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新首都圏ネットワーク


『毎日新聞』西部朝刊 2004年9月15日付

NEWSインサイド:九州大新キャンパス移転 実情は状況任せの国頼み

 ◇学長「着実なプラン」強調も…

 九州大の梶山千里学長は14日、記者会見し、新キャンパス移転計画の遅れ
と大幅変更を正式に発表、「より着実なプランができたと喜んでいる」と強調
した。だが、学長の言葉は、これまでのプランが事実上、行き詰まったと認め
た形だ。スタートから13年。教授たちの設計図は、どこで綻(ほころ)んだ
のか。今後、事業を立て直し、完成させることはできるのか。計画の縮小も懸
念され、来秋の工学部移転開始を前に、総額2000億円超の大型プロジェク
トは岐路に直面している。

 「先に用地取得を進めることにします」。台風18号が荒れ狂った7日、梶
山学長は福岡市役所に山崎広太郎市長を訪ね、切り出した。

 借入金の金利負担を減らすため、移転と建設を4年間中断し、完了時期を遅
らせてでも、土地取得を急ぐ方針転換が、伝えられた。

 計画変更を余儀なくされたのは8月、05年度概算要求で文部科学省との折
衝を通じ、国からの予算が今以上には増えないと引導を渡されたのが引き金だっ
た。

◇ばらまき予算が一変

 九大に用地買収費が認められたのは98年度から。265ヘクタールを計画
通り09年度までに市土地開発公社から買い取るには、金利を含めて毎年40
億円の資金が必要だった。

 当初は順調だった。98年度補正=100億円▽99年度=24億円▽00
年度=37億円▽01年度=42億円。「景気回復」「科学技術振興」を旗印
にした小渕・森両政権のバラマキ予算の波に乗った。

 しかし、小泉政権の誕生で状況は一変する。緊縮予算のあおりを受け、02
年度以降は3年間、毎年24億円に減り、計画に黄信号が点滅し出した。

 「これまでのプランは、財政的裏付けを詰めた話ではなかった。今回の見直
しを、延期とか凍結とか後ろ向きにとらえないでいただきたい」

 計画変更を発表した14日の記者会見で、有川節夫・新キャンパス担当副学
長は、旧プランを否定するのに躍起だった。

 しかし、文科省の担当者は「九大は、まったく状況任せの国頼み。何か打開
策を持っているわけではないようだ」と先行きを心配する。梶山学長が「今後、
補正予算が付いたり六本松キャンパスが順調に売れると、完了年度は再び前倒
しできる可能性もある」と漏らしたのは、その表れだ。

 見通しの甘さが露呈したのに、事業担当の一人は「中央でも大学でも政権が
代われば見直しは当然」と反省は薄い。計画より遅れ、20年近くもかかって
移転した広島大の例を挙げ「それぐらい腰を据えてやらなければ」とすらうそ
ぶく。

 ◇移転は負担?

 事業の漂流に翻弄(ほんろう)されるのは、1万人を超える学生や街作りの
現場だ。

 「多くの学生は延期を喜んでいるのではないか。郊外に移転したいのは偉い
先生たちだけ」(工学部4年)「週に1回、遠く離れたキャンパスに通うのは
すごい負担だ」(同修士課程2年)。

 九大が財源に当て込む六本松キャンパス跡地利用も、市は商業と業務・居住
の区域分けを終えたばかり。具体化には最低2年はかかるため、売却を急ぐ九
大の思惑通りに運ぶ保証はない。

 旧プランを作った元副学長は「私の計画は、郊外と都心の股(また)裂き期
間をできるだけ短縮するのが狙いだった」と、安易な延期・凍結を批判。「大
学法人化で評価基準も厳しくなり、ノーベル賞受賞者でも出ないと予算確保は
難しい」と悲観的だ。

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 ◇計画見直しの柱◇

★移転完了は最大5年遅れ

★新キャンパスは05〜11年度まで工学系のみ

★理学系・文系6学部は08〜11年度の間、移転凍結

★工学系移転後、六本松キャンパスは箱崎に統合