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新首都圏ネットワーク


首都大学東京における英語教育についての意見(6/4)

東京都立大学人文学部・英文学専攻

 東京都立大学では、石原慎太郎氏が都知事に就任直後の2000年はじめ頃から、
都立4大学(東京都立大学、都立科学技術大学、都立保健科学大学、都立短期大
学)の再編統合を柱とする大学改革が進行してきました。大学管理本部は首都
大学東京における英語教育についてその基本設計を河合塾に委託し、河合塾の
提案を取り入れたと思われる英語教育案の概要を都庁HPなどで示しています。

 都立大学英文学専攻は、従来都立大学の英語教育を責任を持って担当してき
ました。また、2003年7月31日に至る改革準備作業に積極的に加わり、都立新
大学の英語教育について詳細で具体的なプランを作成しています。こうした経
緯を踏まえるとき、都立大学英文学専攻は、管理本部が示す首都大学東京の英
語教育基本設計に対し、深い憂慮と遺憾の念を表明せざるをえません。

 また、大学管理本部による英語教育案の内容についても、以下の観点から全
面的には賛成できかねるものであることを明らかにしておきます。

 1.大学における英語教育の目的 大学における英語教育の主たる目的は、
各専門分野における英語文献読解のための基本能力の獲得、研究成果の英語に
よる発表・公開の技術獲得にあります。口頭コミュニケーション能力の獲得は
これに付随し、またこれを補完するものと位置付けられるべきです。これらの
諸技能が相互に補完しあって、総合的な英語力が向上していくことは言うまで
もありません。

 しかしながら、管理本部案では、必須の8単位のうち6単位までが口頭コミュ
ニケーション能力向上に充てられており、大学における英語教育の基本的枠組
としては、いちじるしく均衡を欠いていると言わざるを得ません。これでは専
門課程に進んだときに必要となる読解力、文章作成力、語彙力の大幅な低下が
深く懸念されます 。

 2.学習者の状況との乖離 従来東京都立大学に入学してくる学生、今後首
都大学東京に入学するであろう学生、また現代日本の大学生一般は、一定水準
の読解力・文章作成力・語彙力に比して口頭コミュニケーション力に弱点があ
り、多くの者がそのように感じていることも事実です。それと同時に、現代の
日本人学生の英語による口頭コミュニケーション力は、その他の能力に比して
個人差がはなはだ大きい部分でもあります。

 このような状況の下で管理本部案(1週間2コマを1年半、通算6コマのネ
イティブスピーカーによる授業)のように、英語教育の重点を一気に口頭コミュ
ニケーション能力向上に移行し、「ダイレクト・メソッド」による授業をおこ
なうなら、教員と学生の間の意思疎通に大きな混乱を引き起こし、教員の発言
のほとんどすべてを了解する一部の学生と、教員の発言をほとんど理解できな
いかなり多くの学生を、クラスの両極に発生させる結果になるでしょう。

 したがって、管理本部案では、口頭コミュニケーション能力の向上という目
標を十分に達成できないばかりか、現在の学生が持っている他の分野の英語力
の著しい低下を招くことが懸念されます。

 3.責任ある教育体制、教員組織 教育に当たる教員のできるだけ多くが、
大学運営にも責任を持つ常勤教員であることが、授業外の指導を十分に行える
など、学習者である学生の立場に立つとき望ましいことは、明らかです。

 外部委託をおこなう場合には、ややもすれば十分な資格と経験のない者を授
業担当者とすることになり、教育責任の所在が曖昧になるばかりでなく、付随
して様々な問題が予想されます。外部委託による授業担当者の勤務管理につい
ては、外部委託先に全面的な責任を負ってもらうばかりでなく、予測される問
題(セクシャル・ハラスメント等)についても、外部委託先に法的処置の保証
を求める必要があります。

 外部委託先の授業担当者が引き起こす問題については、英語担当専任教員は
責任を負うことはできません。

 また、外部委託先の授業担当者がおこなう授業の単位認定については、今後、
十分な検討が必要です。

 以上、都立大学英文学専攻は、管理本部が提示する首都大学東京の英語教育
案に深い疑惑の念を有しており、首都大学東京における英語教育の未来に強い
不安を覚えていることを、まず確認しておきたいと思います。その上で、管理
本部案を一つの「叩き台」として実務的な協議に入ることを提案するとともに、
あらかじめいくつかの修正を提案させていただきます。

 1.教育内容の配置については下記のように修正すべきである。
   英語I(Listening/Speaking) 6単位→4単位
   英語II(Writing/Grammar) 1単位→2単位
   英語III(Reading/Vocabulary Building) 1単位→2単位

 バランスの取れた英語教育を行うためには、すくなくとも以上のような授業
の配置が求められます。

 2.実践英語II、実践英語IIIのコース・ディスクリプションについては、空
疎なキャッチフレーズにとらわれることなく、実質的な教育内容にふさわしい
説明に変える必要がある。

 3.なお、科目名の「実践英語I、II、III」については、設置認可の審査と
の兼ね合いからも、正式な科目名としては、すべて「英語I、II、III」に改め
る必要がある。

以上です。