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新首都圏ネットワーク


『日本経済新聞』関西版 2004年5月31日付

<先望鏡>未熟さ残る大学教員任期制──再任審査、明確な基準を


 欧米に倣い、大学教員の流動性を高めて優秀な人材の受け入れを促すため、
「任期制」の導入をうたった法律が施行されて7年になる。大学の再編・法人化
と歩調を合わせるように浸透しつつあるが、「制度的に未成熟なのでは」と考
えさせられる訴訟の判決が今春、京都地裁であった。

 原告は京都大の研究所の元教授。任期満了で再任を申請し、業績を検討した
外部の専門家による評価委員会から「再任可」とされたのに、教授会に当たる
協議員会が再任を認めなかったのは恣意(しい)的――として、大学側などに
処分の取り消しを求めていた。

 判決は「法律上、任期制教員に再任してもらう権利はない」として訴えを退
けた。「協議員会の審査は適正だった」とした大学側に軍配を上げたが、「協
議員会が評価委員会の決定を全面的に覆したのは極めて異例」とも言及してお
り、再任を認めなかった理由をつまびらかにしない大学側の姿勢に、裁判所が
苦言を呈した感は否めない。

 元教授は判決を不服として控訴しており、大阪高裁で双方の論争が続くが、
協議員会が本人にきちんと説明していれば、法的手段に訴えなくてもすんだの
ではないか。

 大学の教員はいったんポストに就くと、研究や教育に熱心でなくても定年ま
で職を奪われる心配がない。その割を食って、優秀な若手研究者がなかなかポ
ストに就けない。任期制は、そんな問題を解消する狙いもある。2002年10月時
点で国立大学の7割弱の65校が導入済みだ。

 「再任は可」としている部局が多いが、客観的な審査の基準を巡って頭を痛
めているようだ。

 例えば、研究、教育、地域、貢献などのカテゴリーに分けたうえ、研究だと
学術誌に掲載された論文や特許発明などの項目を細かく設定してその年間の件
数を点数化させ、一定ラインをクリアしていれば、「再任」を認める――など
方法はいくらでもあるだろう。ところが、基準の解釈が難しいのか、「1年以上
協議しているものの、甘くするか厳しくするかで議論がまとまらない」(九州
大学医学研究院)といった声も聞かれる。

 その九州大では4月の国立大学の独立法人化にあたり、教員の任期に関する規
則の中に「再任の可否にかかわる教授会の審査結果に不服がある者は、教育研
究評議会に申し立てを行うことができる」とする条項を盛り込んだ。大学とし
ても恣意(しい)的な審査を排除していこうという新しい試みについて「別の
運用上の問題が生じる恐れもあるが、大きな進歩」と法律関係者は評価する。

 任期制の教員から再任審査があった場合に、公正かつ適正な評価がなされな
ければ、学問の自由や大学の自治に関する趣旨が根底から損なわれかねない。
大学側は待ったなしの対応が迫られている。
(編集委員 西山彰彦)