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新首都圏ネットワーク


新大学発足は一年延期を
-東京都の進める新大学構想と今後の方向についての緊急意見表明-

2004年8月9日

 2003年8月1日、石原東京都知事は定例記者会見の場で、3年以上の年月をかけ
て検討されてきた東京都の大学改革案を一方的に破棄することを表明し、ほと
んど思いつきでしかないような新構想を発表した。

 それから1年、都立4大学の教育・研究の場は混乱と分裂に陥れられ、営々と
して築かれてきた教育・研究の蓄積は取り返しのつかないかたちで破壊されつ
つある。

 そして去る2004年7月15日、文部科学省の大学設置・学校法人審議会は、東京
都の計画している新大学の7月末早期設置認可を行なわない決定をくだした。そ
の理由としては、4月末に都が申請した教員予定者のなかから25名が新大学への
就任を承諾しなかったという点が挙げられているという。

 以下において私たちは、「開かれた大学改革を求める会」を拠り所としてこ
れまで東京都の新大学構想の問題点を指摘してきた立場から、現在及び今後の
状況への私たちの共通認識を示し、それに基づいた意見を表明する。去る8月3
日付で「4大学教員声明呼びかけ人会」より声明「新大学を巡る危機的状況に対
し、全ての関係責任者に緊急対応を求める」が出されている。この声明に示さ
れた方向性を私たちも共有するとともに、さらにもう一歩踏み込んだ提起を行
なうものである。

1 現状についての認識

 「就任承諾書」提出の段になり東京都立大学のなかから25名の非就任者が出
たことによって、文科省設置審は新大学の早期認可を見送ることになった。し
かし実際には、昨年8月以降、「意思確認書」非提出者、他大学への転出者を含
め、新大学への就任を肯わなかった教員は、定年退職者を除いても約100名にの
ぼっている。

 この事実は、昨年8月1日以降大学管理本部が提示してきた新大学構想及びそ
れを推進する手続きが致命的な欠陥を抱えていることを、何よりも雄弁に物語っ
ている。

1)「就任承諾書」提出の前提として人文学部教授会が6月17日付で決議した3
項目(大学院構想の明確化、現行の身分保障・雇用形態の堅持、人事権等の教
授会自治の保障)については、表面上約束されたかにみえる第1点(大学院構想)
を含め、教員側が納得のできるだけの見通しはいまだ立っていない。

 とりわけ任期制・年俸制導入、教授会自治の否定は、憲法・教育関連法規・
ユネスコ憲章への違反を公言したに等しく、大学像そのものを設置者の恣意に
よって設計できる〈事業所〉水準へと変貌させるものに他ならない。

2)この間大学管理本部は、現行大学2004年度予算において新大学での基準に
合わせた「傾斜配分」を強行している。さらにその執行すら、2003年度に教職
員組合が行なった大衆要請行動に対する東京都人事部の組合執行委員処分案を
大学側が遵守しなかったとの理由で、差し止めると脅迫してきた。

 このように無関係の事柄を盾に大学自治に介入してくる大学管理本部の姿勢
は民主主義の原則を根本から踏みにじるものであり、とうてい容認しうるもの
ではない。さらにまた、こうした事態が頻発する現状は、管理本部と大学との
間に、私たちが一貫して求めてきた「真に開かれた協議体制」が成立していな
いことの何よりの証左である。

3)第4回経営準備室運営会議(2004年7月9日)で示された「定款(たたき台)」
には、さらに多くの問題が含まれている。

 そもそも、新設される公立大学法人の目的(第1章第1条)として挙げられて
いるのは《大都市における人間社会の理想像を追求すること》を使命とするこ
とのみで、本来大学が追究するべき〈真理・普遍性の探究〉が等閑視されてい
る。つまりこれでは、その時々の首長らの恣意によって教育・研究の方向性が
左右されかねず、学問の自由が侵害される懸念が大きい。

 また、法人の決定機関としての合議制による理事会の規定もなく、理事長、
副理事長という経営側の権限が圧倒的に強く、教学事項の代表者である学長、
各学部長を学内選挙によって選出する制度もない。

 開学予定時まで半年あまりとなった時点で、新法人・新大学がどのような組
織として営まれるのか細部はいまだ不明であり、東京都庁、大学管理本部側の
一方的な権限強化ばかりが目立っている。

 こうした大学構想が明瞭になるにつれて、いったん「就任承諾書」を提出し
た教員のなかからも新大学への就任を回避する者が現われ、混迷に拍車がかか
ることも充分想定される。

2 今後の見通し

 新大学の設置認可は最速の場合でも9月末であり、2005年4月新大学発足の認
可がおりるか否かにかかわらず、さまざまな混乱が続出することは必至である。

1)文科省設置審が早期認可を見送ったことにより、直接には新大学暫定大学
院のうち社会科学研究科、理学研究科、工学研究科が9月に予定していた入試を
延期せざるをえなくなった。また9月認可も見送られた場合、推薦入試実施を中
止する可能性も生じてくる。

 さらに、たとえ9月認可がおりたとしても、新大学の入学試験に関する検討・
準備体制がまったく整えられないままに、入試に向けた実務作業だけが進行し
てしまっている現状は由々しき事態である。言うまでもなく、入学試験は大学
にとって最も重要で最も慎重を期さねばならない業務の一つである。しかし、
新大学に所属する教員数は昨年度から大幅に減少し、さらに専門分野から見て
も万全を期した人員配置にはなっておらず、このまま従来通りの入試を強行す
るならば、社会的に大問題となる事故を引き起こしかねない。新大学の教員配
置と入試科目を綿密に再検討し、万全の体制で入試を行える状況にあるかどう
か、早急に吟味しなければならない。

2)昨年8月以降新大学への就任を選ばなかった教員はいまや約100名にのぼり、
教員流出は堰き止めがたい状態となっている。この間、教員の補充は原則とし
て禁じられる一方、少数部門で行われた教員公募への応募数は驚くほど少ない
と伝えられている。さらに文科省「21世紀COEプログラム」事業推進者である経
済学コース切り捨てや、教員の教育・研究業績を無視した「オープンユニヴァー
シティ」配置案などは、明らかに教員の志気を殺ぎ、大学の活力を減退させて
きた。

 また、すでに「ベネッセ難易ランキング」の結果からも読み取れるように――
大学の価値を受験生偏差値で計量できないことは当然にしても――新大学は受
験生にとって魅力のない大学と受け止められていることが明白となった。新大
学が受験生・学生からも教員・研究者からも評価されない大学であることは、
今後いっそう公然の事実となってゆくと予想される。

3)2005年4月より1法人5大学という枠組みで発足するということであるが、そ
の教育・事務体制が具体的にどのように組織されてゆくのか、いまの段階でも
あまりにも不確定な事項が多い。とりわけ、新大学が発足しても初年度は全体
の8割を占める現行大学所属学生にいかなるかたちで教育保障がなされるのか、
責任ある計画案はまったく作成されていない。

 一例を挙げるなら、今年度までB類生の受講も考慮して5限・6限に置かれて
いた非常勤講師による重要科目は、新大学では必然的に昼間に設定されること
になるが、それらの科目が現行のB類生のために非常勤講師のコマ数を増やし
て夜間にも置かれる見通しはまったく立っておらず、B類生は非常に不安に感
じている。

 あるいはまた、都立大学大学院の博士課程に在籍する大学院生にとっては、
2010年度までは東京都立大学大学院教授会で従来通りの論文審査がなされ、東
京都立大学の名称で博士号の授与がなされるかどうかは、一生を左右する大問
題であるのに、それについても何ら検討が行なわれてきていない。大学管理本
部は早急にこの点について大学院生に説明するべきである。また人文科学研究
科では博士論文作成計画書を提出した院生には、大学院退学後も指導を続け3年
以内に学位論文を執筆させる努力がなされてきたが、そのシステムも当然のこ
とながら2013年度までは保障される必要がある。そのためには、都立大学大学
院教授会も2013年度まで存続しなければならないことになるのである。

 それ以外にも、現行大学に対する予算配分や、2大学が併存することになる南
大沢キャンパスにおける施設利用・時間割等、ごく基本的な事柄の調整すらで
きていないのが、偽らざる実情である。

3 私たちからの提起

 上記の現状と見通しをいっさい理解しようとしない東京都大学管理本部の姿
勢は、大学を統括する機関としてまったく体をなしていないと言わなければな
らない。いまこそ大学管理本部は、以下に述べる私たちからの提起を真摯に受
け止め、実行に移すべきである。

 また、東京都立大学総長、部長会、評議会など大学執行部においては、現大
学の教学事項に全責任を負う立場から、こうした現状を冷静に認識し、すでに
発表された「4大学教員声明(8月3日)」の提起とともに私たちからの提起を
実現するべく、勇気ある決断に踏み切るよう要求するものである。その決断こ
そが、 2004年1月27日付都立大学評議会声明の精神にもかなうはずである。

1)新大学と新大学院は2006年度に同時発足させるべきである。

 以上のような数々の難点を放置したまま2005年4月の新大学発足を拙速に強行
することは、現在在籍する学生だけでなく、受験生、新大学入学生に対しても
無責任、不誠実であり、さらには、将来的に取り返しのつかない悔いを残すこ
とになる。大学の社会的責任を考えるなら、次の措置こそ現在選びうる途のな
かでもっとも妥当なものである。

 東京都大学管理本部は新大学の2005年度発足をいま速やかに断念する。大学
院入試等可能なかぎりで現行大学での入試を行ない、現行大学継続を一年延長
させる。そのうえで綿密な計画を練り直し、新大学院と一体のものとして2006
年4月の新大学開学を目指す。

2)大学管理本部は2003年8月1日以降の異常事態を清算するべきである。

 その際、当然ながら、現在のような混乱と大学破壊をもたらした2003年8月1
日以降の新大学案及びそれを推進する乱暴な手法を大学管理本部は撤回する。

3)いまこそ真に開かれた大学改革を。

 新大学発足を一年延ばしても残されている時間は決して多くはない。それを
有効に使いうるよう、都立4大学構成員が積極的に参加できる「真に開かれた協
議体制」を速やかに構築するべきである。そのような体制を実現してはじめて、
大学のありうべき姿を真摯に考えるからこそ新大学への就任を承諾しなかった
教員をも含めて、都立4大学の教員が新大学構想に全力を傾注してゆく条件が整
うと考える。

【声明呼びかけ人】「開かれた大学改革を求める会」有志
代表:西川直子(人文・教員)

川合康(人文・教員)/ 小西いずみ(人文・助手)/ 杉田真衣(人文・院
生)/ 高松百香(人文・院生)/ 高本教之(人文・助手)/ 中川美和
(人文・助手)/ 初見基(人文・教員)/ 藤原真実(人文・教員)/吉田
達也(人文・院生)[50音順]

【賛同人】飯田勇(人文・教員)/ 石川知広(人文・教員)/ 大久保康明
(人文・教員)/ 岡本順治(人文・教員)/ 荻野綱男(人文・教員)/ 
荻原耕平(人文・院生)/ 小野真紀子(非常勤)/ 菅野賢治(人文・教
員)/ 小林賢次(人文・教員)/ 小竹澄栄(人文・教員)/ 宍戸江利花
(人文・学生)/ 柴田努(経済・学生)/ 高村学人(法・教員)/ 田代
昌志(人文・学生)/ 田和真紀子(人文・院生)/ 野口華世(人文・O
D)/ 文洋(人文・助手)/森善一(工・助手)/ 山下剛史(人文・学生)

[50音順・8月10日16:20現在]

*《OD》の表記は退学後3年内で目下論文指導を受けているオーバードクター
を指します。この場合、かつて所属されていた研究科名を表示してある点をお
断わりします。

お願い

 東京都立4大学の教員・職員・学生・大学院生皆様のなかで本声明に賛同され
る方は、《賛同人》としてお名前を載せさせていただきます。多数の方のご賛
同をお願い申し上げます。

 呼びかけ人に直接お伝えくださるか、下記電子メールアドレスまでご連絡く
ださい。

 いずれでも、賛同人ご氏名の他、「所属大学・学部ないし研究科」及び「教
員」「職員」「助手」「学生」「院生」「オーバードクター」(退学後3年以内
で論文指導を受けている者に限る)の区別をご明記ください。お名前の読み方
(ふりがな)も忘れずにお願いします。またご本人のご連絡先もお記しくださ
い。

 なお匿名を希望される方はその旨ご明記ください。その場合でも、上記事項
はご記入ください。賛同人一覧では《匿名》として所属と身分のみ表示します。

 いただいた個人情報を他の用途に用いることはいっさいしないこと、そして
「声明」内容が失効したと見なされた時点でそれをすべて破棄することをお約
束します。

声明賛同人お申し出のためのアドレス:seimei_sando@yahoo.co.jp

 なお「開かれた大学改革を求める会」へのご連絡は従来通り以下のアドレス
でお願いします。
開かれた大学改革を求める会:hirakaretadaigakukaikaku@yahoo.co.jp