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新首都圏ネットワーク


JanJan 2004年10月29日付

「首大」設計者達の暴言と慣らされてしまった人達


 現代はコンピュータの処理速度向上と合わせるかのように、情報が加速的に
飛び交う社会となった。情報の洪水の中で人々は、自分にとって関心のある情
報、面白い情報を争って入手しようとする。情報発信者は、いかに読者を獲得
しようかと知恵を絞り、よりインパクトのある強烈なメッセージを流す。テレ
ビ、新聞はもとより、電車の中の吊り広告、街中の広告を見ると、それぞれが
見る者に飛びかかろうとしている。

 そんな現代において、人々は知らず知らずの内に「過激な言葉」に慣らされ
てしまい、政治家や指導者達の暴言に「またか!」と言って呆れて済ましてし
まっていないだろうか?

 以下の発言をまずご覧頂きたい。

A:「大学全入時代、学校さえ選ばなければバカでもチョンでも、そこそこの
大学に入れる時代が3年後に来る。首都大学東京は世界の共通の財産。有識者
の声を反映した、いい大学にしたい」
B:「一部のバカ野郎が反対して金が出なくなったが、あんなものどうでもい
い」
C:「一部のバカ野郎が反対して文部科学省との関係が切れたが、あんなもの
はどうでもいい。反対のための反対しかできなかった連中で笑止千万。何の痛
痒(つうよう)も感じない」
D:「フランス語は数を勘定できない言葉だから国際語として失格しているの
も、むべなるかなという気がする。そういうものにしがみついている手合いが
反対のための反対をしている。笑止千万だ」

 2004年10月19日、東京都庁で「the Tokyo U−club」という名の「首
都大学東京」(以下、「首大」と略)をサポートする会員制クラブ設立総会が
開かれた時の発言である。Aは、首大理事長予定者である高橋宏氏(元郵船航
空サービス相談役)の発言(毎日新聞10月20日朝刊)、BとDは、石原慎
太郎東京都知事の発言(同日同紙)である。Cは、同日の産経新聞で紹介され
たもの。

 Aは、「首大」サポートクラブ総会出席者を前にして大学理事長予定者が発
言したものだが、毎日新聞のコメントを待つまでもなく差別用語が用いられて
いる。

 BとCは、10月13日に平成15年度に文部科学省の採択を受けた東京都
立大学における21世紀COEプログラム「金融市場のミクロ構造と制度設計」
が返上されたことを受けての都知事の発言である。このCOEプロジェクトを
推進していた近代経済学グループは、「首大」があまりにも一方的に東京都の
行政に尽くすことを目的としていることに反対し、研究が続けられないと宣言
し、プロジェクト継続を断念する発表をしていた。そして、都知事は彼らを
「バカ野郎」と罵った。

 最後にDは、あまりにも一方的に人文学部を破壊しようとした東京都に対し
て、反対の声をあげ続けた仏文専攻に対して発せられた嫌みのようである。し
かし、誰が考えても、フランス語で数が数えられないのは、石原知事の不勉強
が理由であり、フランス語のせいではない。もし都知事が、フランス語を母語
とする優秀な数学者が多数いることを知らないとしたら、教養のかけらもない
と世界から笑われるだろう。ましてや、それをもって「フランス語が国際語と
して失格」などと理由づけることなどできるわけがない。

 しかし、なぜこのような暴言を吐くのだろうか? それは、冒頭に述べたよ
うに、暴言を吐くと、聞いた人が反応してくれるからだ。汚く罵れば罵るだけ
世間が注目してくれる、そういう構造があるのではないか。そして、その内容
が事実と違っていても、面白がって傍観しているだけ。

 傍観者には、一般人だけでなく、マスコミも含まれる。今回の毎日新聞と産
経新聞の記事は、それでも少しは実態を伝えようとしているが、ここに引用さ
れている読売新聞や朝日新聞の記事を見ると、まったく問題視していないこと
が分かる。

 これは、感性の麻痺というだけでなく、知性の麻痺でもある。政治家を含む
指導層が暴言を吐き、それを人々が許容するという構図は、やがて暴言の内容
を実行するような指導者を知らず知らずの内に許してしまう社会を作り出すの
ではないか?

 「ああ、また愚かな暴言を吐いている」と考えるのは、危険な徴候だ。その
ように感じる人は、自分の知性が麻痺してきていると自戒すべきだろう。地域
面の小さな記事としてほったらかしにしてはいけない。マスコミは指導者層の
暴言をもっと大きく扱って、このような人達の責任を問うべきだ。

 ちなみに、産経新聞によるCの表現は、毎日新聞のBとDのせりふの中間を
「意図的」に削除しているような気がしてならない。

 (B+D)−C=「フランス語は数を勘定できない言葉だから国際語として
失格しているのも、むべなるかなという気がする。そういうものにしがみつい
ている手合いが」

 この部分をカットした記者の罪の重さを感じざるを得ない。攻撃対象になっ
た都立大現代経済学グループの一人は、「『クビ大COE』はなぜ阻止されね
ばならなかったのか」を発表しているが、フランスからの抗議はまだ届いてい
ない。

注:COE=「中核的研究拠点(Center of Excellence: COE)形成プログラ
ム」とは、創造性豊かな世界の最先端の学術研究を推進する卓越した日本の研
究拠点のこと。

(静山視河)