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超勤手当不足が数十億円に 国立大病院、支払い見送りも
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 付属病院を抱える国立大学の多くで、超過勤務手当を支払う資金が年間数億円単位で足
りなくなっていることがわかった。4月からの法人化に伴い給与の算定方法が変わり、新
たに医師への支払いを迫られたことが原因で、全国の不足額は数十億円にのぼるとみられ
る。他の支出を削ることで対応している大学もあるが、九州大では超勤手当の支払いを見
合わせる事態になっている。「将来的には学費値上げなど収入を増やす方法も考えないと
いけないかもしれない」という大学もある。

 これまで、教員の労働条件は人事院規則で定められていた。医師は宿直手当などはあっ
たが、長時間勤務しても研究の一環と見なされ、手当はつかなかった。法人化に伴い、労
働基準法で定められることになり、大学は医師を含めた教員に超勤手当の発生しない裁量
労働制を適用することにした。

 しかし、厚生労働省は昨年10月、「急患などがある医師は、勤務時間を裁量で決めら
れない」として、医師には裁量労働制を適用しないよう都道府県の労働局長あてに通達を
出した。

 国立大学を所管する文部科学省は、人件費の急増を警戒する各大学の要請を受けて厚労
省と折衝したが、物別れに終わった。この結果、大学は医師への超勤手当を支払わなけれ
ばならなくなった。

 各大学は文科省から渡され、人件費などにあてられる運営費交付金と、学費収入や寄付
金などの自主財源で経営している。関西のある大学によると、超過勤務は文科省の想定を
大きく上回った。文科省が超勤手当と見込んだ予算額は、必要額の3割程度しかなかった
という。

 九州大は交代勤務を徹底することで人件費を削っているが、4〜6月の3カ月間で推計
3000万円の超勤手当が発生した。年間の支出額が不透明であることなどから、手当の
支払いを見合わせている。これに対し、福岡東労働基準監督署は6月下旬から、同大医学
部付属病院へ監督指導に入っている。

 京都大、大阪大は超勤手当が年間「数億円」、東北大は「1億円程度」にのぼる見込み
だという。京都大は医師の宿直手当を減らし、超勤手当を工面している。

 付属病院を抱える国立大は全国に42あり、多くの大学が超勤手当の工面の必要に迫ら
れているとみられる。

 文科省人事課は「大学と相談しながら、必要な対策をとっていきたい。厳しい状況であ
ることは理解しているが、医師にも裁量労働制が適用されるよう、厚労省への働きかけは
続ける」と言う。厚労省賃金時間課は「裁量労働制は経費減らしのための制度ではない。
適用範囲を広げることは、働いた分の給与を受け取るという原則をゆがめるので認められ
ない」と話している。