとの試算もある。一方私学は学生数二
八六万人、教職員二四万六千人となり、授業料や補助金も含めた収入の合計は
五兆一千億円にも上る。前者の国立は新規の顧客だ。銀行の経営は改善される
のでしょうね。保険業界も、従来の国立大学は全部国家賠償法で対応できたの
で学生の個人的なものを除けば保険はなかった。今度からは、キャンパス内の
学生、教職員の事故に対応する保険までが売れる。おまけに建物は燃えたり壊
れたりすることもあろうから火災保険や地震保険まで考えられる。でもいちい
ち各大学が通常の保険をかけたら膨大な保険金額にならざるをえない。いっそ、
火災保険はかけないほうがよろしい。めったに丸焼けになることはないし、燃
えたって授業は行わなければならないのだから、国が建物を作ってくれるさ、
と思えば保険の掛け金は節約できる。

 その上まだあった。監査があるので一躍監査法人に商機ができた。何もしら
ない元公務員の会計マンに企業会計を教えるとともに、監査業務委託を獲得す
る競争が始まった。結果、四大法人中、S社は三六校、C社が三二校、Aは一四校
でTが七校になったそうだ。監査手数料がどんと増え増収になる。もっとも初め
てだしおまけして企業よりひとけた小さい額だとの話もある。また、国立大学
はほとんどの県庁所在地や第二の都市にあって実は土地などの財産も大きい。
これが資本金。現物出資の土地、建物、大型設備は九兆円を上まわるそうだ。
近い将来はこれを元手に借入金をして教育研究環境を改善することも可能だろ
う。金持ち有力大学はますます大きくなる。これが市場原理なんだろうか。結
局、「法人化」というのは、政府の金融支援策の一環だったのか?