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「汚い」国立大実験室が「きれい」に…1年で緊急改善


読売新聞ニュース速報

 「狭くて汚い」「換気が悪く危険」と言われた全国の国立大学の化学実験室が、
この1年間で一変した。

 今春の法人化で企業なみに労働安全衛生法が適用される事態を受け、文部科学
省が約1万3000室の改善を急ぐ必要があると判断、最終的に118億円を緊
急支出したためだ。だが今後の安全管理にかかる費用は各大学持ち。「負担に耐
えきれず実験室を減らす大学も出てくるのでは」と研究への影響を懸念する声も
出ている。

 今年初め、東京大学の化学西館に、透明の囲いが付いた新品の実験台が次々と
運び込まれた。みな換気装置が付き、囲いの中に手を入れて操作すれば万一、有
害ガスが発生しても部屋全体に広がる危険はない。

 以前は、机の上で無造作に化学合成を繰り返したため、学生が臭気で失神する
こともあった。そんな笑い話のような状況は、もはや過去のものとなった。

 改善の引き金は、昨年7月に決まった国立大の法人化。教職員が公務員でなく
なり、労働安全衛生法が適用され、時には労働基準監督署の立ち入り検査も受け
る。劣悪な職場環境で事故が起きれば作業停止命令を受けたり、学長が送検され
ることもありうる。

 文科省が緊急調査した結果、化学物質を扱う国立大の実験室約3万5000室
のうち、37%の約1万3000室が要改善の状況と判明。昨年10月、118
億円をやりくりし、排気装置の付いた実験台などを各大学に配備した。この特需
にメーカー側の製造が間に合わず、導入が遅れている大学もある。

 研究者にはうれしい法人化効果だが、突然増えた新設備の維持管理費は、大学
に重くのしかかる。東京工業大学は昨年6月、有害物質を浴びた場合の緊急用シ
ャワーなど、労働安全衛生法などが求める設備を完備した新実験棟を建設したが、
維持費は年間1000万円を超える見込みだ。

 また計百種類以上の化学物質の濃度を、国家資格保持者が半年に一回測定する
ことも義務づけられたが、費用は中規模校でも年間5000万円以上と見られる。
ある研究者は「企業と違い、たまにしか使わない試薬も多い。全種類を測定する
のは非現実的」と戸惑う。

 ノーベル化学賞受賞者の野依良治・理化学研究所理事長は「職場の安全や健康
を確保するという法の精神は尊重するが、必要以上に厳密に運用して、研究が阻
害されてはならない」という。また東工大の市村禎二郎教授は「負担に耐えきれ
ず、化学研究室を減らす大学も出てくるのではないか」と心配する。

 きれいになった国立大の実験室。この環境を維持できるか、今後の各大学の手
腕が問われる。

[2004-07-26-15:01]