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新首都圏ネットワーク


『毎日新聞』2004年6月12日付

未公開株:阪大発ベンチャー 臨床試験担当教授に数億円分


 大阪大病院で遺伝子治療薬を人体に投与する臨床試験を実施した教授ら5人
が、この薬の商品化を目指す阪大系の大学発ベンチャー企業「アンジェスMG」
(大阪府豊中市)から事前に未公開株を取得していたことが分かった。同社は
その後上場し、取得株の価値は現在の株価で計数億円分に上る。直ちに違法と
は言えないが、製薬会社の株式保有者による臨床試験はデータの信頼性が担保
されにくく、米国では学会などが禁じている。阪大は11日付で、学内にガイ
ドライン作りに向けた委員会を設置した。

 関係者らによると、臨床試験は足の血管が詰まる病気の治療薬として、肝細
胞増殖因子(HGF)と呼ばれる特殊なたんぱく質を作る遺伝子を患者に投与
するもの。阪大教授(60)が総括責任者として98年に大学側に申請、国の
審査も経て01年5月に実施が認められた。

 一方、ア社は99年、HGF遺伝子治療薬の主要特許を持つ元阪大助教授
(42)が中心になって設立。01年1月には、この薬の開発に関し大手製薬
会社との提携を発表した。

 未公開株を取得したのは、臨床試験メンバー約10人のうち、少なくとも総
括責任者を含む教授2人と医師3人。いずれもア社設立時には出資していない
が、提携発表前月の00年12月、第三者割当増資に応じ1株5万円で20か
ら数株を取得した。その後、1株100円の株主割当増資により、保有株数は
教授2人が各320株に。医師らも各数十株に増えたとみられる。

 臨床試験は01年6月〜02年11月に患者22人に対して行われ、ア社は
この間の02年9月に大学発ベンチャーで初めて東証マザーズに上場、1株約
40万円の値を付けた。現在の株価は70万円台で、320株だと2億200
0万円以上の計算になる。総括責任者は上場時に、既存の株主が証券会社を通
じて売ることのできる価格(ア社は1株約20万円)で半数を売った。売却価
格は約3200万円だった。

 この臨床試験は、ア社の資金提供を伴わない阪大の研究活動として行われた
が、ア社は昨年、臨床データを活用して最終の臨床試験を国に申請、認められ
た。現在、全国の複数の病院でア社の資金による最終臨床試験が実施されてい
る。

 株式保有者による臨床試験について、元助教授は「ガイドラインがない中で、
一生懸命取り組んでいることを理解してほしい」と説明。総括責任者の教授は
「法的に問題ない」、もう1人の教授は「疑念を抱かれないようなルールは必
要だ」と話している。

 ■宮原秀夫・大阪大学長「寝耳に水の話」

 寝耳に水の話で驚いた。このベンチャー企業の運営は文部科学省などに相談
しながら行われていて、法的には問題ないと聞いている。しかし、指摘を受け
たので、すぐに委員会を設置し検討を始めた。今はその検討結果を待ちたい。

 【大学発ベンチャー】大学で生まれた特許や新しい技術などの研究成果を事
業化する目的で設立された企業。大学の教員らが設立者になったり、大学自体
が出資者になる場合もある。新しい産業を創出して国際競争力を高め、国内経
済を活性化させる起爆剤として期待されている。経済産業省の調査では00年
度以降、年間100社以上の大学発ベンチャーが生まれ、今年3月末現在で7
99社を数える。これまで生み出したベンチャーの数で比べると、早稲田大の
50社が最も多く、東京大(46社)、大阪大(45社)、京都大(40社)
と続く。