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新首都圏ネットワーク


『しんぶん赤旗』2004年9月23日付

国立大学法人化の実態を追う(上)
教員の研究費、非常勤講師手当 削減が続出


 国立大学が今年四月に法人化してから半年近くがたちます。その実態を追っ
てみました。

教育研究に支障

 「法人化は国立大学の重要な役割をいっそう担うため」―昨年の国会審議で
政府は繰り返し表明しました。ところが、法人化初年度から、大学では各研究
室の教育研究費の半減や非常勤講師賃金の減額などが続出しています。

 国立大学の各研究室が自由に使える教育研究費は、これまでも理工系で教員
一人当たり百三十万円、人文社会系で二十八万円(二〇〇〇年度、文科省推計)
程度でした。これが大学によっては法人化で四〜七割へと激減し、「最新の研
究を紹介する学術誌の契約を打ち切った」「学生の卒業研究や制作活動の経費
もままならない」など、教育研究に支障がうまれています。

 国立大学の非常勤講師は全国で約三万人。この賃金単価を十一大学が一割減
額しました。多くの大学では、経費削減の名で大量の雇い止めを検討していま
す。首都圏のある大学では、非常勤講師予算を六割減らすため、英語を除き非
常勤の授業をすべて削減、既存の常勤教員にもたせる計画です。全国的に、非
常勤講師の大量失業と常勤教員へのしわ寄せが心配されています。大学の授業
数が減少する事態もおきかねません。

文科省による誘導

 文科省は、国立大学に対する今年度の運営費交付金を「従来と同額を措置し
た」といいます。にもかかわらず、こうした事態がなぜうまれたのでしょうか。

 原因の一つは、多くの大学で、学長などが自由に使う全学的経費を大幅に増
やし、基盤的な経費を圧迫したことです。中部地方のある大学では、全学プロ
ジェクトの推進経費や学科の入試倍率・就職率などに応じて配分する経費など
八項目の学長裁量経費を増やし、学部長の裁量経費を新設、予備費とあわせて
十二億五千万円を計上しました。各学部に配分する教育研究経費は二十二億円
に削減しています。

 文科省が、「学内の資源を柔軟に配分することにより、新たな研究教育組織
の再編や教育研究プロジェクトの実施などの取り組みを積極的、機動的に行う」
(六月八日の国立大学長会議)と各大学を誘導しているのです。

 また、これまで非常勤講師手当は、常勤教員給与と別枠で予算が確保されて
いました。文科省はこれらを一本化して運営費交付金を算定するしくみに変え、
常勤給与の欠員分の中から手当をだすように求めました。その際、文科省は
「人件費総額では減っていない」としながら、大学に対して「常勤で対応でき
るものを非常勤に依存していないか」などといって非常勤の削減をあおってい
ます。

削減計画がさらに

 政府は、来年度から運営費交付金を毎年1%ずつ削減する計画を決めていま
す(削減額は五年間で四百五十億円)。法人化にあたっての国会決議が「従来
以上に各国立大学の教育研究が確実に実施されるに必要な所要額を確保する」
としたことに反するものです。このために大学が厳しい状況におかれ、今年度
から経費削減をすすめていることもあります。

 さらに重大なのは、政府が来年度予算で競争的研究費(補助金)を大幅増額
することを理由に、運営費交付金のさらなる削減を検討していることです。
「競争的研究費や民間資金が潤沢に入る大学でなければ、経営が立ち行かなく
なり、学費値上げとなることは必至」と、削減計画の撤回を求める声が大学関
係者に広がっています。

 全国大学高専教職員組合は、七月の定期大会で「マイナスシーリングの付加
や効率化係数に反対し、運営費交付金の十分な確保を政府・文科省に要求して
いく」ことを決めています。

 (つづく)