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新首都圏ネットワーク


『西日本新聞』社説 2004年6月8日付

国立大法人 オンリーワンの個性磨け


 ずらりと掲げられた「目標」をみると、なかなか壮観だ。相当なことができ
るのではないかと、国立大学法人への期待を新たにする人も多いのではないか。

 四月に法人化された国立大八十九校の、今後六年間の教育・研究と運営の指
針となる中期目標・計画が、決まった。

 昨年秋の素案段階では、多くの大学が「教育や研究になじまない」として具
体的な目標の明示を避けたが、文部科学省の国立大学法人評価委員会に強く促
された結果、数値目標や目標達成時期を記した大学が最終的にはそれぞれほぼ
半数に達した。

 「大学を基盤とするスポーツクラブを創設する」(鹿屋体育大)「全授業の
二分の一以上を市民の公開授業に」(高岡短大)と地域密着型を鮮明にする大
学があれば、「特許取得数を中期目標期間中に倍増」(静岡大)「司法試験で
法科大学院が全国平均を上回る合格率を」(熊本大)など研究・教育の一定の
成果を約束した大学もある。

 長崎大の「就職先の協力を得て卒業生の社会貢献度を調査し、大学教育の成
果を検証する」という学生の卒業後のフォローも興味深い。

 国の手厚い保護を受けてきた国立大が将来の青写真を自ら描いたのは、初め
てである。これは社会への「公約」といえ、各大学は独自の魅力を磨くスター
ト台にしてもらいたい。

 中期目標・計画は評価委が達成度を評価し、各大学への文科省の予算配分に
反映される。大学経営に大きな影響を及ぼすだけに、評価は公正公平でなけれ
ばならないのは当然だが、その方法や基準はまだ決まっていない。

 評価のあり方を考える評価委には、細心の注意と配慮を求めたい。

 例えば、文科省の意向が色濃く反映されるような評価になっては問題だ。国
の組織からの独立、という法人化の趣旨そのものが揺らぐからだ。

 規模や教育、研究内容が異なる大学を同じ基準で評価するのは無理があるし、
短期間では成果が上がりにくい基礎研究などが疎んじられないような配慮も欠
かせない。

 求められるのは、大学を委縮させず、個性を伸ばし、努力した大学が正当に
報われるような評価だろう。

 法人化した以上、大学は自立しなければならない。大学の定員枠と受験生数
が一致する「大学全入」時代も近い。生き残りをかけた大学間競争は、間違い
なく激しさを増していく。

 中期目標・計画であいまいな青写真しか示さなかった大学は、自らの特性や
地域性を再確認し、目指すべき将来像をより具体的に描く努力をしてもらいた
い。

 大学に対する国民の目は厳しい。運営をどう効率化し、どんな教育・研究、
地域貢献に力を入れるかをはっきりさせなければ、社会の支持も得られない。