トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク


『毎日新聞』2004年5月29日付(夕刊)

横浜市大、地方独立法人に移行へ キャンパスは『異常事態』 学生は不安、
研究者は去っていく

学生ウイークリー キャンパる 

国公立大学の「改革」

 国公立大学の「改革」に反発して、キャンパスを去る研究者が少なくない。
横浜市立大国際文化学部教授だった今谷明さん(61)=写真、円内=もその一
人だ。同教授の退職は同学部生の私にも大きな影響を与えた。「改革」の中で、
学生の不安は増す一方である。【横浜市立大・今井美津子、写真も】

横浜市大、地方独立法人に移行へ
キャンパスは『異常事態』
学生は不安、研究者は去っていく

 中田宏・横浜市長を中心に同大改革が進められている。来年度には地方独立
行政法人に移行する予定だ。改革案は(1)教員の任期制・年俸制の導入(2)商・
理・国際文化の3学部を統合(3)研究費の原則カット(4)学費の値上げ(5)教員の
削減などだ。

 これに反発して国際文化学部では4学科の2学科長が03年度限りで大学を去っ
た。今谷教授もその一人だ。「室町の王権」(中公新書)、「信長と天皇」
(講談社学術文庫)などで知られる日本中世史の専門家。86年から18年間、同
大に在職してきたが、今春、国際日本文化研究センター(京都市)の教授に移っ
た。

 同教授は「今までありえなかった異常事態だ」と語る。今回の改革は教員た
ちにとって「不合理を感じさせるばかりだ」と言う。「大学行政にかかわった
ことのない市長と市職員で進められ、教授会は無視されてきた」からだ。市長
の諮問機関である「市立大学の今後のあり方懇談会」にも、同大教授は含まれ
ていない。

 次の職場も決まらないうちに「大学を辞める」と宣言した教員もいるほどだ。
今谷教授は「今までの環境が良すぎた。教員は自由に研究できたのに、この改
革は納得できない」と語る。今回の改革で研究費もカットされることになり、
研究費を自己ねん出しなければならなくなった。「忙しくて研究どころではな
くなる」という。

 今回の退職は「市長のやり方に耐えられなかった」からだ。今谷教授は「学
生が素直で教えやすい。教員にとって非常に良い環境で、大学を辞めるつもり
はなかった」という。「予算は5%、10%と徐々に減らしていくべきだ。今回の改
革は大学の伝統を無視している。予算と伝統を調整しながら、改革を進めるべ
きだ」と指摘する。

 大学改革の目的のひとつとして「優秀な教員の流出防止」があげられている。
しかし、学生から尊敬される教授が学外に去らざるをえない。これでは全くの
逆効果ではないだろうか。