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新首都圏ネットワーク


『日本経済新聞』2004年6月1日付

近畿のTLO、大学から企業への技術移転加速──3機関合計で昨年度7割増69件


 近畿の技術移転機関(TLO)が大学の研究成果を企業へ橋渡しする技術移
転を加速している。国が承認した近畿3TLOの2003年度の移転件数(オプショ
ン契約含む)は69件で、前年度に比べ7割増と過去最高となった。企業に技術を
売り込むコーディネーターの陣容強化が奏功した。ただ特許収入はまだ少なく、
補助金なしで安定経営するために移転件数の拡大が必要だ。

 国が承認した近畿のTLOは1998年承認の関西TLO(京都市)、2000年承
認のTLOひょうご(神戸市)、01年承認の大阪TLO(大阪市)の3つ。いず
れも各地域の複数の大学の技術を移転する広域型TLOに当たる。

 03年度の移転件数で最多は大阪TLOで、前年度比5倍の32件。おからを再利
用する大阪府立大学の技術を大阪市の食品ベンチャー、体内のアルコール濃度
測定法の大阪医科大学の技術を医薬品メーカーにそれぞれ移転するなどバイオ
関連が目立つ。

 大阪TLOは設立以来、移転件数が低迷していたが、昨年4月に薬品メーカー
OBら3人をコーディネーターに起用。企業向けに保有特許のPRを強化したの
が奏功した。

 TLOひょうごは7件増の22件。神戸大学の高分子微粒子技術を情報系企業へ、
明石工業高等専門学校の生ごみ処理技術を県内企業へそれぞれ移転した。同T
LOは「昨年5月、担当分野を7つに分け、それぞれコーディネーターに責任を
持たせたのが効果的だった」と分析する。

 一方、関西TLOは前年度より5件少ない15件にとどまった。独立法人化を控
えた国立大学が特許を自前で抱え込む傾向が出てきたのが影響したという。

 TLOの活動状況を見る指標に、技術移転率(特許出願件数に占める技術移
転件数)がある。経済産業省によると、全国平均の移転率は最新の03年12月現
在で約23%。東北大などが参加する東北テクノアーチ(仙台市)の約8割と比べ
ると、大阪TLOの19%など近畿の3TLOは大きく見劣りする。

 承認TLOは年最大3000万円の補助金を受けられるが、期間は承認後5年。特
許収入は大阪TLOで数百万円、関西TLOでも約3000万円にすぎない。移転
件数が伸びなければ6年目以降は経営悪化も予想される。

 経産省は今夏、バイオなど成長産業分野に特化した承認TLOを財政支援す
るスーパーTLO制度の創設を予定している。補助金受取期間が終わった関西
TLOは応募を検討中で、中村卓爾常務は「どの企業が技術を活用できるかと
いうマーケティング力が重要」と話している。

▼技術移転機関(TLO) テクノロジー・ライセンシング・オーガニゼーショ
ンの略。大学の研究成果を特許化し、その技術を企業に移転、企業は新製品な
どに事業化する。その対価を大学での研究資金に充て、新たな研究成果を生み
出す機関。国が承認したTLOは全国37カ所で、近畿2府4県では3カ所ある。承
認TLO第1号は1998年12月承認の関西TLOを含む4TLO。