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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』愛知版 2004年8月28日付

地方でも改革(下)

副学長自ら「営業」

 7月下旬、瀬戸市の名古屋学院大学に「飛び込み営業」があった。

 「小学校教員の免許が取得できるコースを大学院に設けました。ぜひ学生に
紹介してください」

 熱い口調で売り込む「営業マン」は、愛知教育大学(刈谷市)の松田正久副
学長(56)だ。

 4月に法人化された国立大学は、自立して生き残ることに必死だ。愛教大も
ほかではない。副学長自らが来年度新設のコースを売り込むのは、危機感の表
れでもある。

 この日は午後から、副学長ら教授たちと入試課長らの職員がペアになり、3
組6人が県内の私立大学12校を、事前アポイントなしで回った。

 松田副学長から熱心な説明を受けた名古屋学院大学の清水克正・外国語学部
長は「黙っていても学生が集まる国立大が、私大に足を運ぶなんて今までは考
えられなかった」と驚く。愛教大の教職員は7月末までに県内の計29大学を
訪問し、新コースを宣伝した。

国立大、自立へ増収模索


 県内250校訪問

 同コースは、一般大学では小学校教員の免許が取れない点に目を付け、最近
採用が増えた小学校教員を目指す他大学の卒業生の確保を狙う。

 同大の大学院(定員150人)は毎年20人程度の定員割れが続く。授業料
などの初年度納付金約80万円は、大学には大きな自己収入になる。松田副学
長は「大学院は定員の2倍まで合格者を出せる。少なくとも定員割れは解消し
たい」と、学生確保に力を注ぐ。

 学部の受験生確保にも熱心で、9月から県内のほぼ全高校約250校を教職
員約120人が手分けして訪問。県外出身の教職員は盆休みの帰省時に母校の
高校を訪問したり、大学案内や受験案内を送ったりと忙しい。

 国立大の法人化で4月に全国で89法人が誕生した。授業料や入学金、施設
利用料などは自己収入となり、愛教大では予算の約3割の約25億円に上る。
国からは運営費交付金として約53億円配分される。今後5年間、交付金は毎
年約1%ずつ減らされるが、交付金の使い道は自由で、組織の再編や、上限1
0%の枠内での授業料の変更も大学の裁量にゆだねられる。


 学生は「顧客」

 愛教大では4月以来、矢継ぎ早に新しい試みを打ち出した。

 付属高校の来春以降の入学生を対象に、優先入学を認める特別枠「高大連携
選抜入試制度」の新設。「顧客」である在学生へのサービスとして、10月か
ら毎週決められた時間に教員が研究室に在室して学生からの質問を受ける「オ
フィスアワー」も取り入れる。「研究室に何度行っても先生に会えない」とい
う学生の不満解消が狙いだ。

 すべての試みが成功しているわけではない。

 田原賢一学長自身が学生の意見や要望を聞く全学会議を5月に初めて開催し
たが、学生参加者はわずか25人だった。会議の開催に協力した大学院1年生
の吉岡寛さん(23)は「大学側が学生の意見に耳を傾ける制度を作ったこと
は評価できる。学生へのPRが不十分で、学生側の意識も低いのが残念」と話
す。

 一方、同大では、教員や学生から駐車場代を新たに徴収するなどの増収策の
検討も始めた。

 改革が自己収入増の面のみに向かいがちな点には、批判もある。

 「教育大学らしい独自の取り組みはなかなか難しい。今後の検討課題」と松
田副学長は認める。国立大の淘汰(とうた)につながる競争原理を掲げる政府
方針には納得できない面もあるとも言う。しかし、その上で「研究費や優秀な
教職員を確保するため、自己収入を増やす努力や教職員の意識改革は避けられ
ない」。

 早ければ07年度には大学全員入学時代が到来するといわれる。変革の波に
どう対処し、教育の質を向上させることができるか。改革の意義が問われてい
る。