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新首都圏ネットワーク



he-forum各位

東北大川端先生より、東北大において「寒冷地手当の引き下げ」が検討されている旨、ご紹介がありました。

この問題は、一東北大の問題ではなく、少なくとも、東北地区の国立大学の労働条件(特に山形大学は、事実上東北大学準拠みたいな大学ですから)に著しい
悪影響を及ぼしかねない問題ですので、コメントいたします。

皆様ご承知のように、寒冷地手当をはじめとする賃金、諸手当は、就業規則によって金額、支給時期、支給方法などが規定されています。また、その内容は、
労働契約の一部をなします。

従いまして、寒冷地手当の引き下げは、就業規則の不利益変更、労働契約の不利益変更となりますので、原則として、使用者が一方的に行えるものではありま
せん。最も基本的なやり方は、個々の職員一人一人から変更の同意を取り付けることです(すなわち、労働契約の再締結)。

確かに、これまでのいくつかの判例により、就業規則変更による一括の不利益変更も、いくつかの条件が整えば、可能であるとされています。しかし、その条
件とは、単に人事院勧告準拠だからという程度の漠然とした理由では、満足できない厳しいものです。

従いまして、東北大職組におかれましては、以下の通説を踏まえ、そういった理由のない不利益変更は、断固拒否していただきたいと思います。

釈迦に説法でしょうが、以下に、一般的な解釈をご紹介いたします。特に(5)の多数(過半数ではない)労働組合の合意の有無が、合理性判断の重要な要素
であることを注目していただきたいと思います。
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就業規則の不利益変更の合理性について

 合理性があるか否かは、就業規則の作成・変更の必要性・内容とそれによって従業員が被る不利益の程度を比較考量して判断される。そして、合理性は、賃
金・賞与・退職金等従業員にとって重要な労働条件に関して実質的な不利益を及ぼす場合、高度の必要性に基づいた合理性でなければならない。
 そこで、当該合理性の判断要素を整理すると、次の7点に集約できる。すなわち、
 (1)就業規則の不利益変更によって従業員の被る不利益の程度
 (2)企業側の変更の必要性の内容・程度
 (3)変更後の就業規則の内容自体の相当性
 (4)代償措置その他の関連する他の労働条件の改善状況
 (5)多数労働組合又は多数従業員との交渉経緯
 (6)他の労働組合又は他の従業員の対応
 (7)不利益変更内容に関する同業他社の状況
の7点である。

(1)就業規則の不利益変更によって従業員の被る不利益の程度
 まず不利益の程度とは、賃金カット前の賃金とカット後の賃金を比べて、そのカット率が何%になるかである。カット率が高ければ高いほど、従業員の被る
不利益の程度が高いため、他の判断要素で強力に補強しないと、就業規則の不利益変更が合理性を有するとはいえない。

(2)企業側の変更の必要性の内容・程度
 次に必要性の内容・程度の中身については、会社にとって現実的でかつ具体的なものでなければならない。単に抽象的に規整緩和の時代だからとか自由競争
の時代だからと言うようなお題目は適切ではない。裁判所過去の判例によれば、次のような事例は、就業規則の不利益変更の合理性が認められやすい傾向にあ
る。
(ア)法律の要求に伴う必要性 
 週休2日制の実施に伴う労働時間の延長、定年延長実施に伴う賃金のカット等があげられる。
(イ)合併による労働条件統一に伴う必要性
 合併によって賃金カット等の不利益変更が実施されても、合併による労働条件の統一の要請が強く作用する。
(ウ)企業経営の破綻
 経営状況が破綻にいたるような重大かつ緊急な場合は、賃金カット等の不利益変更の必要性が認定されやすい。

(3)変更後の就業規則の内容自体の相当性
 就業規則の内容自体の相当性については、次の2点が注意点である。
(ア)不公平な適用は行わない(いわゆるねらい撃ち)
 具体的には、賃金カットを55歳以上の従業員に限定し、そのカット分を中堅層
に配分するというような事例である。これは、一部の従業員に対するねらい撃ちに当たるため相当性が認められず、その結果合理性もないと判断される。
(イ)移行措置を設ける
 3年程度の期間を設定して、逓減させた賃金カット率を適用するというような移行措置を設けると、相当性の判断にプラスの影響を及ぼす。

(4)代償措置その他の関連する他の労働条件の改善状況
 代償措置とは、賃金をカットするかわりに他の労働条件を有利に変更するという措置をとることを意味する。代償措置は合理性を備えるための極めて重要な
条件である。
 当該代償措置をとるための資金余裕がないために、代償措置をとらずに不利益変更を行う場合は、他の判断要素で合理性を補強する必要性がある。

(5)多数労働組合又は多数従業員との交渉経緯
 多数労働組合又は多数従業員との交渉については、必ず交渉を行い、同意をとっておく必要がある。最近の傾向として、合理性の判断において、多数労働組
合又は多数従業員の意思を尊重する傾向にある。すなわち、多数の者が不利益変更に同意しておれば、不利益変更の合理性が備わっているとみなされるといえ
よう。

(6)他の労働組合又は他の従業員の対応
 他の労働組合又は他の従業員の対応に関しては、これらの該当者に対しても十分な交渉・説明を行う必要がある。少数者といえども無視することなく十分な
交渉・説明を行い、不服を出さないよう努めるべきである。

(7)不利益変更内容に関する同業他社の状況
 最後に不利益変更内容の同業他社状況とは、自社の不利益変更内容が同業他社に比べて厳しすぎるか否かの検証を行う必要性があることを意味する。