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『朝日新聞』2004年6月16日付 時時刻刻 公立大、存在意義探る 「首都大学東京」構想 「これまでにない新しい大学をつくる」と石原慎太郎都知事の号令で始まっ た都立大学改革。しかし、都立4大を廃止し05年春の開学を目指す「首都大学東 京」は、設置認可申請を済ませた今も揺らいでいる。都が強行した改革案に、 教員らの反発は根強い。「地元に必要な学問」をテーマに掲げた首都大は、公 立大改革のモデルケースとも位置づけられるだけに、生き残りをかける各地の 公立大も注目する。(山本桐栄) ◇ 都と教授陣、深い溝 最後の勝負−。新大学を担当する都大学管理本部の職員は焦りをにじませた。 都は17日を締め切りとして、新大学の教員に就く最終確認となる「就任承諾 書」の提出を都立4大学の教員計約500人に求めている。リストラせずに全員を 新大学に迎える、というのが都側の基本的な考えだ。しかし、この承諾書はす んなりと、提出されそうにはない。 124人の教員を抱える都立大人文学部の教授会は3日、「このままでは、就任 承諾書は提出できない」との方針を決定した。新大学から1年遅れで刷新する大 学院構想が明らかにならないことや、教員の任期を5年ごとに更新する任期制と 年俸制導入による教員の身分保障が明確でないことが理由だった。 都は14日、急きょ都立4大学の学長・総長を都庁に集めた。 「給与制度などについては教員側の意見も聞いて考える」。都の担当者はそう 理解を求めたが、学長側からは「そもそも任期制・年俸制には問題がある」と いう意見も出たという。 長引く混乱の発端は昨年8月、石原知事が、都と大学関係者で作った新大学構 想を「都立大の温存だ」と白紙に戻し、いまの学部構成を一から作り直す構想 を打ち出したことだ。以降、「新しい大学だから、現大学の教員と協議してい ては改革ができない」と突っぱねる都と、大学側の溝は深まった。 都が集めた承諾書を文科省に提出する締め切りは、7月2日に迫る。多数の教 員分が欠けるようであれば、都が目指す7月認可は絶望的。そうなると大学院の 夏の募集は無理で、高校からの推薦入試も厳しくなる。 人文学部のある助教授は「就任承諾書の提出保留は、新大学でも今の研究が 続けられるような体制づくりを求める最後の手段。ほかに就職口があるわけで はなく苦しいが、ギリギリまでやるしかない」と話す。 ◇ ミニ国立大に限界 新大学は、全面的に「都市」を意識した研究・教育の場になる。 文系・理系の垣根を取り払い、「都市教養」「都市環境」「システムデザイ ン」などの4学部を設置。受験生にも人気が高い都立大の人文学部は解体され、 多くの教員は、学部ではない「基礎教育センター」などに配属される。都立大 の法・経・理・工学部は都市教養学部内のコースとなる。 都立4大学への都の補助金は、年間約140億円に上る。都は「首都圏に約200の 大学がある中、特徴のない『ミニ東大』では、税金を使う説明がつかない」と 話す。 しかし、都市を意識した「実学重視」の姿勢には反発もある。「すぐに役立 つ実学志向だけでは大学は衰えるのではないか。経済効率の観点で教育内容に 土足で踏み込まれるようなことでは困る」。都立大の茂木俊彦総長は、強行に 改革を進めてきた都のやり方への不安を話す。 全国に77ある公立大の多くは財政難や少子化を背景に、統廃合や法人化への 改革を迫られている。 京都府立大学などの改革に取り組む京都府庁の担当者は「歴史や文化がある 京都の特色を生かした取り組みの案もある。生き残りには地域性を生かすこと が重要で、東京の例も参考になる」。 2年後に法人化をめざす名古屋市立大の大学改革担当者は「地域貢献を強調し た点は参考になる。しかし、あんな劇的なことまでするのかと驚いた」と話す。 公立大学問題に詳しい野田一夫・多摩大学名誉学長は「改革の理念について、 多くの人を納得させられる説明が必要だ。強引な改革に都民から不満の声が出 ないのは、都民に必要な大学になっていない大学側にも責任がある」と指摘し た。 ◇ 学長就任予定 西沢潤一さんに聞く(公立大協会長・岩手県立大学長) 地域の役に立つ視点を −首都大学東京はどのような大学を目指しますか 「都がつくる以上、東京に必要な研究や教育をするべきで、そこから新しい 学問も生まれてくる。世界で一番になる特徴を持った人間を出す。みんなが同 じ難しい本ばかり読むのでは、新しい学問はでてこない。人間教育を優先した ヨーロッパの私立大に近い形が理想だ。技術教育を重視する米国型では、大物 は育ちにくい」 −公立大は今後、何を目指すべきですか 「従来のような国立大のミニ版で、特徴を持たない公立大はつぶれていく。 基礎的な研究に徹することは国立大に任せ、公立大にはどう地域に役立つかと いう視点が必要。岩手県立大では、地域の高齢者を助けるための研究が、学会 で高く評価された例もあった」 −東京都と都立大の対立をどう見ますか 「東京都の職員は、良くも悪くも大学教授への対応に慣れておらず、誤解が 生まれたのだろう。05年度開学という日程も、準備期間が短く、少々重荷だっ た。反対している先生ともざっくばらんに話をしたい。いつまでも足踏みして いるわけにはいかず、話し合っていきたい」 |