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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』社説 2004年5月25日付

都立大統合――現場の声をよく聞いて


 東京都立大や東京都立保健科学大など都立の4校をまとめて新しい大学をつ
くる構想が、都の申請を受けた文部科学省から大学設置審議会に諮問された。
新大学の開設は、昨年4月に再選された石原都知事の選挙公約のひとつだった。

 大学の再編や統合そのものは、国立大学でも広がっており、大きな流れとい
える。問題はその進め方である。都側と各大学がよく話し合い、練り上げたと
はとても思えないからだ。

 4校の中では東京都立大の規模が一番大きい。新大学づくりにあたっては、
その教職員の意見を十分聞くのが当然だろう。しかし、どんな教育コースを新
設するかなどを検討する部会にはだれも入らず、単位認定の仕組みを検討する
部会への参加も1人だけだった。

 新大学の目玉となる都市教養学部の「都市教養コース」「国際文化コース」
などにいたっては、理念づくりや授業科目を予備校の河合塾に外注した。

 こうしたやり方に抗議して、東京都立大の法学部では教員4人が辞職した。
経済学部でも12人が移行を拒否した。

 申請を急いだためか、大学院は再編案が間に合わず、ほぼ今のままの形で申
請された。新しい大学院の姿がはっきりしないのでは、勉学を深めようとする
学生は不安になるだろう。

 教育現場の不安や不信を引きずっていては統合もうまくいくまい。大学設置
審議会は、大学側の意見をじっくり聞くなど腰を据えて論議してほしい。

 国立大学が法人に移行するのと併せて、公立大学も法人化が可能になった。
都立の新大学も法人化をめざしているという。ならば、都と大学側の意思疎通
はその面からも大事だろう。

 東京都立大にも注文をつけたい。

 77校でつくる公立大学協会は昨年秋に「地域のかかえる今日的課題を常に
念頭に置いて」研究・教育に取り組まねばならないという見解を出した。大学
が競争時代に入る法人化を意識したものだが、自治体が設立しているのだから、
当然といえば当然のことだ。

 しかし、その点で、東京都立大の努力は十分だったとは言い難い。都市科学
研究科や都市研究所をつくったのは、ほんの10年前だ。他大学で盛んな地元
高校への出張授業などもわずか。大学の研究を起業に結びつけた「大学発ベン
チャー」も、まだもっていない。

 大学の原型は、中世の教会で聖職者をめざす若者がワラ束を持って集まり、
回廊のあたりに腰を下ろして教師の話を聞いたことだという。「学生と教師が
いれば、それが大学だった」と、歴史家の阿部謹也さんは書いている。

 研究や教育の主役は、いつの時代も教員と学生なのである。

 東京都は設置者の権限を振り回さず、現場の声に耳を傾ける。大学側も地域
に何ができるか真剣に考える。そうあってこそ、よりよい大学ができる。