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声明 「新大学を巡る危機的状況に対し,全ての関係責任者に緊急対応を求める」 文科省大学設置審は、人文学部を中心に就任承諾書非提出者が25名にのぼっ たことにより、4月に提出された「首都大学東京」の設置申請内容と7月3日 提出の書類・資料の内容との間に大きな変更があるとして、早期認可を見送っ た。この管理本部の予想を越えた数の非提出者が出た背景には、新大学の運営 に関わる基本問題として、教授会の人事権の剥奪と任期制・年俸制による身分 の不安定化などが招く教育研究の質の低下について、多くの教員が懸念してい るという事実がある。新大学の責任者である高橋宏理事長予定者と西澤潤一学 長予定者には、この基本問題の解決策を提示し、新大学への参加を考えている 教員が安心して教育研究に専念できる環境を早急に整えることを求める。 さらに、来年度からは、法人化される新大学の発足と同時に、現4大学と新大 学が少なくとも2010年度まで併存することになる。その場合、在籍学生と新入 学生の双方に対する教育研究が十全に保障されなければならない。これらの点 に関連して、現在は新大学の形式的開学準備作業に追われているのみであり、 現4大学と新大学の併存に備えた運営上の多くの課題、事務組織、教員組織、カ リキュラムなどに具体的な対応策が検討されていないことに、私達は非常に大 きな危惧を感じざるを得ない。 私達は、こうした状況を心底から憂慮し、責任ある立場に立つ関係者(理事 長・学長予定者,都大学管理本部,現4大学執行部)が、以下に指摘する現状 の問題点に関して、その打開に向けて早急に具体的な方策を考え、実行するこ とを強く求める。 1.新大学運営に関わる新たな問題:新大学法人の定款 前述の通り、新大学の運営に関わる重大な基本問題として、教授会に人事権 がないこと、任期制・年俸制による教員の身分の不安定化が教育研究の不安定 化に直結することが、既に指摘されている。最近、新たな基本問題として、新 大学法人の定款案が注目される。大学管理本部案によれば、「事務局長が学長 を越える権限を持つ」様に位置づけされている。大学の基本使命は、次の世代 に有為の若者を教育することであり、直接に教育の現場を担当する教員の代表 である学長に重要な役割と権限を付与されるべきことは、先に法人化された国 立大学の例を見ても明らかである。管理本部案の通り、事務局長が学長を越え る権限を有することになれば、経営的観点が優先される危険性がある。 さらに、管理本部案によれば、教員と共に大学運営の両輪となるべき法人固 有職員の配置が、任期付職員と人材派遣職員によるとされており、教員と協力 して学生を育成する主体としての事務部門の専門家を育てつつ配置する配慮が 根本的に欠落している。 2.新大学構想に起因する大学の内部崩壊の現状 新大学構想について大学管理本部側が如何に喧伝しようとも、優秀な教員の 大量流出と、大学入学志願者の新大学に対する低い評価という現実は、新大学 発足前に既に内部崩壊が始まっていることを明白に示している。 まず、現在の4大学に在籍する優秀な教員の大量流出が既に始まっており、そ の速度が加速していることである。就任承諾書の非提出者は表面上は25名であ るが、新大学へ移行しない教員としては、その他に、意思確認書を提出せず就 任承諾書以前に移行を拒否した者(法学部一部教員、経済学部COEグループ等) がおり、また、他大学への転出者がいる。4大学教員の数は、昨年の時点で合 計601人(助手を含まず)であったが、新大学への就任承諾書を提出したのが 485人であり、2003年度、2004年度の2年間で116人減少することになる。これは、 他大学への転出者と退職者(定年退職者を含む)の総数が、91人にものぼり、 およそ100人近い数の教員が都立4大学から出ていったか、あるいは出る予定と いうことになる。大学の教育・研究の質は人によって決まるものであるとは常々 言われることであるが、都立の大学においては、まさに優秀な教員の流出によ る崩壊が始まっているのである。さらに、最近のベネッセ主催総合学力模試の 結果では、新大学受験希望者の大幅な減少と偏差値の低下が報道されている (注)。これは、新大学が受験生、都民・国民にとって魅力の無いものであるこ とを表しており、大学の活力となる学生の面からも崩壊が始まっていることを 示している。 このように内部崩壊が既に始まっている背景には、私達が声を大にして正常 な協議体制による現場教員の積極的な参加を求めてきたにもかかわらず、大学 管理本部が現在の4大学との開かれた協議体制を拒否し、都市教養学部の設置 理念や構成を受験産業に委託したり、一部教員を取り込んだ上意下達の新大学 作りを強行して、多くの現場教員や学生院生の声を無視し続けて一方的に進め てきたという、昨年8月1日以降の推移がある。この危機的な状況を生じさせ た責任が大学管理本部や理事長・学長予定者にあることは明白である。 3.現大学との継続性を無視し、全体の展望を持たない新大学移行作業の危 機的な現状 4大学の現場では、新大学への多量の移行準備作業が、現大学との継続性を無 視して行われていること、新大学の全体を見通した展望のないまま進められて いること、などに失望感が高まっている。この準備状態のままで来年4月に新大 学の開学を迎えた場合に生じる混乱がどこまで波及するのか、現場の憂慮は管 理本部で正確に把握されていない。 現大学との継続性に関する最大の問題点は、在籍学生に対する少なくとも 2010年度までの学習権の保障とそれに見合う教員の確保と処遇問題である。た とえ、来年4月に新大学が開学したとしても、新大学の学生数は、大学院学生も 含めた全体の2割に過ぎない。2010年度までの現大学に在籍する多数の学生に 対する学習権の保障は、昨年以来、山口(前)管理本部長自ら言明した通り新 大学の責任者が第一に具体的措置を講じるべき事項である。それにも拘らず、 現在は来年4月の新大学開学準備のみが優先されている。その結果、新入学生と 在籍学生に対するカリキュラム保障の確認やそれに必要な教員や職員の確保な どが放置された状態にある。 このまま推移すると、時間の経過と共に新大学の不備の全体像が明確になる につれて、教育者として責任を持てなくなり、就任承諾書の新たな撤回者が出 る事態も十分に想定される。 4.現4大学との開かれた協議体制の一層の必要性 以上の通り、来年4月の新大学への移行に向けた現状は、危機的な状態にある。 この危機的現状は、教員の教育研究を通じた社会的倫理的責務・使命の遂行に 必要な学問の自由のための教員の地位・権利の保障という憲法23条や高等教育 に関する国際常識としてのユネスコ宣言(1998年の「21世紀の高等教育宣言?展 望と行動」、および、1999年の「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」等) の精神を認めない大学管理本部や理事長・学長予定者の基本的態度に起因して いる。同様に、「最も重要な要素である自主性に常に配慮しつつ、大学側と十 分に協議しながら双方の協働作業として進めていくという姿勢が何よりも必要」 と述べている公立大学協会見解(昨年10月2日)からの逸脱もまた、この危機を 招いた主要な原因である。これは、大学の自主性・特質の無視、教員の基本的 人権・権利の蹂躙であるとともに、都民・国民・人類に対する教員の使命遂行 への挑戦であり、教育基本法10条(教育行政)、学校教育法59条(教授会)、 教育公務員特例法などの諸法令に対する冒涜である。これらの事態を打開する ために、4大学教員声明の会は、関係者に次の諸点に真摯に取り組むべきである ことを提起する。 第一は、最高責任者である理事長予定者および学長予定者が、上記に述べた 基本問題の重大性を認識して、早急に解決策を提案し、現大学との開かれた協 議を開始すること。 第二は、大学管理本部長は、現大学の学生に対する学習権を保障するために、 A類学生とB類学生とに対する教員・職員の配置と確保を行うこと。そのために、 現大学の執行部との協議も含めた準備作業を速やかに開始すること。 第三は、新大学学部長予定者は、新大学準備については、恣意的立場を捨て て、公平で透明な運営を図る立場に立つこと。この点については、理事長・学 長予定者の責任問題に直結することを指摘する。 5.新大学への移行時期について 通常、大学の改革は2年以上の期間をかけて慎重に準備し実行するものである。 しかし、新大学(「首都大学東京」)においては、昨年8月1日の突然の新大学 構想の発表から1年余りで移行作業を行おうとするものであり、加えて、上述の ように在籍学生と新入学生に対して別個の大学が学習環境と学習権の保障を両 立させなければならないという重大な問題を擁している。新大学については、 時間が無いことを唯一最大の理由にして拙速に開学し、今後の長期に及んで禍 根を残すのではなく、1年間の準備期間を追加して、新大学と法人のあり方に関 して十分に事前検討を行って将来の発展の見通しを持った新大学を目指すこと も選択肢に入れることを、新大学の最高責任者である理事長・学長予定者に求 める。 (注): http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2005-nyushi/shibou-doukou/moshi-3nen6m/daigaku-data/ 2004年8月3日 4大学教員声明呼びかけ人会 東京都立大学人文学部:飯田勇、川合康、西川直子、初見基 東京都立大学法学部:米津孝司 東京都立大学経済学部:浅野皙 東京都立大学理学研究科:甲斐荘正恒、神木正史、小柴共一、三宅克哉 東京都立大学工学研究科:渡辺恒雄 東京都立科学技術大学:山田雅弘,湯浅三郎 東京都立短期大学:前田庸介 連絡担当者 都立大学人文学部 川合 康 kawa@bcomp.metro-u.ac.jp 都立大学理学研究科 小柴共一 koshiba-tomokazu@c.metro-u.ac.jp 都立大学工学研究科 渡辺恒雄 tsuneo@eei.metro-u.ac.jp 都立科学技術大学 山田雅弘 myamada@cc.tmit.ac.jp |