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新首都圏ネットワーク


『毎日新聞』大阪朝刊 2004年7月9日付

未公開株取得:国立大「利益相反」防止ルール 89大学中・策定6、作業入り44

 ◇毎日新聞調査

 大阪大病院の臨床試験を巡る未公開株取得問題で、毎日新聞が89国立大学
を対象に実施した調査の回答が8日、すべてそろった。教職員の兼業や株の所
有などで大学での研究や業務の公正さが疑われる「利益相反」を防ぐルールは、
策定済みの6大学に加え、44大学が策定作業を進めており、ルール整備がよ
うやく動き始めた格好だ。ルール策定を進めていたためにトラブル回避につな
がったケースもあった。しかし、各大学からは「国としてガイドラインを定め
てほしい」と、戸惑いの声も上がっている。【根本毅】

 ◇岩手、直前で回避

 大学としてルールを既に策定したのは岩手、東京、山梨、名古屋、佐賀、宮
崎の6大学。策定中の44大学は、今年度中の整備を目指すケースが多い。策
定予定がない大学は「法人化で規則の制定や改正が山積。利益相反のルール作
りまで至っていない」(茨城大)などと理由をあげる。また10教育大はすべ
て、大学発ベンチャーが存在しないなどとして取り組んでいない。

 岩手大は、ルール策定中に問題を回避できた。今年4月、ある教授に大学発
ベンチャー企業から役員の就任と未公開株の購入の持ちかけがあった。教授が
大学の地域連携推進センターに相談したところ、「利益相反が生じる可能性が
あるので、やめた方がいい」とアドバイスされ、断ったという。

 同センターの対馬正秋・技術移転マネージャーは「当時はルールが完成する
前。役員に就任したり未公開株を持っていると、利益相反の管理の対象になり、
研究が制限される可能性があった」と振り返る。

 ◇宮崎、佐賀は罰則なし

 ルールを策定した大学でも、罰則規定を定めていない大学があり、問題が起
きた場合、どこまで対処できるか疑問が残るケースもある。

 東京大は、利益相反防止規則の中で、自己申告書の提出や審査機関の設置な
ど具体的なルールを設けている。規則に違反した場合の処置として、産学官連
携活動の停止や懲戒処分を含めた罰則規定を明記した。

 一方、宮崎大は今年3月に利益相反に対する方針を定め、学内の知的財産本
部に利益相反部門を設けた。しかし、ルール違反時の罰則はなく、新たに規則
をつくる予定はないという。佐賀大にも罰則規定はないが「改善を促す」とし
ている。

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 ◇国、統一指針に及び腰

 阪大は今回の事態を重視、臨床試験に関するガイドラインの策定委員会を発
足させた。委員長の山西弘一医学部長は「透明性を確保できず問題」と、不適
切だったとの認識を示した。

 しかし、国の腰は重い。文部科学省は「国立大学が法人化した現在、各大学
が主体的に制度を定めるべきだ」とし、厚生労働省は「指針の中で考え方を示
している」などとして、新たな対策に取り組む姿勢を見せない。

 信州大医学部で利益相反を担当する教官は「(新薬の承認申請のため行う)
臨床試験は、複数の病院にまたがって行われる。指針がさまざまでは問題が生
じる可能性があり、国として統一の指針を定めてもらった方がいい」と訴えて
いる。

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 【各大学の利益相反のルールの整備状況】

■策定済み(6)=岩手、東京、山梨、名古屋、佐賀、宮崎

■策定中(44)=北海道、小樽商科、北見工業、東北、秋田、筑波、群馬、
千葉、東京医科歯科、東京外国語、東京農工、東京工業、東京海洋、電気通信、
横浜国立、新潟、長岡技術科学、信州、富山医科薬科、岐阜、静岡、名古屋工
業、豊橋技術科学、三重、北陸先端科学技術大学院、京都、大阪、神戸、奈良
女子、和歌山、奈良先端科学技術大学院、鳥取、岡山、広島、山口、徳島、香
川、愛媛、九州、九州工業、長崎、熊本、大分、鹿児島

■未着手(39)=北海道教育、室蘭工業、帯広畜産、旭川医科、弘前、宮城
教育、山形、福島、茨城、宇都宮、埼玉、東京学芸、東京芸術、お茶の水女子、
一橋、上越教育、総合研究大学院、政策研究大学院、富山、金沢、福井、浜松
医科、愛知教育、滋賀、滋賀医科、京都教育、京都工芸繊維、大阪外国語、大
阪教育、兵庫教育、奈良教育、島根、鳴門教育、高知、福岡教育、鹿屋体育、
琉球、高岡短期、筑波技術短期