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『朝日新聞』岩手版 2004年4月15日〜4月16日付 [チェンジ――岩手大法人化] (1)現状 3月末、法人化を目前に控えていた岩手大に、大きな衝撃が走った。 入試の結果、合格者が定員に達しなかった学科があったのだ。 工学部情報システム工学科は、定員17人に14人しか受験せず、合格した のは11人だった。農学部農林環境科学科は、定員24人に16人が受験、合 格者は14人だけだった。 両学科とも、欠席者の割合は例年5割程度だが、今回は7割も欠席していた。 2次募集するのは、89ある国立大のうち、岩手大を含む7大学だけの「不 名誉」。大学入試センター試験が始まった90年以降初めての事態だ。 2次募集にあたって県庁で会見した、同大の稲垣博明入試課長ら入試担当者 は、原因を聞きたがる記者に囲まれて「前期で確実に合格を決めた受験生が、 後期は冒険しなくなったからか・・・」と、表情をこわばらせた。 2次募集で定員は満たした。だが「今後、人気のない学部学科でも同じこと が起これば、2次募集でも人が集まらない可能性もある。そうなってはアウト でしょうね」と語る学務担当で理事の進藤浩一副学長は「今のままではいけな い」と、気を引き締めている。 法人化は、大学に運営面で大幅に裁量を与える。とはいえ、岩手大の場合、 04年度予算約121億円のうち、63%にあたる76億5千万円は国からの 運営費交付金。首根っこは、しっかりつかまれている。 その上、国の国立大学法人評価委員会などに、大学の取り組みを評価される ようになる。そこでは、研究成果だけでなく、教育や、卒業生の就職率も重要 な要素となる。取り組みが不十分とされれば、運営費交付金を減らされかねな い。 「少子化で受験生が減り、学力が低い合格者も入って来る。これまで通りの 教育をしても、身につかない学生が出てきて、就職にも響く。就職率の悪い大 学は敬遠され、輪をかけて受験生が減る。この(悪)循環は避けたい」と、大 学関係者は恐れる。悪循環にはまって、運営費交付金がどんどん減らされれば、 最悪の場合、再編や統合の対象にされかねない。 7日の入学式で、平山健一学長は、法人化後の1期生となった1350人の 新入生を前に「法人化」の意義を自ら説明した。 「まとまりよく、活気ある大学は社会からの評価を高めます。逆では、大学 としての存在価値を低下させてしまう」と。 ◇ 4月1日、岩手大は「国立大学法人岩手大」となった。法人化を契機に、大 学を取り巻く厳しい状況を変えようとする、動きを探った。 国立大学法人化 法人化前は、国立大は文科省の一組織で、学科名変更にも省令改正が必要だっ たほか、研究費も柔軟に使えなかった。法人化すれば、大学が個性を生かした 教育研究に取り組めるようになる。だが主に税金で運用される点は、変わらな い。 [チェンジ――岩手大法人化] (2)学生 「いらっしゃいませ」 「また、どうぞお越し下さいませ」 午前9時40分。盛岡市菜園の川徳デパートの各階から、元気な声が響く。 店員が売り場ごとに集まり、元気な売り場を作るために基本動作を確かめ合っ ている。名付けて「活力朝礼」。 この制度を導入したのは、同社の営業部門のトップで、常務の吉田浩次さん (63)だ。 「入社して、40年間接客一筋。たたき上げで汗を流してきた」という吉田 さんは、4月から岩手大の経営方針を決める経営協議会の委員への就任を頼ま れた。「学生=消費者。接客現場の経験が改革の刺激になれば」と、吉田さん は意気込む。 「うちの大学は、(研究より)教育を一番にした大学だということをご認識 頂きたい」 1日、法人化について平山健一学長は、教職員らにこう強調した。 岩手大は法人化後6年間の「中期目標・中期計画」で、教育サービスの充実 を最重点に置いた。吉田さんの起用も、「民間の視点を生かして欲しい」(斎 藤徳美副学長)と期待したものだ。 次々、思い切った手も打ち出している。 法人化後、最大1割値上げできる授業料を据え置いた。教育の内容、成績評 価、教育技術などの検討と実施を一元的に扱う大学教育センターを設置。進路 を変えたくて退学する学生が増えていることから、転課程、転学部制度の導入 も検討しはじめた。不登校になってしまった学生を大学に復帰させるためのカ ウンセリング制度や、成績評価への苦情を受け付ける窓口なども設ける。 担当者は、「ここまでの対応は、国立大では珍しいはず」と誇る。 改革の背景には、就職率を底上げしたい思いもにじむ。 学務担当で、理事の進藤浩一副学長は「基礎、基本を身につけ、社会に出て 応用可能な即戦力になってもらう。入学から卒業まで一貫して支える」と語る。 幸先良いニュースも入ってきた。03年度の就職率は全学部平均で86・8 %と、前年度比10ポイント以上も伸び、過去10年で最高になった。教員や 就職委員会が就職指導に力を入れ、漏れがないよう厳密に調査した。「法人化 で、就職率の良しあしは、相当評価されると感じていた」と、後藤周悦・就職 支援室長は語る。 研究面では、旧帝大にかなわないと読み、教育にシフトしたのは、現実的判 断だった。 「法人化は、大規模な大学をさらに大きくし、小規模な大学を苦しくするの は目に見えている」と心配している教授も「特色を出すため、教育を中心に据 えた判断は、妥当だと思う」と、評価している。 中期目標・中期計画 法人化後6年の経営策。国はこの達成度を見て、その後の運営費交付金の額 を考える。岩手大は教育サービスの充実のほか、地域特性を踏まえた研究成果 の社会還元、なども掲げている。 |