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新首都圏ネットワーク


『文部科学教育通信』2004年6月14日号 No.101

  教育ななめ読み 48 「法人化でできたこと?」

 教育評論家 梨戸 茂史

 鳴り物入りで出発した国立大学の「法人化」。4月に入って変わったことは何
だろう。

 積極的な側面としては、新しい学部や学科を作る動き。琉球大学では〇五年
度の開設を目標に「観光科学科」の新設を検討。私立にはあったが国立では初
めて。考えてみれば沖縄の産業のひとつが観光。県内で観光産業を担う人材の
養成は大事なこと。国も観光立国を標榜中。山口大学でも同じ構想があるとか。
ただし、専門家を捜すのは容易ではなかろう。国内では「新撰組」人気で板橋
の近藤勇の墓地やら函館五稜郭に観光客が繰り出す。お隣、韓国のTV映画「冬
のソナタ」が大人気で日本からの韓国ツアーが盛況のご時勢。これからの観光
は古いモノだけだけでなく新しいものを作る姿勢も必要かもしれない。もっと
も、この学科自体がなぜ設置されたか不思議な?「観光資源」になったりしま
せんように。

 同じ九州だが、鹿屋体育大学では、学長を公募するそうな。四月に学長選考
が公示され、五月が応募・推薦期限。これも国立では初めての試み。選考会議
が三人以内に候補者を絞って投票するが、今回から課長補佐級以上の事務職員
にも投票権があるとのこと。そりゃあ事務職員だって大事な大学の構成員。学
長も気を使ってもらわねば。でも見方によっては新しもの好きとも見えるし、
人材がいないとも見えるのがちょっと悲しいが。

 もうひとつの大学の構成員の大きな部分は学生でしょう。でもこれは結構無
責任な存在。大学の運営に無関心なのは仕方ないとしても授業にも無責任とい
うのはいただけない。このあたりも法人化後変化してくるかもしれない。で、
学生が優秀ナンバーワン教員を選ぶという工夫も出てきた。前から同じような
話はあり、教員の授業評価に使われていたけれど、次第に本格化していくこと
だろう。香川大学では学生と教職員が意見交換をする場として「フレンドリー・
ナイトスポット」なる会合を設定、四月から月一回開催。新しい大学像を確立
する方策だそうだ。すぐ飽きて参加者が少なくならないようにお祈りします。

 学生に関連して、親に「通信簿」を送る制度をこしらえたのは東北大学。本
年度入学の学生から全員対象に半年毎の学業成績を親元に送ることにした。ね
らいは勉強しなくなることを防ぐもの。確かに旧帝大クラスでは聞いたことが
ない。私学では丁寧な指導に見えるが、国立では、手取り足取りになったかと
揶揄、慨嘆される材料に見えるのが不思議。面白いのは「うちの子に限って大
丈夫」という親子は届け出れば辞退できその場合はこの通信簿は送られないそ
うだ。でも非行少年だって親は「うちの子に限って・・・」と言ってたが。い
いのでしょうかね?「もっと早く連絡してくれれば、四年で卒業できたはずな
のに」という親からの訴えが怖いという話もあって、大学も大学ですねぇ、の
印象。

 学生におもねてるのか近づいて親しみやすくなっているのか、金沢大では
「ゆったり湯学」なる講義があって、先生が「大学で学ぶのだから講義を聴く
だけではなく一緒に研究をしましょう。いい研究論文を書いた人には温泉一泊
にご招待!」と言ったとか。でも中身はまじめで、温泉と地質、水の関係とか
健康、病原菌やら掘削、その上「温泉豆腐」の作り方にまで至る幅広い総合的
な講義。石川県という有数の温泉がある土地柄を活かした研究でもある。新入
生から四年生、社会人もいる講義だそうだから導入としては大成功だろう。そ
のうち先生も浴衣姿で講義するかも。

 かくて法人化で世間にオープンな姿が紹介されつつあるが、これらのことは
やろうと思えば「国立」時代でもできたこと、やっていたことも多かろう。こ
とさら宣伝するまでもない。ただ世間の目が好意的になっていることの現れか
もしれない。でも、本当はこのマイナス面がまだ見えないところに問題が潜む
のだ。それは六年後の評価の時に顕著になる。それにしても法人化ってできて
しまえばみんなガンバル人達なんですね、大学人って。