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新首都圏ネットワーク


『中国新聞』2004年11月8日付

患者サービス向上、道半ば 広島大病院


 国立大の独立行政法人化に伴い、今年四月から独立採算制となった広島大病
院(広島市南区)。経営努力が求められる中、コスト節減やサービス向上に力
を入れ、目に見える改善例も出始めた。一方で、待ち時間の短縮などで患者の
満足度を高めるには、もう少し時間がかかりそうだ。(馬場洋太・内藤俊男)

 ■午後の外来診療 検討

 「皆さんには耳の痛い話ですが…」。十月末、広大の学内であった接遇研修
会。「大学病院といえども、選んで良かったと思われるサービスをしないと、
組織も残らないし、働く場も失う。そういう時代が目の前に来ています」。人
材派遣会社から招かれた講師は、旅行会社の合併を例に引き、約二百人の病院
職員にハッパをかけた。

 法人化で、国が経費を丸ごと負担してくれる時代は終わった。広大病院の年
間収入は、約百五十一億円。対する支出は、新病棟建設費の償還金などを含め、
約百八十二億円。差し引き三十一億円の赤字分は、国からの臨時の交付金や、
大学全体の予算の一部をあてがっている。しかし、頼みの交付金も年々減額さ
れ、二年後にはゼロになる。増収は、急務なのだ。

 収入増につなげる取り組みの一つが、手術室の効率的な運用。使う頻度の少
ない歯科病棟の手術室を、内科や外科などの手術にも使い始め、入院患者の手
術待ち日数が短縮した。手術件数も今年四〜七月は、前年同期比で16・3%
増えた。

 収入5億円アップ

 院内で使う医療器具や薬剤を一度に大量に仕入れたり、同じ機能や成分で割
安な商品に切り替えたりするコスト節減にも乗り出した。本年度の収入は、昨
年より約五億円上回る見込みだ。

外来患者の主な不満
・診療と会計の待ち時間が長い
・看護師の数や資質を上げてほしい
・診療科同士の連携が足りないのではないか
・病院内の案内表示が分かりにくい
・託児やおむつ替えのスペースが欲しい
・出張による医師の急な交代は困る

 半面、多くの患者が肌で感じるようなサービス向上は道半ばのようだ。院内
で市民の声を聞いてみた。「最低で三十分、長い時は二時間も受診待ち。予約
に何の意味があるんですかね」。外来診療棟のベンチに座っていた安芸区の主
婦(31)は、あきれ顔を見せた。

 今年三月の病院側の調査によると、待ち時間は平均で三十分から一時間近く
かかっている。「午前中に診察が集中する上、患者の容体が悪いと、どうして
も診察時間が延びてしまいがち」(同病院)という。

 「点滴の薬を看護師らが用意してくれず、自分で階段を上り下りして薬剤部
まで取りに行かなければならない。しんどいから病院に来ているのに」。東広
島市から通院している主婦(31)は、接遇面での改善を求める。

 入院説明係を配置

 患者が挙げた課題を伝えると、浅原利正病院長は「待ち時間短縮のために、
午後も診療ができないか、見直しの最中。無駄を省き、浮いた経費で人員を増
やし、サービス改善につなげたい」と釈明をした。

 百床当たり五五・二人と、市民病院(七七・九人)や県立広島病院(六四・
七人)に比べても少ない看護師の増員が、検討課題に挙がっているという。

 入院病棟では今月一日から、入院患者に対する病棟生活の説明や詰め所での
応対などを受け持つ、非常勤の係員十四人を新たに配置した。看護師が、患者
のケアに専念しやすくする配慮だ。

 職員の間には、「すぐには意識は変わらない」との声がある一方、「人手不
足のせいにせず、知恵を絞ればできることは多い」との前向きな意見も聞こえ
てくる。県内で唯一の大学病院として、高度な医療を期待して訪れる患者の視
点に立ち、さらにサービス向上を進めてほしい。