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新首都圏ネットワーク


『中国新聞』社説 2004年9月26日付

広島大の社会連携 大学活性化の試金石


 広島大の産業界や地域との連携強化へ向けた動きが際立っている。今春の法
人化に合わせ社会連携推進機構が発足して半年。光電子部品メーカーなどと結
んだ「包括的研究協力」の協定は五件に達し、昨年一月から今年三月までに半
導体メーカーなどと結んだ三件を既に超えた。特許の出願件数も増えている。
大学が社会に開かれた存在として進む道の一つとして注目したい。

 研究協力は従来、新製品開発などを目指す企業との間で、分野を限り特定の
教官と進めるのが一般的だった。これに比べ包括研究は、製品開発の根幹だけ
でなく工場の操業に伴う環境対策や作業の効率アップなどさまざまなテーマで、
学部や大学院研究科を超え多彩な教官がかかわる点がユニークだ。気になるの
は経費負担だが、双方でつくる委員会が協議し、疑念を持たれないようにする
という。

 企業にとって新製品開発に欠かせない研究者はそろえても、環境対策などで
ハイレベルの専門家まで擁するのは難しい。そうした分野について知恵を借り
ることができる。大学は研究の新しいテーマを発見する機会が生まれる。具体
的な成果を要求される大学院生たちに格好の課題を提供できる。

 競争に勝つため、企業は常識を超えた発想で新製品開発を迫られている。新
しいテーマに柔軟に対応できる基礎研究の人材を多く抱える大学と連携する意
味は大きい。先駆的な広島大の試みは、京都大などに広がっている。

 企業との共同研究などを基に広島大が出願する特許は本年度一年間で百件に
達しそうだ。昨年度まで三年間の百十七件に比べ格段に多い。ただし現在まで
に製品化に結び付いたのは四件、進行中が二件にとどまる。実りはこれからだ
ろうが、取得した特許が実用化され、少なくとも使用料で手続き費用を賄えな
ければ長続きしない。連携する企業以外にも、地元を中心に広島大の特許の活
用を促進する取り組みが急務である。

 広島大はこれまでも地域を含めた社会連携に力を注いできた。推進機構は産
学の連携以外にもさまざまな試みを進め、学外からのさまざまな疑問に答える
ために設けている窓口への問い合わせは年間七百件前後。こちらは約六割が文
系の質問である。

 包括研究が進めば学部などの壁を越えた協議の機会が増え、とかく言われて
きた閉鎖的体質の解消につながる可能性もある。ただ、連携を「応用研究偏重」
「地道な研究の軽視」など疑問視する声は学内外にまだ多い。趣旨を浸透させ
る努力は欠かせない。

 国立大のなかでも、地方都市に立地する大学の生き残りは地域との連携なし
に考えられない。大学の成果が地域に広がれば学生も集まりやすくなり、大学
のレベルアップにもつながる。