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新首都圏ネットワーク


『産経新聞』2004年7月4日付

経済官僚、大学へ転出急増 天下り批判?進路多様化


 参院選の合間をぬって行われた中央省庁の人事異動で、経済官庁から国内外
の大学に「出向」や「再就職」するケースが一段と増えている。専門分野を生
かして教壇に立つだけでなく、畑違いの仕事を担当する例も。固定されたレー
ルを走りがちな官僚人生も、多様化しつつあるようだ。

 「東京大学医科学研究所付属ヒトゲノム解析センター教授」。財務省の中井
徳太郎・企画調整室長に、六月三十日付で発令されたポストだ。

 財務省は幹部となる「キャリア職員」の多くを東大出身者が占めるだけに、
母校への出向は珍しくない。しかし、人の遺伝子DNAに書き込まれた情報を
読みとり、生命の神秘を探る同センターは初めてという。

 「教授とはいえ、白衣を来て実験室に入るわけではない。『組織を管理でき
る人がほしい』との要請に応じた」。同省幹部はこう解説する。

 法人化に伴って国立大学は予算、人事を独自に行うようになったものの、
「国や金融機関と折衝できる職員は少ない」(関係者)。霞が関に"にらみ"の
利く財務官僚を望む声が高まっているわけだ。

 海外の大学では森信茂樹・東京税関長が米プリンストン大学の客員教授に就
任。期間一年で日本の税制と財政をテーマに授業を行う予定だ。退官後ならと
もかく、在職期間中に米国の名門校で教える例は財務省でもなく、森信氏は
「アジアといえば中国ばかりに関心が移りがち。日本への興味を呼び起こした
い」と意欲を燃やす。

 道路建設からみた国土開発のあり方を講義するのは、国土交通省の大石久和
技監。二日付で退官した後、早稲田大大学院で教鞭(きょうべん)をとること
になっている。旧建設省時代を含めて道路局長を三年間務め、日本道路公団の
民営化問題で矢面に立った経験も踏まえて、造語である「国土学」を説く。

 「日本の国土はどんな姿できたか。世界各国と比べ、形や大きさ、平野の成
り立ちを認識することが大事だ。若い世代には、とかく批判的に論議される公
共事業について再考してほしい」とか。

 このほか、経済産業省からも三十歳代の若手が国立大に出向するなど、「官
と学」の垣根は低くなっている。ただし、高級官僚が複数の特殊法人を渡り歩
いて高額退職金を受け取る"天下り"への批判こそ、「官僚の『大学進出』の加
速要因」(ある省庁幹部)との指摘も少なくない。