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退職時の特別昇給を廃止する措置に関する組合の見解 2004年5月20日 福島大学教職員組合中央執行委員会 はじめに 去る4月27日の団体交渉の席上、大学当局は突如、議題にない要求を提示した。5月1日をもって人事院規則が改正され、20年以上の勤続者について退職時に1号俸の特別昇給を可能とする条文などが廃止されるので、本学の就業規則についても同日付で同内容の一部改正を実施したく、ついては組合に、労働基準法第90条の定めによる意見書の提出を求める、という内容である。 組合は、現時点では就業規則の改正を認めることはできず、よって意見書の提出にも応じない。以下に述べるように、当局の要求は多くの問題点を含んでいるからである。 問題点一 当局の要求は、労働協約の定める手続きを踏まえていない。 大学当局と組合が4月1日に締結した労働協約は、労働条件変更の手続きや効力について、定めを設けている。手続きについていえば、協約第1号第6条(団体交渉権の保障)には、「(3)労働条件の変更については、事前に組合の意見を求め、誠意をもって話し合う。」とあり、協約第2号第4条(団体交渉開催の手続き)には、「大学または組合は、交渉の付議事項を書面で相手方に提出しなければならない」とある。今回、当局は、就業規則の変更による労働条件の変更を行おうとしたにもかかわらず、これを団体交渉の付議事項として事前に提示していない。明白な労働協約違反であり、まことに遺憾なことである。 問題点二 当局は、まず国家公務員なみの労働条件を実現させるべきである。 当局者は交渉の席上、法人化後も基本的には公務員なみの労働条件なのだから、人事院規則の改正に合わせて就業規則を変えるのは当然である旨、発言した。しかし実態はどうであろうか。私たちは国家公務員よりも一日に15分、長く勤務している。たかが3.3%、ではない。これから30年以上勤続すれば、そのうち1年分はタダ働きなのである。しかも私たちは国家公務員の身分を失ったうえに賃金の0.7%の雇用保険料を負担している。要するに、当局が理由とする「国家公務員なみの労働条件」は、理由として成り立たない。 なお、組合としては、国家公務員なみの労働条件の確保は、あくまでも最低限の要求に過ぎないことを付言しておく。 問題点三 就業規則の不利益変更は、安易には行えない。 大学当局は、組合の意見がどうあろうと、就業規則は一方的に変更できると考えて安易な提案を行ったようにも見受けられる。その認識は誤りである。国家公務員の労働条件は、法律や人事院規則の改正によって容易に変更されうるが、労働基準法の秩序のもとでは、事情は全く異なる。最高裁大法廷は1968年、秋北バス事件の判決において、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を、一方的に課することは、原則として、許されない、と述べた。原則には無論、例外がありうるが、今回のような乱暴な提案は、およそ無茶というものである。 問題点四 国家公務員の労働条件の不利益変更は、公務職場にも容易に波及しない。 それでは実際に、国家公務員の労働条件の不利益変更が行われた場合、それは公務関連の職場にどの程度、波及しているのだろうか。一昨年の『公務員白書』に、興味深いデータがある。1999年に実施された国家公務員の55歳昇給停止制度について、人事院はその周知普及に努めてきたが、四現業部門においては全く実現できず、都道府県・政令指定都市60団体でも過半の31団体において実現できていない、というのである。いま、私たちに求められるのは、国家公務員の労働条件の不利益変更に安易に追随することではない。変更のもつ意味をきちんと検討し、労使交渉を通じて結論を見いだすべきであろう。 問題点五 人事院規則の改正は、いかにも拙速であった。 今回、人事院が改正の検討に着手したのは1月、そして改正の意向を国公労連・国公総連などに伝えたのは3月末日である。退職時特別昇給を「お手盛り」と見なす一部マスコミのキャンペーンを受けた、なんとも拙速な検討ぶりが窺われる。当局提示にみる人事院規則改正の根拠は、読売新聞1月9日「厳しい経済情勢の中、公務員給与に対する様々な批判もあり、制度そのものの廃止も含めて見直しを検討したい」、毎日新聞4月6日、「給与制度でありながら、給与よりも退職金に強く影響するような制度は適切でなく、国民にも分かりにくいと判断した」、という新聞報道中の人事院給与第二課のコメントのみである。人事院が十分な検討を行わなかったのならば、私たちは自ら検討をすべきである。 問題点六 退職時特別昇給制度は、本当に不当な制度なのだろうか。 退職時特別昇給制度は、上述のように給与そのものではなく退職金に影響する点で、また「勤務成績の特に良好な」者のための制度でありながらほぼ全員に適用されてきた点で、厳しい批判を受けた。しかし、この制度が1952年以来、長期にわたって存続し続けた背景には、それなりの合理性もある。第一に、労働市場が拡大し続けた高度成長期やバブル経済下において、俸給の水準を抑制しつつ国家公務員の勤続を奨励するには、退職金などの優遇が必要だった。つまり、退職金が高すぎるのではなく、俸給や期末・勤勉手当が低すぎたと見ることもできるのだ。第二に、1970年代以降、高年齢層の昇給延伸、昇給停止という不当な措置が強化されていくなかで、この特別昇給は実質的には、本来ならば到達しえた号俸に少しでも接近させるという意味をもつようになっている。人事院は、90年代以降における昇給率抑制の問題などもあわせて、高年齢層冷遇の姿勢をあらわにしており、今回の措置もその一環と見ることができようが、その適切さには疑問がある。 問題点七 退職時特別昇給の廃止は、特に教員層に打撃を与える。 今回の措置は、具体的に各人の退職手当にどの程度の減額をもたらすであろうか。本年10月以降に定年などで退職する35年以上勤続者の退職手当支給率は59.28ヵ月に統一されているが、各人が特別昇給した場合の昇給幅は、それぞれに異なる。国家公務員行政職(一)にあたる一般職(一)では、昇給幅は3〜4千円、ゆえに減額は20万円前後となる。教育職(一)(二)では、最高号俸に遠いところでの定年も珍しくないため、昇給幅で9千円前後、減額は50万円台に達する人も多いはずである。無論、20万円なら我慢するという意味ではない。だが、50万円は大きい。人事院は、国立大学法人化によって公務員としてはごく少数となった教育職について、影響をきちんと評価したのであろうか。 問題点八 退職手当は、私たちの労働債権である。 そもそも退職手当は、就業規則などに明確に基準が定められて使用者に支払い義務がある限り、賃金の一部の後払いと見るべきものである。そして従来から退職時の特別昇給がほぼ全員について行われてきた以上、それはこれから退職していく私たちにも適用される慣行といえる。つまり特別昇給を込みにした退職手当は、私たちの労働債権なのである。これを使用者が一方的に値切ることは、許されない。 以上、当局の今回の要求について、八点にわたって問題点を指摘した。当局として、この指摘を受けてなお、要求を続けるのであれば、まず以下の条件を満たすべきであろう。 一 就業規則改正の理由を明確に示すこと。 二 労働条件の切り下げに相当する、あるいはそれ以上の代償措置を設けること。 三 既得の労働債権を侵害しないような移行措置を設けること。 四 組合に対して正式に団体交渉を申し入れ、誠実に交渉を行うこと。 五 組合未加入者を含む労働者全体に、制度改正について周知し、意見を求めること。 以上 |