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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』2004年7月17日付

私大教員の8割が雇用保険未加入 強制視野に厚労省指導


 私立の大学や短大の教員の8割が雇用保険に加入していないことが、厚生労
働省の調べでわかった。朝日新聞の調べでは東京六大学の早稲田、慶応、明治、
法政、立教のほか、関西の有名私大も含まれている。同省の再三の加入働きか
けにも反応が鈍いことから、「これ以上違法状態を放置できない」として、職
権による強制加入に踏み切ることも視野に、本格的な指導に乗り出した。

 厚労省によると、4月末現在、全国の私立の大学・短大971校のうち、雇
用保険に加入しているのは、非常勤講師や任期制教員など一部の教員だけが加
入しているところも含めて約4割しかない。9万5625人の教員数でみると、
加入率はわずか18.4%だ。国立大は4月に独立行政法人化に伴い、雇用保
険への加入義務が生じ、すでに全教員が加入している。

 従業員を雇っている事業所は雇用保険に加入しなければならず、一部の教員
だけが加入している場合も違法になる。「こんなに加入率が低い業界はほかに
ない」と同省雇用保険課。

 75年に雇用保険制度ができる以前の失業保険では、私立学校の教員は任意
適用だった。制度ができてからも、当初、私立学校は独自の共済制度をつくる
動きがあったことなどから積極的な加入指導はされてこなかった。

 だが、01年以降、社会保障制度などの見直しを進める政府の総合規制改革
会議が加入率の低さを指摘したことなどを契機に、同省が加入を働きかけてき
た。未加入の企業が雇用保険に入る際は通常、過去2年分の保険料を払わなけ
ればならないが、私立学校に限り支払いを免除する「優遇措置」も設けている。

 こうした働きかけで01年4月の10.3%から上昇したものの、加入率は
依然低く、厚労省は16日、都道府県労働局長にあてて、高校、中学などを含
む私立学校に対し、来年5月までに(1)すべての教員を加入させる(2)再
来年5月までに加入させる計画を示す、のいずれかの対応をしない場合、優遇
措置を適用しないなど強い姿勢で加入を指導するよう指示した。

 同省は「指導結果をみて、その後の対応は考える」とし、加入を拒む場合は
公共職業安定所長の職権による強制加入に踏み切る可能性もある。

 一方、日本私立大学連盟(122校加盟)は「各校の判断による雇用保険加
入には干渉しない」としているが、昨年11月、(1)私大教員には強い身分
保障がある(2)保険料の負担増は学費値上げにつながる(3)教員の失業は
ほとんど考えられず、定年も多くが65歳以上のため負担に見合う給付がない、
などとして「一律・強制的な加入には反対する」との見解を加盟校に送った。

 これに対し、厚労省は「公務員ほど強い身分保障があるわけではなく、私大
の経営環境も厳しくなっている」「加入は義務で、すべての民間労使が加入し
助け合うのが制度の前提」と反論している。

 〈中窪裕也九州大大学院教授(労働法)の話〉 どんな企業に勤めていても
失業の可能性はあり、少子化にさらされている私立大も例外ではない。教員が
別の大学に移ったり企業に就職したりするケースも増えている。失業した場合
に生活を支えるのは雇用保険の給付であり、法に従って加入することは当然だ。
語学やコンピューター操作を習得しようする時に教育訓練給付を受けられるな
どのメリットもある。