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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』愛知版 2004年10月27日付

[ずばり聞きます]

西永 頌さん

Q.国立大法人化から半年 運営の現状は?


 国立大学が法人化されて半年が過ぎた。少子化などを背景に大学の生き残り
競争が厳しさを増すなか、自由裁量を生かして大学の特色を打ち出そうとする
動きが加速している。豊橋技術科学大学(豊橋市)もその一つ。9月に市街地
にサテライトオフィスを設けたほか、昨年、国際自動車特区に指定された三河
港地域の強みをとらえ、12月に未来の自動車技術を産学連携で研究する拠点
「未来ビークルリサーチセンター」を発足させる。法人化後の大学経営につい
て、学長の西永頌さんに聞いた。

  (聞き手 都留悦史)

豊橋技術科学大学学長
西永 頌さん

 にしなが・たたう 65歳。名古屋大学工学部卒。東京大学工学部教授、結
晶成長国際機構会長などを歴任。専門は電子工学。今年8月、結晶成長学の分
野での功績をたたえられ、国内3人目の結晶成長国際機構賞「ローディス賞」
を受賞した。

産学連携 拠点作り加速

 ──産学の連携など学内外の動きが活発化していますね。

 「豊橋市は中心市街地が若干寂れています。サテライトオフィスは、地元の
まちづくりに寄与できる地域連携の一つとして作りました」

 「大学に近い三河港一帯は『国際自動車特区』に認定されました。特区を支
える役割は産学官それぞれありますが、特区の一翼を担うために未来ビークル
リサーチセンターを設立することにしました」

 ──こうした動きには大学の法人化が影響しているのでしょうか。

 「大学独自の裁量で組織を作れるようになったことは大きな変化です。これ
までは、建物も予算も文科省に申請し、認められた後の話でした。今は学内措
置で先に走り出し、後で文科省に運営費や設備費のサポートを求めることがで
きます。ビークルリサーチセンター以外にも来年4月をめどに、『街づくり』
と『公害の出ない未来社会』『ICを使った人間や植物からの生体情報検出』
の三つの研究分野でリサーチセンターの設置を計画しています」

 ──リサーチセンター設立の利点は何でしょうか。

 「大学での研究は個人単位が多かった。センターの設置で、多くの研究室が
互いに協力して研究を進めることができます。産学連携を組み込めば大きなプ
ロジェクトを担え、企業の最先端の情報も入って研究者は刺激を受けます」

 ──企業側はどうでしょうか。

 「これまでも大学側と企業側との共同研究や受託研究はありました。リサー
チセンターとしてまとまれば、産学の連携をさらに大掛かりなものとして、強
力なものとすることができます」

 「企業側の台所事情もあります。多くの人材と資金を投入して総合研究所を
作った時代がありましたが、バブル経済が崩壊して企業は研究投資を縮小せざ
るを得なくなった。3〜5年の短期間でモノになる研究にシフトしてきた。企
業側も長期的な研究は大学と共同でやる方が有利だと思い始めています」

 ──大学を取り巻く環境も産学連携を後押ししているのでしょうか。

 「大学は運営の効率化が求められています。法人として存立するための財源
基盤が必要です。資金を得るためには、研究成果やノウハウなどこの大学の知
的財産を活用するのが最も有利です。大学と企業を上手に結び、収益をスムー
ズに回収する仕掛けが必要になります。こうした目的で今年4月に特許やノウ
ハウを活用した事業を支援する株式会社を設立しました。地域と密着した事業
を進めることで、地域との共生を図り、財源のマルチ化に結びつけます」

 ──知的財産を支える人材の育成についてはどう考えますか。

 「技術は科学の応用ではなく、技術が先にあると考えています。自動車や飛
行機は、科学が発達したからできたものではなく、早く走りたい、空を飛びた
いという欲求が先にあったのです。まず技術に触れ、そこで科学を教える。そ
してまた技術に戻る。私はこれを『螺旋(らせん)型教育』と呼び、この大学
で実践しています」

 「入学生の約80%は先に技術に触れる高等専門学校の学生たちです。科学
者から技術者になった人は理屈ばかりであまり手足が動かない。実際に技術に
触れた方が、将来の人材としてニーズが出てくると思っています」


 未来ビークルリサーチセンター  環境に優しく安全性も高い未来型の車を
つくる基礎技術を開発するのが目的。関連する学内の教員と産業界の技術者ら
が専門分野を超えて連携し、共同研究をする拠点として12月の設立を目指す。
環境、安全、情報、生産、経営の五つの研究コアで形成。廃棄自動車のリサイ
クル技術や燃料電池車の開発、便利な交通社会を実現するITS(高度道路交
通システム)など学術的なニーズを吸い上げ、コアごとに研究を進める。各コ
ア間の横断的な連携も視野に入れている。