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新首都圏ネットワーク


『科学新聞』2004年9月17日付

中教審 高等教育の将来像示す
「緩やかな機能分化」支援へ


 中央教育審議会は9日、「我が国の高等教育の将来像(審議の概要)」をま
とめた。各大学が緩やかに機能分化していくという時代認識を示した上で、破
綻する大学がでても学生を守る保証システムの構築、教育内容や財務状況など
の公開、大学院教育の再整理など、今後の高等教育全般についてのあり方を示
した。公財政支出についても、競争的環境の中で国公私それぞれが緩やかに機
能分化していくための支援方策を示した。文部科学省はこれを受けて17年度予
算編成に臨むとともに、高等教育政策をより競争的な方向へシフトしていく。

 18歳人口が減少を続ける中、大学・短大の収容力は2007年には100%に達する
と見込まれている。また、IT技術の発展等に伴い履修形態の多様化と大学の
国際展開が加速し、誰もがいつでも学べる高等教育、ユニバーサル・アクセス
が実現する。そのため、各高等教育機関には、個性・特色の明確化が一層必要
になる。

 特に大学は、(1)世界的研究・教育拠点、A高度専門職業人養成、(2)幅広い
職業人養成、(3)総合的教養教育、(4)特定の専門分野(芸術や体育等)の教育
研究、(5) 地域の生涯学習機会の拠点、(6)社会貢献(地域貢献・産学官連携等)
等の機能を併有するが、各大学ごとに保有する機能や比重の置き方は異なる。
その比重の置き方が大学の個性となり、各大学は緩やかに機能別に分化してい
く。

 競争的環境の中では、事前・事後の評価の適切なバランスによる高等教育の
質の保証が極めて重要になる。そのため、大学教員の質の審査等、設置認可の
役割を明確化し、的確に運用するとともに事後評価システムを発展させる。ま
た、学習者のために各機関が教育内容・方法や財務状況等を開示するとともに、
認証評価機関による外部評価を受けなければならない。さらに経営困難に陥っ
た場合に、在学生が困らないよう関係機関の協力体制を作っておくことが必要。

 大学院教育を充実するため、学位を与える「課程」中心の考え方に再整理し
ていく。修士課程は、(1)研究者等養成の第1段階、A高度専門職業人養成、
(2)21世紀型市民の高度な学習需要への対応―という3つの機能を担い、それ
ぞれに体系的な教育課程を編成しなければならない。

 博士課程は、創造性豊かな優れた研究開発能力を持ち、産学官を通じたあら
ゆる研究・教育機関の中核を担う研究者、確かな教育能力と研究能力を備えた
大学教員を養成する。専門職学位課程は、法曹、MBA・MOT、公共政策、
教員養成等をはじめとして多様な分野で創設・拡充し、各種の高度専門職業人
が養成されることで、社会全体の流動性を高め、活性化に貢献することが期待
される。

 また学部について、学士課程は21世紀型市民の育成を目的としつつ、教養教
育と専門基礎教育を中心に主専攻・副専攻を組み合わせた総合的教養教育型や
専門教育完成型など、様々な個性・特色を持つものに分化し、多様で質の高い
教育を展開。教育の充実のため、分野ごとにコア・カリキュラムを作成し、そ
の実施状況と大学評価を結びつける。

 修業年限については、従来通り学士課程を4年かけて卒業する経路の他、修
士・博士・専門職学位課程において学部3年修了による大学院進学を活用。専
門教育完成型においては、4〜6年の間で分野の特性に応じて修業年限が定め
られる。

 高等教育への財政的支援は、競争的環境の中で高等教育機関が持つ多様な機
能に応じた形にシフトし、機関補助と個人補助の適切なバランス、基盤的経費
助成と競争的資源配分の有効な組み合わせにより、多元的できめ細やかなファ
ンディングシステムを構築。これにより、国公私それぞれの特色ある発展と緩
やかな役割分担、適正な競争条件の確保を目指す。

 具体的には、国立大学運営費交付金等は、経営努力を求めつつ、政策的課題
への各大学の個性・特色に応じた取り組みを支援。私学助成は、基盤的経費の
確保を図りつつ、傾斜配分の考え方に基づいて、特別補助や高度化推進特別助
成に相当する部分を拡充する。科研費や21世紀COEなど、国公私を通じた競
争的・重点的支援は大幅に拡充。経済産業省などの企業向け研究費補助金を大
学へ開放するとともに、間接経費の充実が必要。さらに奨学金等の学生支出を
充実する必要がある。