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新首都圏ネットワーク


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Academia e-Network Letter No 129 (2004.07.04 Sun)
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━┫ AcNet Letter 129 目次┣━━━━━━━ 2004.07.04 ━━━━

【1】 阿部泰隆(神戸大学大学院法学研究科教授)編著
『京都大学 井上教授事件ーー任期制法悪用から正義の回復を
目指してーー』はしがき

【2】井上教授裁判の大阪高裁公判:7/15, 7/29
大阪高裁別館
http://poll.ac-net.org/2/04530.html

【3】首大非就任者の会サイト
カテゴリー「就任承諾書を出さなかったわけ」目次
http://www.kubidai.com/modules/xfsection/index.php?category=1

【4】中日新聞2004.6.30
知事の姿勢「不可解」
ーー県議会総務委で参考人・醍醐氏が批判
http://www.chunichi.co.jp/00/ngn/20040630/lcl_____ngn_____000.shtml


━ AcNet Letter 129 【1】━━━━━━ 2004.07.04 ━━━━━━

阿部泰隆(神戸大学大学院法学研究科教授)編著
『京都大学 井上教授事件ーー任期制法悪用から正義の回復を
目指してーー』より はしがき
信山社,2004.6.30 刊. ISBN 4797253169.

オンライン購入:
https://market.bookservice.co.jp/emp-bin/eh_writer.exe/top/main/detail.html?1674418
表紙:http://www.shinzansha.co.jp/kyodaijiken.jpg
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はしがき

一  大学の教員等の任期に関する法律(1997年=平成9年、任
期制法)は、当初から、その目標とする大学の活性化を図るのでは
なく、権力濫用と大学の混乱と学問の抹殺をもたらすのではないか
と危惧されていたが、今回、その通りの事件が京都大学・再生医科
学研究所(以下、再生研という)で起きた。京大井上一知教授が任
期制法の罠に陥れられて「失職」扱いで追い出され、1審で門前払
いされて、現在大阪高裁に控訴中である。

本書はこの事件が露呈した、京大の学部自治の腐敗、司法の怠慢と
機能不全、さらには、立法の機能不全を明らかにして、この国に、
学問の自由、大学の再生、司法の機能回復、立法の健全性の回復を
求める緊急出版である。

二  井上一知教授はもともと、任期のない普通の教授ポストの公募
に応じたところ、発令を延期されて、その間に任期制の規程が施行
され、ドタバタのうちに、「再任が可で,とにかく普通にまともに
仕事をしておれば定年まで引き続いて何回でも再任されるという簡
単な説明」のもとに、任期に「同意」した。その再任審査は、外部
評価に「基づいて」、研究所協議員会(教授会のようなもの)が決
めることになっているが、外部評価で7人の高名な委員が「再任を
可とすることに全委員が一致して賛成し、今後の活躍に期待を示し
た」(これも当然、地裁判決も認めるし、資料編14の履歴書・業
績参照)にもかかわらず、協議員会がその再任を拒否し、その理由
を法廷では全く説明していない。どうやら、当初は、井上教授の認
識通りの制度として運用し、井上教授に「医の倫理」なる問題があ
るとして、再任拒否に持ち込もうとしたが、それでは説明できない
とわかると、実は、この研究は、「原則として5年の時限を課す」
とした研究所内部の裏の申し合わせを持ち出しているらしい。しか
し、それは、井上教授には全く示されていなかったもので、採用の
さいの説明とは全く逆である。騙し討ちである。このことは本人尋
問で明らかになったはずでる。

これでは、任期制教授は、詐欺的で卑劣な同僚に生殺与奪の権限を
握られ、睨まれないようにしないと勤めを果たせない。学説の切磋
琢磨によって初めて発展する自由な学問は死滅するのである。

こんな不正義、腐敗が天下の京大ともあろうところで許されるはず
はない。しかし、京大前学長は研究所自治の問題であるとの建前で、
素知らぬ顔をしていた。日頃、学問の自由、行政救済の充実を高尚
に説いているはずの京大法学研究科教員も沈黙している。京大側の
代理人は、事実関係を争わず、騙し取った同意書も有効であるとか、
自ら依頼した外部評価委員会の評価に従わないことが大学の自治で
あるなどと、まっとうな法理論を創造するのが任務であると信じて
いる小生ごときにはとても思いもつかない詭弁を弄している。文部
省の弾圧から大学の自治を守った滝川事件の70周年に当たる京大
が、研究所の腐った自治を守って、学問の自由を死に至らしめると
いう、まことに皮肉な結果になっている。

本件が放置されれば、ガン細胞が全身に転移するごとく、任期制の
病魔が全国の大学に伝播し、学問的論議はお通夜のごとく沈黙する
であろう。その結果、本件は後世、滝川事件とは逆に京大が大学の
自治を死に至らしめた、恥ずべき井上事件と称されることとなろう。
そうならないためにも、井上教授を遡及的に復職させ、京大を再生
させなければならない。

三  井上教授は、裁判所こそは正義の救済機関であると信じて、出
訴して、執行停止を申請したが、京都地裁は、救済する方向で理論
を創造すべきところ、救わない方向で形式的な理論に乗っかった。
失職の前日の昨年4月30日のことである(資料12,13)。大
阪高裁は驚くことにまともな判断を回避して、取下げを勧めた。

井上教授の研究は一刻も猶予が許されないので、本来は、任期切れ
の昨年4月末までには司法の仮救済が必要であった。しかし、執行
停止申請は京都地裁を説得できなかったので、科学研究費も打ちき
られた。誠に遺憾である。

本訴では、京都地裁は、同じく法律論だけで門前払いにすべく、結
審の意向であったが、「同意」に瑕疵があるから、事実を調べなけ
ればならないとの原告の主張に抗しきれず、井上教授の本人尋問が
行われた。そのさいの傍聴者の感想では、明らかに井上教授に軍配
があがるものであった。その後も多数の支援、激励の声が寄せられ
ている。裁判員制度が行政訴訟で導入されていないのが遺憾である。

しかし、京都地裁は、この本人尋問を単にガス抜きと扱い、今回の
行政訴訟改革の理念である「権利救済の実効性」とは全く逆に、こ
の3月31日、相変わらず、門前払いした。法服を着た裁判官は、
起立というと、「却下、棄却」といって、裏に引っ込んでしまった。
まるで良心に恥じて逃げるように見えた。まともに審理すれば原告
勝訴になると確信していた私は愕然とし、わが耳を疑った。再任さ
れるという説明と5年で終わりという研究所内部の裏の申し合わせ
の食い違いというキーになる前記の事実さえ認定されていない。井
上先生が同意書を書いたというだけで、それが騙し取られた重大な
事実に目をつぶっている。当事者の主張をまじめに聞くという、当
然の役割を怠るとは、全く予想外である。

そもそも、この根拠となる任期制法自体が学問の自由を死滅させる
しくみなのに、国会は騙されてか意図的にか、可決し、今や、大学
の中を支配しようとする権力者が、首都大学、横浜市大、長野大に
みるように任期制法を一般的に導入しようとしている。

京大新学長には本文で述べるように要望書が届いたはずだが、結局
は解決に動かれなかった。

これでは、学問、大学、司法、立法のすべてが危機に瀕していると
いってよい。いわば、死の四重奏に近い。

もっと、新学長は判決後に、「『任期制にかかわった人がトラブル
になるのは良くない。この判決が判例になるのは良くない』と懸念
を表明。任期制については『部局毎に決めることで全学で導入する
つもりはない。導入に際し、人材の使い捨てにつながってはならな
い』と話した。」(京都新聞二〇〇四年4月二日社会面)。是非、
この方向で本件も解決していただきたい。


四   井上教授は、これを打破・克服すべく、闘っている。広く支援
をいただいているが、京大内、裁判所内の支援は乏しい。

実際面、理論面ともに、広く国民の良識ある方々のご支援をいただ
いて、この国を死の四重奏から救出したい。

私は、本件の相談にあずかってから、井上先生、弁護団とともに、
この問題に相当の時間を費やして、理論面、実際面で、種々検討す
ることとなった。また、この過程では、園部逸夫(前最高裁)、平
岡久(大阪市立大)、矢野昌浩(琉球大)、安永正昭(神戸大)の
諸教授からきわめて説得力ある意見書が寄せられた。すでに教員の
任期制を広範に導入している(ただし、教授については本人に希望
による)韓国においても、任期制を違憲とし、失職を処分とする判
例があることを、日本通であり、ソウル大学名誉教授でもある徐元
宇先生から教えていただいた。弁護団(尾藤廣喜、安保嘉博、神崎
哲)はこれらの意見書をふまえ、本件の事案にふさわしい主張をさ
れた。また、尋問調書は井上教授と弁護団の共同作成にかかるもの
であるし、そのほか、京都地裁、学長への要望書も同様である。

本書はこれらの奮闘の記録を整理したものである。私見は、「大学
教員任期制法による『失職』扱いに対する司法的救済方法」(自治
研究79巻12号、80巻1号、2003−2004年)、「大学
教員任期制法の違憲性・政策的不合理性と大学における留意点」
(法時2004年3月号)を改訂したほか、未公表分(第3章第6
節、第4章第1節)も収録している。

これらの方々に厚く感謝するとともに、任期制法が広がる今日、広
く読まれることを期待する。転載を許可された第一法規と日本評論
社にも深謝する。


五  本書を読みやすくするために、第1章で、本件の要点を説明す
るとともに、第2章で、井上先生の本人尋問から、井上先生が、い
かに騙されて、落とし穴に落とされていったのかを、リアルに描く
こととした。それから、井上先生の陳述書、京都地裁・京大学長へ
の要望書で本件の内容をご理解いただけるものと思う。

次は法理論編で、第3章は、本件が「失職」に当たらず、行政訴訟
の対象となることと、その実体法上の違法性を、園部、平岡、矢野
諸先生の意見のほか、阿部の意見をもとに論じ、第4章は、騙し取
られた「同意」は任期満了による失職の根拠とならないことを、安
永意見のほか、阿部の意見で示した。同じ論点を種々の角度から、
何人もが書いているので、重複するが、これは誰が考えても同じ結
論になるという証拠であると思う。

本件は、本件だけにとどまらない一般的なものなので、第5章で、
任期制法一般の違憲性、政策的不合理性と大学の対応の仕方を示し
た。任期制を導入する大学においては、京大のような失敗を繰り返
さないため、学内ルールを公正に定めるべきである。

第6章で、京都地裁判決を批判した。以上の本書の叙述と比較すれ
ば、この判決がいかにずさんかは直ちに理解できるはずである。不
十分であるが、緊急にコメントしたものである。

本書で何度も引用する資料及び井上先生の業績は末尾にまとめて掲
載した。それにしても、井上先生の業績は超人的である。世間では、
任期制はダメ教授を追い出すため有用と思いこんでいる人が多いが、
ダメ教授が超人を追い出す制度だということはこれだけでも理解で
きよう。

なお、頻繁に引用する国会議事録は大部であるので、神戸法学年報
19号(2004年3月)に、「資料:大学の教員等の任期に関す
る法律をめぐる国会議事録の整理」として、位田央君(立正大学講
師)と連名で掲載しておいた。

本件は大阪高裁に控訴した。大阪高裁こそ、不正を暴き、権利救済
の実効性を確保するという司法の役割に応えてくれるものと信じて
いる。井上教授が全面勝訴して、この国に「正義」を回復するため
にも、是非ご支援をいただきたい。 

最後になったが、市場性の低い本書を、正義のために緊急に出版し
て頂いた信山社の村岡倫衛さん、資料整理と校正を手伝ってくれた
位田央君、今田浩君には心から感謝するものである。

  2004年4月6日
阿部泰隆

━ AcNet Letter 129 【2】━━━━━━━━━━ 2004.07.04 ━━━━━━

井上教授裁判の大阪高裁公判:7/15, 7/29

大阪高裁別館
〒530-8521 大阪府大阪市北区西天満2-1-10
地下鉄御堂筋線淀屋橋駅より徒歩7分,京阪本線淀屋橋駅より徒歩7分
電話番号等 Tel:06-6363-1281
http://courtdomino2.courts.go.jp/K_access.nsf/0/ce512e8ddcef84bf49256b5e0042eb76?OpenDocument
──────────────────────────────
「大阪高裁での勝訴に向けて(井上教授裁判その後の経過)」より
http://poll.ac-net.org/2/04530.html

「大阪高裁の日程が決まりました 

7月15日午前10時30分より大阪高裁別館7階74号法廷で第
1回目の公判が行われます(第11民事部)。 

7月29日午後1時15分からも公判が行われます(第9民事部)。


任期制の再任拒否事件(井上裁判)は、訴訟としては二つあるので、
大阪高裁の二つの部で受理されました。裁判は、第9民事部と、第
11民事部において別々に争われることになります。・・・」


━ AcNet Letter 129 【3】━━━━━━ 2004.07.04 ━━━━━━

首大非就任者の会サイト
カテゴリー「就任承諾書を出さなかったわけ」目次
http://www.kubidai.com/modules/xfsection/index.php?category=1
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2004.7.3
(1) 荻野綱男氏「東京都立大学辞職の弁」
http://www.kubidai.com/modules/xfsection/article.php?articleid=1

(2) 高村学人氏「かくして、私は、首大非就任者になった」
http://www.kubidai.com/modules/xfsection/article.php?articleid=2


━ AcNet Letter 129 【4】━━━━━━ 2004.07.04 ━━━━━━

中日新聞2004.6.30
知事の姿勢「不可解」
ーー県議会総務委で参考人・醍醐氏が批判
http://www.chunichi.co.jp/00/ngn/20040630/lcl_____ngn_____000.shtml

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「県議会総務委員会(宮沢敏文委員長)は二十九日、「長野県」調
査委員会の県からの独立性が保てないとして、委員を辞任した醍醐
聡氏(東大大学院教授)を参考人に招き、辞任の経緯などについて
意見を聞いた。醍醐氏は「知事がしたことが混乱の原因で、自らの
責任の所在について言及しないのは不可解」と、田中康夫知事を批
判した。 (中沢稔之、中村陽子)

同委員会は、長野五輪招致委員会の帳簿紛失問題などについて調査
している。醍醐氏は、委員と知事との飲食を伴った懇親会費用を知
事後援会が負担したことや、一部委員の県非常勤特別職との兼務な
どを問題視し、五月に委員を辞任。当時の委員会会長も「結論の信
頼性を確保するため」と辞任している。

醍醐氏は、招致委の帳簿の写しの一部が見つかったとの報道にも触
れ、「非公開での資料が外に出たとなれば、知事は『遺憾』と言及
してしかるべきだが、部局長会議で『記事が小さい』と言うのは、
どういう認識なのか」と知事の姿勢を疑問視。さらに、知事が自ら
の住所決定のために審査委員会を設けたことについて「公私のけじ
めがない。いろんな問題を起こす原因となっている」と述べた。

また、県の外郭団体見直し専門委員会委員を務める醍醐氏は、県が
当初予算案で計上した外部委託の「外郭団体改革プラン策定事業費」
に、専門委が指摘していない四団体の事業費が加算されていたこと
を明らかにした。松林憲治経営戦略局長に説明を求めたところ、
「団体数が少ないと予算規模が小さく、請け負う業者がいなくなる」
と述べたという。同事業費二千四百万円は二月定例会で全額削除さ
れている。」

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#(行政委員となった大学関係者は、他の委員と比して利害関係は
少なく、行政からの独立した判断が社会的に特に期待されていると
思うが、上のような例は、例外ではないとしても、少数ではないか
と懸念される。

首都大学東京の設置申請を無修正で認める予定の設置審について、
ある都立大関係者の激怒の言に出会った:

『それにしても、名ばかりの「認可権」を守るために、
皮相な政治的判断から実質的な審査権を放棄して恥じな
い文科省、政府委員という社会的プレステージ(?)を
手放したくないために官僚の圧力に譲歩した設置審の体
たらくは、情けないを通り越して呆れるほかありませ
ん。』

種々の審議会に長期的に名を連ねている人たちが居て「官僚支配」
を支えていることはよく知られている(*1)。突然の委員長案を強行
採決したという第35回生命倫理専門調査会でも、その日だけ出席し
て賛成した大学界の委員が居たと伝えられている(*2)。)

(*1) http://ac-net.org/common-sense/miyamoto.html
(*2) http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/sunbbs8/index.html

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#( )内は編集人コメント、「・・・・・」は編集時省略部分。
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