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新首都圏ネットワーク


東京大学大学院数理科学研究科「数理ニュース2004-1」 2004年7月

http://kyokan.ms.u-tokyo.ac.jp/~surinews/news2004-1.html

教育研究と効率化   

研究科長   薩摩 順吉

4月1日から東京大学は国立大学法人となりました。新制大学発足が1949年のこ
とですから、55年ぶりの大変革というわけです。そうした時期の研究科長職という
のはなかなか大変なものがありました。自分自身が何かを作るというわけではないの
ですが、次から次へと提出される本部立案のさまざまな規則を理解し、部局の構成員
に周知するという仕事が数多くありました。今年に入ってから3月末まで、それこそ
洪水のような分量でした。立案された執行部、事務局、総長補佐の方々のご尽力には
頭の下がる思いです。規則の中には、学長を中心とした役員会に権限が集中するきら
いのある法人法のもとで、これまでの大学自治を保持していく姿勢がうかがえる大学
の基本組織規則や総長選考内規などがあります。例えば基本組織規則の原則の項で
「東京大学が、東京大学憲章に則り、国民から付託された大学の自治に基づいて、総
長の総括と責任の下に、国民の付託に伴う責務を自立的に果たして自らの使命と課題
を達成することができるように、構成され、運用されなければならない」というくだ
りがあります。多少抽象的ですが、その精神は大学で教育研究に励んできた私にとっ
て納得できるものです。

 ところで、年度末に近くなって聞き慣れない規則が山のように出てきました。それ
は就業規則と各種労使協定です。民間で働いておられる方々はよくご存じのものかも
しれませんが、大学ではあまり意識したことのないものでした。今となっては当たり
前のことですが、公務員でなくなると、労働基準法をはじめとする労働法が適用さ
れ、使用者(大学法人の場合は役員)と従業員との間で労働契約を結ぶ必要がありま
す。駒場地区事業所に属する数理科学研究科の場合、従業員の中から選出された過半
数代表団と使用者の間で労使協定が結ばれたのは、皆様ご存じのように3月31日の
ことでした。過半数代表団のご努力により、育児・介護の除外規定については締結せ
ず、また残業に関するいわゆる36協定は修正されたうえで4協定案の調印が行われ
ました。なお、就業規則等については従業員は意見を述べることができるだけで、使
用者側がアクションを起こさない限り変更ができません。

 就業規則等は26種類の規則・規定からなる膨大なものです。過半数代表団に使用
者側から提示されたのが3月24日でした。事前に案は示されていましたが、詳細に
内容を検討する時間はありませんでした。4月以降、法人化の嵐は過ぎましたが、就
業規則に従ってさまざまな変化が見られています。例えば教員に関することでは、大
学院手当の支給基準が簡素化され、これまであった調整数3がなくなりました。また
職員に関することでは、昼休みが45分になりました。これまでの職員の標準的就業
形態は午前8時30分始業、午後5時終業、昼休みは1時間でしたが、勤務時間、休
暇等規則案によって拘束時間が15分延長され、逆に昼休みが15分短縮されたわけ
です。さらに教職員に関することでは、旅費規程が変わりました。区分は役員と教職
員の2つだけで、日当・宿泊料とも古手の教授は減額となります。また、外国からの
ビジターに支給する滞在費は約20%の減となりました。
 こうした変化は微々たるものであるかもしれません。効率化が第一義的な理由であ
るのでしょう。しかし、もともと教育研究というものはきわめて効率の悪いもので
す。効率よく良い教育、優れた研究ができるとは思いません。今後国から交付される
運営費は裁量的なものとなり、毎年効率化係数をかけて減額されることが予想されて
います。また、財政改革の観点から、経費削減に聖域なしということで2%のマイナ
スシーリングがかけられる可能性もあるといわれています。いつ役に立つかわからな
いけれども、人間と社会そしてその背後にある自然の将来のためになる基礎科学を推
進し、教育を通して後世に伝えていくことができるもっとも大切な場所が大学であ
り、今後もそうした役割が果たせる環境の続くことを願うばかりです。