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『信濃毎日新聞』社説 2004年5月13日付

社説=国立大の公約 工夫重ねつつ達成を


 信州大学をはじめ、四月から法人化した国立大の「中期目標・中期計画」が
まとまった。どういう役割を果たしていくのか、社会に向けたいわば"公約"で
ある。視野広く、意欲的に競い合ってほしい。

 今後六年間の教育・研究と学校運営の指針となる。文部科学省の国立大学法
人評価委員会が八十九校それぞれの原案を了承した。

 ほぼ半数が何らかの数値目標や達成時期を盛り込んだのが特徴だ。例えば、
▽年間五件以上の学部横断的なプロジェクト研究を目指す(山形大)▽全教員
の個人評価を試行し、二〇〇六年度から実施する(名古屋工大)―などである。

 信大の場合、先進ファイバー(繊維)工学など七分野の重点研究領域を挙げ
ている。大学評価全般の窓口になる「評価・分析室」(仮称)の設置や、女性
教員の15%以上への引き上げなども打ち出した。

 数字を具体的に示すことは意気込みの表れであり、おのずと責任が伴う。既
得権に守られがちだった国立大が殻を破っていく弾みになる。研究室や学部間
の壁を取り除き、一丸の態勢をつくってもらいたい。

 各国立大が従来とは一転して特色づくりを競い合う背景には、中期目標・中
期計画の達成状況が運営交付金の算定にはね返る仕組みがある。判断する主体
は評価委だ。

 法人化により国立大は独自の債券発行や企業の寄付金受け入れなどが可能に
なった。それでも税金である交付金が重要な柱に変わりない。

 その交付金は先々削減が避けがたい。実用性、経済性といった要素が重視さ
れ、成果が見えやすい教育・研究に費用が一段と振り向けられる可能性が考え
られる。

 仮にそうなると、地道な基礎研究がおろそかになる心配を打ち消せない。国
立大でなくてはできない学問分野をどう維持し、深めていくか。経営感覚の導
入とともに、バランスがいっそう問われてくる。

 大学改革をめぐっては各国とも模索中だ。米国では産学連携がさらに強まっ
ている。英国は伝統的に無料の授業料を有料にした。成果主義に基づく大学間
の補助金配分が論議になっている。中国は経済発展につれ学生人口が急増し、
財政負担や就業対策が課題である。

 日本は少子化社会とともに、科学技術や経済活動をめぐる激しい国際競争に
直面している。大学の持つ知的財産をどう生かしていくか、大事な局面である。