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新首都圏ネットワーク


『山陰中央新報』論説 2004年10月26日付

県立大学の統合/大学の冬の時代に備える


 島根県立大学など島根県が設置している三つの大学と短大が統合した上、法
人化される。統合後の名称は島根県立大学。現在の三大学・短大のキャンパス
を存続させながら、三年後の二〇〇七年四月から短大部を持つ総合大学に生ま
れ変わる。

 少子化で大学入学志願者が激減し、希望すれば全員がどこかの大学に入学で
きる全入時代が〇七年に訪れる。学生確保をめぐる大学同士の競争が激しくな
り、競争から取り残された大学は淘汰(とうた)される。

 少子化で受験生は減っているのに、大学の数は増えている。定員割れも急増
するなど大学が過剰になる中でどう生き残るか。

 個性豊かで社会から必要とされる。受験生がぜひ学んでみたいと思うような
魅力のある大学−。それが生き残りの答えである。少なくとも「大卒」の肩書
だけをバーゲンセールする大学は社会から相手にされなくなった。

 県立大学の統合、法人化は、その答えを求めての改革である。しかし統合後
の県立大学が何を目指すのか、具体的なビジョンづくりはこれからである。

 その際、美辞麗句で塗り固めた言葉だけのビジョンは必要ない。地域にとっ
て必要とされる大学をどう目指していくか。具体的な目標を掲げながら、新し
い大学像を示してほしい。

 統合するのは、浜田市にある県立大学と県立島根女子短大(松江市)、県立
看護短大(出雲市)。統合後は県立から公立大学法人に変わる。

 統合に伴い女子短大の学科を再編するほかはキャンパス、学科構成、入学定
員などは現状のままとする。現在の二つの県立短大を継承する形で四年生の学
部に短大部を併設する。

 短大部を併設するのは、短大への進路の選択肢を県内に確保するためである。
地元の進路選択の幅を狭めないために、短大の役割を残すことは望ましい。

 法人化されると、教官人事や予算執行など運営面で大学の自主性が強まる。
教官は公務員ではなくなり、能力や業績に応じた人事システムが導入される。
限りなく私立大学に近づく。

 同時に教育や研究の成果をめぐって外部の専門家らによる第三者評価を受け
るようになる。その評価に応じて県からの交付金も調整される。

 三大学・短大の財務基盤は県費と授業料収入で支えられている。このうち県
費は年間十八億円支出され、人件費を中心とする大学予算の七割を占める。法
人化されても大学の自前の収入が増えるわけではない。県費に大学財政が依存
する構図に変わりはない。それだけに組織のスリム化に向けた大学側の努力が
求められている。

 法人化によって大学の独立性は強まる。その独立性は、大学の競争力強化に
向けて発揮されなければならない。統合後の県立大学の競争力をどこに求めて
いくか。

 大学の競争力は、大学の個性によってはぐくまれる。教育や研究を中心とす
る学的風土と地域への貢献が相まって個性を形成する。その個性を磨きながら、
新大学のビジョンとする。アカデミズム版の島根の存在証明でもある。