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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』関西版 2004年9月21日付

非常勤講師つらいよ 大学側のコスト削減で待遇悪化
   

 全国に約2万5千人いると推計される大学の非常勤講師の待遇が、大学側の
コスト削減の動きで悪化している。電話1本、通知1枚で突然講義の担当を外
されるケースがあり、一方的な大学の都合に振り回されている状況だ。非常勤
講師がつくる組合は各大学と交渉し、待遇悪化を食い止めようと懸命だ。

 「来年度の講義は週3コマ(時限)まででお願いすることになりました」

 関西に住むある男性は6月、こんな郵便を受け取った。非常勤講師として語
学を教えている私大から届いたものだ。

 担当する週6コマの講義が半減するとの内容。年間で百数十万円の減収にな
る。「こんな重要な話を、紙一枚で済ませるなんて」と驚いた。

 男性はかつて複数大学で週に計20コマを持っていたが、この春、一気に4
コマを失った。「専任の担当を増やすため」などが各大学の言い分だ。授業の
始まる4月に、電話で「曜日の調整がつかない。今年は結構」と伝えてきた大
学もあった。

 「立場の弱い非常勤は大学に従うしかないと、半ばあきらめていた。しかし、
これ以上仕事が減ると家族を養えない」

 途方に暮れた男性が頼ったのが、関西圏大学非常勤講師組合だった。

 組合は私大に交渉を申し入れた。すると大学は「上限3コマという話は、新
規採用の非常勤講師にのみ適用する」と説明を修正。男性はひとまずほっとし
た。

 少子化の影響などで、授業のコマ数の削減はここ数年目立っている。科目の
3〜4割を非常勤講師に頼っている私大が、専任教員に仕事を移しコストを削
る狙いといわれる。

 さらに国立大も4月から、非常勤講師の賃金引き下げに動き始めた。

 89の国立大ではこれまで文部科学省と一体で、非常勤講師の賃金を確実に
確保してきた。だが4月の法人化で予算の使途は大学に委ねられ、30大学以
上が賃下げに走った。

 大阪外国語大(大阪府箕面市)で非常勤講師をしている女性は5月、通知書
で講義1コマあたり千円近い賃下げを知った。事前の説明はなかった。控室で
は同僚から「こんなに下がってる!」と不満の声が上がった。

 こうした動きを食い止めようと、組合は国立大とも交渉を始めている。7月
には京都大とも初めての交渉に臨んだ。

 組合は95年に前身の組織が発足。文部科学省とも交渉を重ねている。組合
員数は約100人。遠藤礼子・副委員長は「非常勤講師が集まって声を上げれ
ば、大学の考えを変える余地はある。だが一人ひとりでは立場が弱く、交渉に
不安を抱く人は多い」と話す。

 大学からみて、学生のニーズに沿った多様なカリキュラムを組むためには、
非常勤講師の存在は不可欠だ。待遇が悪くなれば講義への熱意が薄らぐのでは、
との指摘もある。国立大職員からも「非常勤講師を減らせば、不利益を被るの
は学生だ」との声が出ている。

 ■非常勤講師の待遇 非常勤講師組合が03年、全国の非常勤講師約480
人に尋ねたアンケートでは、専任ポストを持たない人の平均年収は約287万
円で、専任教員の約3分の1〜4分の1。ほぼ半数が250万円以下だった。
平均年齢42・4歳で、本の購入、コピー、学会参加などの費用は自前で負担
していた。組合のホームページはhttp://www.hijokin.org