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新首都圏ネットワーク


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Academia e-Network Letter No 112 (2004.05.19 Wed)
http://letter.ac-net.org/04/05/19-112.php
ログ http://letter.ac-net.org/log.php

━┫AcNet Letter 112 目次┣━━━━━━━━━ 2004.05.19 ━━━━

【1】投稿: 佐藤清隆氏(広島大学)より

【2】横浜国立大学で整理解雇規程を修正!
http://www.h6.dion.ne.jp/~uni-uni/shu-ki-mov/index.htm

国立大学法人 就業規則・管理運営規則等 データベース より
http://www.h6.dion.ne.jp/~uni-uni/

【3】都立大学の危機FAQ 廃校 or 改革?
P17: 2004年5月13日の「人事給与制度説明会」での
その他の質問にはどんなものがあったのですか? 04.5.17
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-p.html#jks-2

【4】NPO Science Communication News 速報版 目次
    研究ニュース・イベント案内号 No.33 2004年5月17日号より
http://blog.melma.com/00106623/20040517080010
http://blog.melma.com/00106623/20040517080020

 【4-1】NPO SciCom News No 33 編集後記:いつ諦めるか

━ AcNet Letter 112 【1】━━━━━━━━━━ 2004.05.19 ━━

投稿:佐藤清隆氏(広島大学)より

──────────────────────────────

国立大学の法人化後に起きた顕著なことの一つは、教員が役員会に
直属するなんらかの中間管理職についたとたんに、あたかも自らが
管理者であるかのごとくに、トップダウン的な意識が芽生えて、も
しその役職についていなければ批判しているに違いない非民主主義
的な管理運営などにたいする批判精神が、蒸発しつつあることです。
トップダウンを旨とする法人役員会の管理意識の擦り込み現象が、
一瞬の間に起きました。もちろんこの現象は、全ての中間管理職に
当てはまることではありません。しかし、その方向に進む動きはあっ
ても、その逆は見当たりません。

一部の当事者は、「他人には分からない心の葛藤や煩悶があるのだ」
とおっしゃるでしょう。しかしいずれの地位にあろうとも、管理者
たる者は、その外的な行為が現実を動かし結果責任を負うのであっ
て、内的な葛藤は醜い自己弁護でしかありません。人間にとっての
最高の美徳は、上からの評価にあるのではなく、自己の信念を貫い
たのかどうか、勇気をもってその信念を外的行動として示せたのか
どうかであることを、今こそ自覚していただきたい。大学で教える
ことは、知識に加えてそのような美徳なのではないでしょうか。自
らが試練に立たされてそれを実践できないでおいて、何を学生に伝
授せよと言えるのでしょうか?

上記の擦り込み現象は、「客観的存在が意識を規定する」という、
まことに単純で滑稽な事例ですが、それが大学という現場で起きつ
つあることの影響は甚大と思われます。教職員組合などからの根底
的な問いかけや批判がなければ、やがて国立大学法人は全体主義国
家と等価になります。

批判精神のメルトダウン。たった50日で発生し伝播しつつあるこの
精神的ウイルスが、新たな感染を広げれば広げるほどに、まずは批
判精神が希薄化し、そのうち批判精神を恐れ、やがて、批判精神そ
のものを押さえつける人々が管理する大学が、未来永劫、日本の高
等教育を担う主流となるでしょう。

これほどおぞましいことはなく、その結果は、日本のあらゆる階層
の人々に災いとなって降りかかるでしょう。

広島大学 佐藤清隆

──────────────────────────────
#(国立大学法人法案可決直前の2003/7/3に佐藤氏が参議院文教科
学委員に送付した書簡:
http://ac-net.org/kd/03/707.html#[5]
http://ac-net.org/dgh/03/703-sato.php


━ AcNet Letter 112 【2】━━━━━━━━━━ 2004.05.19 ━━

横浜国立大学で整理解雇規程を修正!
http://www.h6.dion.ne.jp/~uni-uni/shu-ki-mov/index.htm

交流連絡会(「国立大学法人法」に反対する大学教職員交流連絡会)
国立大学法人 就業規則・管理運営規則等 データベース より
http://www.h6.dion.ne.jp/~uni-uni/
────────────────────────────── 
・就業規則の「組織改廃」解雇規定を一部修正
―常盤台地区過半数代表による就業規則への取り組み
(『組合ニュース』2004年度第1号より)

横浜国立大学常盤台地区では、過半数代表者が、同代表と9名の過
半数代表候補者で構成する「労働者代表委員会(仮)」の議論を踏
まえ、3月19日に「国立大学法人横浜国立大学・労使協定(案)
に対する意見」、「国立大学法人横浜国立大学・就業規則に関する
要望」(以下、3・19 要望書)を大学当局に提出しました。

その結果、教職員就業規則第17 条「解雇」について、「組織の改
廃又は予算の減少により廃職を生じた場合」は改められ、「事業の
運営上のやむをえない事情又は天災事変その他これに準ずるやむを
えない事情により、組織の縮小・転換を行う必要が生じ、他の職務
に配置換させることが困難な場合」と変更されました。

組織の改廃も予算の減少も日常茶飯事である以上、元の規定では、
解雇に歯止めがかからなくなるおそれがありました。3・19 要望書
では、厚生労働省監修の『国立大学法人化に向けた就業規則のポイ
ント』の規則例を示し、「天災その他これに準ずるやむをえない事
情」と「他の職務に転換させることが困難なとき」という二重の限
定条件を付すよう求めていました。新しい規定は微妙な表現ですが、
「事業上やむをえない場合」とは「倒産の危機に近い状況」を言う
との判例がありますので、大きな改善となりました。


━ AcNet Letter 112 【3】━━━━━━━━━━ 2004.05.19 ━━

都立大学の危機FAQ 廃校 or 改革? 2004.5.17
P17: 2004年5月13日の「人事給与制度説明会」での その他の
質問にはどんなものがあったのですか?
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-p.html#jks-2
──────────────────────────────

ポーカス博士

わしのメモした限りでは,大きく分けて6種類の質問があった。
(1) 住宅ローン問題,(2) 任期制・年俸制関連, (3) 「首大」の
公募問題,(4) 助手,研究員問題, (5) 職員の処遇,(6) 現大学
に所属する教員の待遇,の6つだ。メモに基づいて簡単に論点を整
理してみた。

(1) 住宅ローン問題

これは(2)の任期制と関わる問題だが,具体的で分かりやすい問題
なので別にしてみた。総長からの質問リストにもIII-4に入ってい
たが,あまりにも簡単に管理本部側が,「問題ないと思う」と答え
たために,尾を引いてしまった。「任期制を選択した場合,例えば
銀行に行って住宅ローンを借りられるか?」という単純な命題だ。
問題なしという管理本部の答えに対して,「その根拠は何か?」,
「事実として銀行に行って確かめたか?」という追加質問が出され
た。質疑の中で判明したことは,管理本部は,任期制を教員が選択
しても住宅ローンは借りられると考えているが,その根拠は無い。
銀行に行って確認したこともないというものだ。ただし,法人化に
当たっては取引銀行を決定するので,その取引銀行に言って,ロー
ンを組めるようにしたいとの補足説明があったが,あくまでも口約
束。これまで,管理本部がさまざまな所からの公開質問状に書面で
答えていないことを思い出して欲しい。口頭での答えがなされても,
普通それだけでは証拠になりにくいから,後でいくらでも引っくり
返す。例えば准教授になって任期5年だったら,5年で首を切られ
る可能性があるわけだから,長期に渡っての借金を銀行からするの
は難しいと考えるのが普通だろう。 「取引銀行を決めて,そこに
なんとかしてもらう」と管理本部が口約束しても,「話はしたんだ
けど,どうにもならなかった」ということがありえるのだ。

(2) 任期制・年俸制問題

任期制・年俸制は(O-6),「首大」の新制度として管理本部が位
置づけているが,「旧制度」という名前の不公平なシステムとの選
択ができるという形が提案されている。このいわゆる旧制度とは,
任期制・年俸制ではなく,63歳まで雇用が保障される年功序列制
度だが, 「現在の給与を定年まで据え置き」,「昇任は無し」 と
なる。この「旧制度」とは,雇用形態の「不利益変更」ではないか,
という指摘が総長の質問のIにもあったが,その点に関して法学部
の教員から, これまでの判例を見ても「旧制度」は明らかに不利
益変更ではないか との指摘がされ,管理本部が「不利益変更」で
はないとする根拠を改めて問うた。しかし,管理本部側の弁護士に
よれば,「現行の給与を保障する、現行の職位を保障する,新制度
と旧制度の選択を時間を区切って迫ってはいない」という3つの根
拠から「不利益変更」ではないとする意見が繰り返されただけだっ
た。例えば,現行の給与、職位だけを保障するのではなく,生涯賃
金という形で考えるべきだという指摘もあるが,そのようなことを
管理本部側では考えていないことが分かった。

一方で,「出産休暇,育児休業」は任期制でも保障されるか? と
いう質問が出た。この質問に関しては,管理本部側も準備がなかっ
たようで少し躊躇して相談した結果,例えば3年の育児休業を行う
場合,その期間,任期の年月は凍結され実質3年延びる,という解
釈を披露した。これは,覚えておかねばならない。

最も多かったのは,任期制・年俸制で果たして優秀な人材が集まる
か否か,という点で,これは「首大」の公募が低調な原因となって
いるという指摘が教員側から出されたが,管理本部は自信を持って,
任期制・年俸制の方が優秀な人材が集まる,という意見を繰り返し
ていた。 年俸制だから来たいという人はほとんどいないという教
員側の意見とは正反対だった。

(3) 「首大」の公募問題

すでに進行中の「首大」の公募は,どのような権限で行われている
のか,もう決まった人事はあるのか,低調だと聞いているがハード
ルを下げることを考えているか,といった質問がでた。これに対し
て,教員選考委員会と教学準備委員会が人事委員会の代りにやって
いる事,すでに公募が終了して,決まっている部分もあるし,期限
が過ぎていても決まっていないものもある,審査基準を下げる気持
はない,という回答がなされた。管理本部は,あくまでも公募の低
調さが任期制によるものではないといっていたが、それならどのよ
うな活性化の策を考えているかという質問も出たが,公募期間が短
いことから難しい面もあるが,各大学に声をかけるなどして,やれ
ることはやっているという苦しい答えが返ってきた。

総長を初め大部分の教員は,任期制・年俸制の導入こそ,低調な公
募の原因であると確信している。これは,実際にアンケートを取っ
てみれば分かるはずだが,そのような提案は残念ながらでなかった。

(4) 助手と研究員問題

研究員として位置づけられる従来の助手の仕事は,「研究や教育補
助以外の仕事がなくなる」と言われているが,実際にあるそれ以外
の仕事は誰がするのかという質問が出た。管理本部では,TAを含め
た非常勤職員を検討しているとだけ答えたが,どの程度の非常勤職
員を配置するかについては未回答。 「首大」では研究員を再配置
する,という方針に対して,管理本部の再配置案では,専門分野を
越えた再配置があるとしているが,それでは困るという意見が出た。
「なるべくそういうことのないようにしたい, 常識(!)を越えて
再配置をすることはない」というのが管理本部の答えだったが,一
方で, 科技大には助手がほとんどいないことを考えて欲しい,だ
から都立大の助手が再配置されて科技大に行くようなケースはあり
うる,との答えが返ってきた。 新大学発足直後に、助手配置のア
ンバランスを一挙に解決する必要はないのではない かとの提案も
なされたが,それに対して管理本部は直接答えず,「個別の事情は
ヒヤリングをしながら決めていきたい」と説明したにとどまった。
准教授Bは再配置の対象になる可能性が高いのか,という質問にも,
再配置の可能性がある,との答えだったが,「どのくらいの規模に
するのかを検討中である」とのことだった。研究員と准教授Bの違
いについての質問に対しては,基本給のレンジが違う, 研究員は
5年+3年のレンジで考えており, 准教授Bは,昇給の可能性が
あり,レンジが広い, 昇任審査ではなく,要件を満たせばなれる
との答えだったが,どのような要件なのかはよく分からなかった。

文系研究員に関しては,理系研究員と同様の任期(5+3)を考え
ていること,経営準備室で検討して配置案を示すこと,職務条件を
提示してから配置案を示し,意思確認書を送付したいとの方針が明
らかにされた。

(5) 職員の処遇

法人化後の職員は,すべて都からの派遣職員となるのか否か,とい
う質問に対して,管理本部側は,すべてを派遣職員とする訳ではな
く,雇用職員も含むかもしれない,と曖昧な答え方をした。経営に
関わることは,最終的に理事長により決定されると繰り返していた。

(6) 現大学に所属する教員の待遇

現大学だけに所属する人の労働条件はどうなるか,に関しての質問
も多かった。「現給据え置き。昇給無し」という基本方針を管理本
部は繰り返したが,超インフレになれば別とも発言。 現大学に所
属する教員(管理本部用語では「旧大学」の教員)の研究や教育の
条件の保障はどの程度されるのか,という質問があったが,「これ
から部屋割りを検討し,その中で考える」と回答。ようするに現大
学に残る選択をした教員の研究環境が変る可能性があることを強く
匂わせた答弁だった。部屋割りが変って,研究条件が大幅に変るこ
とになると,研究環境が保障されないということか,との質問には,
「研究だけしたいというのは、通らない。新大学が交付金を使って
いくのだ。旧大学の研究環境の維持だけを主張しても,そんなこと
は社会が納得しない」と強気の回答。現大学に残る選択をした教員,
および現大学の学生・院生の教育環境の保障にきちんとお金を使っ
ていくという姿勢をまったく示さずに終わった。

質疑応答の最後の方になって,「これだけの情報しかもらわないの
では,就任承諾書を出すかどうか判断できない!」,「ちゃんと教
員からの意見を聞くべきた」という意見が出され同意を示す拍手が
あった。管理本部側は,「建設的な意見なら受け入れます」と答え
たが,これは自分達の方針に沿った意見なら聞いてもいい 程度の
意味でしかないことは,これまでの経緯からして自明だった。最後
に切れてしまった教員からの「管理本部はまともな答えをしていな
い!権利問題と事実問題を取り違えている!」との大きな声での発
言があり,再度同意の拍手がおこり,時間切れとなった。

今回の「人事給与制度説明会」が終了したことで,管理本部は「大
学へはきちんと人事給与制度の説明に行った」と公言するようにな
るだろう。場合によっては一方的に,「教員の了解も得られている
と思う」といった発言すら飛び出すかもしれない。しかし,今回質
問をして回答を聞いた限りでは,都立大の教員は決して満足した答
えをもらったとは思わない だろう。そして,就任承諾書を出すた
めの納得のいく説明があったと考える教員は,まずほとんどいない
だろう。なぜかって? そりゃあ,管理本部の2人の参事の回答を
聞くたびに,会場のあちこちからため息が聞こえ,苦笑や失笑が絶
えなかったからだ。納得して聞いたなら,司会者が最後に説明会を
終えた時に,拍手が起っても不思議ではないだろう?司会者の宣言
によって説明会が終わったとき,さらにあちこちから落胆の声がさ
さやかれた。そして教員は拍手もせずに部屋を後にしたのだ。 納
得のいかない説明,未決定事項の多さ,不透明な決定過程 ,この
3点に尽きる。何を言ってもまともに検討しようとしない管理本部
の態度は,「のれんに腕押し」の状態だ。これでは都立大の教員の
間で,ますます不安が募る。「首都大学東京」は,今のままで行け
ば絶対に危ない。「行きたくない。どこかへ行きたい」と考えるの
は,自然な流れだろう。


━ AcNet Letter 112 【4】━━━━━━━━━━ 2004.05.19 ━━━

NPO Science Communication News 速報版 目次
    研究ニュース・イベント案内号 No.33 2004年5月17日号より
http://blog.melma.com/00106623/20040517080010
http://blog.melma.com/00106623/20040517080020
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●研究ニュース
  -文部科学省 平成15年度大学等卒業予定者の就職状況調査(4月1日現在)
について他
  -総合科学技術会議 着床前診断「容認」を撤回…総合科学技術会議他
  -大学 「大学改革は最悪のスタートに」、Nature日本特集、
国立大の中期目標・中期計画固まる他
  -産学連携 大学の研究を企業で活用 仲介のTLO、特許出願1700件他
  -教育、科学コミュニケーション 科学館のインタープリタ−、ボランティア他
  -研究の不正 揺れるNIH他
  -食品の安全 BSE:国際安全基準の緩和案に反対−−日本意見書他
  -その他 武田、新薬発明者に対する報奨金計2億円へ他
  -Books、雑誌  生命誌―Talk & research & scientist library
(2003vol.37-40)他

●研究ニュースworldwide
  -アメリカ ビザ問題で研究者、技術者が反対表明他
  -イギリス 独立系の科学者に資金を提供する団体他
  -世界 国連、サマーセミナーでクローン問題他

●イベント案内
  -首都圏ネット分析・検討会「国立大学法人化1ヶ月:
今,各大学で何が起こっているか.そして,その本質は何か」
  2004年5月22日(土)13:00〜17:00 東大理学部5号館403

  -科学技術タウンミーティング
  2004年5月30日(日)13:00〜15:00
  日本科学未来館 7階 みらいCANホール

  -公開シンポジウム:「プラクティショナーが語る
 ―参加型テクノロジー・アセスメント:その手法と意義」
  主催:「開かれた科学技術政策形成支援システムの開発」プロジェクト
  2004年6月26日午後1時〜4時30分
  科学技術振興機構東京本部サイエンスプラザ地階会議室

 ―広島大学総合科学部創立30周年記念シンポジウム
  21世紀の文明と環境 −「総合科学」の課題と可能性−
  2004年7月3日(土) 13:30〜16:00
  広島大学 サタケメモリアルホール

 ― 第40回「科学技術社会論研究会」ワークショップ  
  「市場と科学:大学の社会的機能を中心として その3」
  2004年7月3日(土)10:00-17:00
  東京大学先端科学技術研究センター13号館 109号室

●NPO法人サイエンス・コミュニケーションよりお知らせ
  -大学院完全ガイドの協力者募集!作成作業進んでいます
  -入会のご案内
  -ご寄付のお願い

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【4-1】NPO SciCom News No 33 編集後記:いつ諦めるか
http://blog.melma.com/00106623/20040517080020
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■最近、某大学院が入学試験の段階で、本人の意思とは無関係に就
職コースと研究者コースに学生を振り分ける、という話を聞きまし
た。

■研究をやりたかったのに、就職コースに振り分けられて落ち込ん
でいるという学生の話を聞いて、少々複雑な思いを抱きました。

■確かに自分の才能を顧みず、いつまでも研究職にこだわり、年ば
かり重ねるのは悲劇的かも知れません。そういう意味で、早めに別
の道への転身を提供するという理屈も分からないではありません。

■しかしながら問題は、果たして学生の研究能力を入学試験のみで
見分けられるか、ということです。評価者は評価の質を常に問われ
る必要があります。

■いつ研究を諦めるかというのは、答えの出ない問題だと思います。

■「研究を諦める」などということを口にするのは、少々後ろめた
い思いがしますが、アカデミックポストの定員が限られている以上、
誰かが諦めなければなりません。

■「研究に専念せよ、他の事など考えるな」というのは、まことに
もっともな話です。他の道への「保険」などを用意せず、退路を断っ
た人が研究の世界で成功しているのは事実です。

■しかし、退路を断った人が全て成功しているわけではないのも事
実です。教授は競争の「勝ち組」ですから、成功しなかったことの
ことはあまり考えません。このあたりが非常に悩ましいところです。

■全身全霊を研究に費やさないと研究者としては成功しがたい、だ
からと言ってすべてを投げ打って研究したとして成功できない場合
も多いわけです。

■アカデミックポストを得られなかった人たちは、「自己責任」だ
から、各々が道をさがしていくべきか、政府が何らかの対応をすべ
きか、意見が分かれるところだと思います。

■ただ、現状では自分達でどうにかするしかありません。私達サイ
コムジャパンとしては、厳しい現実を伝え、取れる対策を提案して
いこうと思っています。その上で、研究に突き進むのか、別の道を
進むのか、「セーフティネット」を自分で構築していくのかは、各々
の選択にお任せいたします。私達が現在編集している大学院進学本

http://scicom.jp/grad-book/

もこの方針で作成しています。

■ただ一言言えるのは、「研究に専念せよ」という指導者の方々に
は、研究業界がどのようなものであるのかを説明する責任があるの
ではないかということです。「自己責任」は「説明責任」を果たし
てはじめて問えるものではないかと思います。

■それでは今後ともよろしくお願いいたします。ご意見ご要望等は
office@scicom.jp
までお送り下さい。

[発行者]榎木英介(NPO法人 Science Communication 代表理事)
[編集者]深島守 サイコムニュース速報版編集部
[Web Site] http://scicom.jp/

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編集発行人連絡先: admin@letter.ac-net.org
ログ:http://letter.ac-net.org/log.php
趣旨:http://letter.ac-net.org/index.php
#( )の中は編集人コメント、「・・・・・」は編集時省略部分
一部が全角となっているアドレスは半角にして使用してください。
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