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『朝日新聞』2004年6月30日付 コラム経済気象台 売れる特許があるのか 国立大学の法人化に伴って、学内で保有する特許を一般に開放しようという 機運が高まっている。ひらたく言えば、手持ちの特許を売ろうというのである。 独立行政法人・工業所有権総合情報館の特許流通促進事業を利用したり、大学 独自の機関を設置したりして、売り込みへの努力を重ねている。 ある企業から数年前に国立大教授に転身した知人は、この動きをリードする 学内の実質的な責任者を務めているが、思うように進まない。 保有する特許のリストを手に関係業界の企業を回っても、担当者の対応はお しなべて冷淡だ。渡したリストに目を通すことすらしない。 工業所有権などを管理する担当者の言い分はこうだ。「当社の役に立つよう なものでしたら、現場からすでに何らかの要求が出ているはずです。最近はイ ンターネットなどを通じて特許の検索が簡単になっており、関係分はすでに検 討済みでしょう」 実はこれまで、学内の発明者が「これは売れる」と感じたら、大学に届ける ことなく、知り合いの企業から出願してもらうということが少なくなかったと いう。発明者の表記は個人名だけ、あるいはまったく出さずに企業側の従業員 名で出願する手法がとられた。もちろん、発明者は相応の報酬は受け取る。 違法行為にあたるのだが、こんなことが国立大学だけでなく、公設研究機関 の研究員の間でも、半ば公然と行われてきたとされる。これまでの公務員法体 系では、発明者が妥当な額と考える報償を得るのが難しかったこともある。 国立大学の法人化によって、さまざまな制約が解かれた。しかし、これまで のいきさつから、現時点では国立大学には「売れる特許」の手持ちは多くない といえる。とはいえ、堂々と特許を売れる環境が整ったのであり、今後の学内 の発明とそのビジネスには大いに期待できると言えそうだ。(隠居) |