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新首都圏ネットワーク


『科学新聞』2004年10月15日付

文部科学大臣 中山成彬氏に聞く


 第3期科学技術基本計画の検討、競争的研究資金の倍増、戦略的研究開発の
推進、大学への支援のあり方。科学技術創造立国を目指す中で様々な課題があ
るが、政府研究開発投資の6割を担う文部科学省の役割は大きい。そこで、新
たに就任した中山成彬・文部科学大臣にいくつかの政策課題についてお話を伺っ
た。中山大臣は宮崎県出身で61歳、大蔵省時代に職場結婚、「私より家内(中
川前内閣参与)の方が有名ですよ」と照れながら話す気さくなタイプだ。

競争的資金拡充へ新たな決意

−−財政状況が厳しい中、科学技術関係は17年度予算の大幅増要求をしている


 中山 大臣を拝命する前から、科学技術振興には非常に関心を持っていた。
世界の先端をいく研究開発・技術開発をすることが日本の生命線だと思ってい
る。自民党でも科学技術創造立国・情報通信研究開発調査会で科学技術に取り
組んできた。第2期科学技術基本計画にある24兆円についても非常に関心を持っ
てきたが、特に最近、財政状況が厳しくなってきた。しかし、研究開発や技術
開発の重要性に鑑み、最優先で取り組んでいく。競争的資金の倍増についても、
思い切った要求をしているが、十分な拡充が図られるよう決意を新たにしてい
る。

−−第2期基本計画の達成状況について、また第3期基本計画のポイントは

 中山 第2期は17年度が最終年度。目標金額を達成できないかと頑張ってい
るが、現実問題としては要求段階でも難しい。日本経済が3.5%ずつ成長すると
いう前提のもとで24兆円だった。聞いたところでは、1兆円くらいの差がでる。
よく頑張ったと思う。差をできるだけ縮めるように最後まで頑張っていきたい。

 第3期に反映させるべき重要課題については、総合科学技術会議、科学技術・
学術審議会等において、色々な議論がなされている。1つには科学技術関係人
材の養成・確保、2つ目には大学改革支援をはじめとする創造的で質の高い研
究開発システムの構築、3つ目には基礎研究の推進および国家的・社会的課題
に対応した研究開発の推進など科学技術の戦略的重点化、4つ目が今後の産学
官連携の展開など、知の創造と活用の好循環の形成。これが第3期基本計画策
定に向けた主な検討課題だと思っている。ちょうど6日、第1回目の基本計画
特別委員会が開かれた。

 特に私としては、安心・安全、生活に科学技術がいかにして貢献していける
かという研究、これから日本の生命線となるような世界をリードしていける重
要な科学技術を精選して推進していきたい。

−−高等教育への財政支出、今後の高等教育政策について

 中山 高等教育への公財政支出のGDPに対する割合は、財政支出構造や教
育制度の問題など、国によって様々な条件が違うため、単純な国際比較は難し
いが、OECDの調査によると2001年現在で我が国のGDPに対する高財政支
出の割合は0.5%で欧米諸国の約2分の1の水準、OECD29カ国中、28 番目
でブービー。

 18歳人口がどんどん減っていくという経営環境もあり、その中で各高等教育
機関は、個性、特色をより一層明確にして国民や社会の期待に応える。多様に
機能分化した高等教育が必要になってくるのではないか。

 文科省としては、各大学等の改革努力を支援するため、財政支出の抜本的な
拡充、高等教育の質の保証に今後とも積極的に取り組んでいく。いま、中央教
育審議会の大学分科会で高等教育の将来像について審議しており、来年1月頃
には答申がなされる。この答申を踏まえて積極的な高等教育改革を進めていく。
財政的に厳しい中だが、最大限の努力をして、大学の質や水準を維持していく。

−−国立大学法人化し、産学連携も活発化しているが

 中山 21世紀は知の時代。大学等の研究成果から優れた知的財産を創りだし、
それを商品化するなどして社会のために貢献していくというのが、大学等に課
せられた大きな課題。昔、私が学生の頃は産学癒着とか、けしからんという話
だった。これからは大学等と産業、政府が連携して取り組んでいく、その中か
ら新しい果実、成果を生みだしていくことが大事。

 大学と企業等との共同研究の件数は過去10年間で約5倍に増加した。大学発
ベンチャーについても、2000年度以降毎年100社以上が設立されて、いまは799
社。産学官連携の実績は近年飛躍的に増大している。しかし、我が国の大学の
可能性を考えれば、まだまだ十分ではない。ぜひ各大学がそれぞれの個性を活
かして、研究成果の機関帰属、知的財産の戦略的な管理、活用を進めることで、
競争的環境の中で自分の個性を生かして切磋琢磨しながら頑張っていただきた
い。

 文科省としても、大学知的財産本部の充実・強化、大学発ベンチャーの創出
の推進など、大学の研究成果をいかにして社会へ還元していくか。強力に推進
していきたい。

−−理科離れ対策について

 中山 日本の経済再生、経済構造改革を進めるため、様々な取り組みを自民
党の中で行ってきた。しかし、やはり人材、教育だと感じた。今年2月の内閣
府「科学技術と社会に関する世論調査」によると、科学技術についての話題や
ニュースについて、関心があるとするものの割合が5年前に比べ、5ポイント
下がっている。20代については10ポイントの低下。これは日本だけの傾向では
ないようだ。文科省としては新学習指導要領で観察や実験などの体験的問題解
決学習を重視するとしている。理科教育の内容の充実を図るとともに、科学技
術・理科大好きプランの施策を推進する。今年の科学技術白書でも科学技術と
社会を取り上げるなど広く国民を対象とした取り組みも行っている。

 産業界の方々と話す中で、会社の重役に発想が私と違うなという感じがあっ
たので、聞いてみると理系の人が多い。なぜかと尋ねると、景気の悪い大変な
時には理科系出身の理詰めなものの考え方や理系的な知識を基にした営業が有
効なのだという。是非、このことをこれから子どもや進路を考えている人たち
に考えてもらいたい。研究者としてだけでなく、企業においてトップとして活
躍している現状を見れば、子どもたちの進路選考にも大きな影響を与えるので
はないか。

 太陽が西に沈むことを知らない子が3割以上、もっと驚いたのは日の出、日
の入りを見たことがない小学生が四割いるという。いかに実体験がなくなって
いるかということ。もっと自然に親しみ、自然の摂理を実際に体感できる教育
を子供の頃からやるべきだ。

−−重点四分野推進について

 中山 ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の各分
野を重点的に推進。ライフ分野は、ヒトゲノム解読完了の成果等を踏まえ、世
界に先駆けた研究開発に重点的に取り組むとともに、感染症に関する研究等、
社会のニーズを踏まえた研究を積極的に推進。

 IT分野については、スパコン技術など、国際的に優位にある技術へ重点投
資し、世界に先駆けた実用化によって、国際競争力の強化を図る。環境分野で
は、地球観測サミット等を踏まえ、国際協力による地球観測システムの構築、
地球変動予測研究および環境対策技術の研究開発を推進。

 ナノテク材料分野は、我が国が強い競争力を持っているため、科学技術と産
業の発展基盤として、基礎的なものから実用化を展望した研究開発までを戦略
的に推進する。さらに、こうした研究を融合的に進め、融合新興分野の振興を
図る。安心・安全な生活のためにこうした四分野を活用していく。

−−エネルギー、海洋、宇宙等のビッグプロジェクトについて

 中山 重要であることは分かりながら、多額の予算を必要とするため、財政
再建の中では非常に難しい。しかし、日本が比較的に優位を保ちながら人類共
通の知的財産を創造するということから、できる限りやっていくことが必要。
総合科学技術会議の資源配分の方針を踏まえつつ、長期的なエネルギー供給の
ため、高速増殖炉もんじゅ等による核燃料サイクルの確立に向けた研究開発。
核融合エネルギーの実現のためのITER計画。基幹ロケットと位置づけられ
ているHIIAロケットの信頼性向上や準天頂衛星の推進、地球観測衛星の開発。
南極観測事業や地球深部探査船「ちきゅう」を中心とした深海地球ドリリング
計画。こういったものをできるだけ前向きにやっていくべきだと考えている。