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<国立大法人>「入試のプロ」学長補佐に


毎日新聞ニュース速報

 国におんぶに抱っこでは済まなくなった国立大は、何を目指すのか。11日公
 表された中期目標の原案、計画案では、教育内容や学生支援、研究の充実に向
 けた具体策が新たに示された。18歳人口の減少で激しさを増す大学間競争。
 各校は“公約”実現に手腕を試され、特に「人、モノ、カネ」で旧帝大などに
 差をつけられてきた大学はあの手この手の生き残り策を講じる。私立大も学生
 確保に向け危機感を募らせている。【千代崎聖史、木戸哲、北川仁士】

 「学長補佐」。法人化で和歌山大にも新設された監事ポストに就いた小畑力人
 さん(57)の名刺には、もう一つの肩書が刷り込まれている。

 予備校で進学指導に15年間携わった。その後は今春まで、母校の立命館大で
 入試部長などを務めた「入試のプロ」。4万人台にまで落ち込んだ志願者数を、
 大学入試センター試験を大手私大で初めて導入するなどして10万人台へと引
 き上げた。

 「私学的発想が必要になる。来てほしい」。小田章学長からそう口説かれたの
 は、法人化を間近に控えた昨秋だった。大企業がなく、寄付や共同研究の機会
 に恵まれない地方のハンディを地元自治体との連携で何とか補おうとする和歌
 山大にとって、不足していたのが入試改革を手がけることのできる人材だった。

 「中途半端な規模よりも、地方の小さい国立のほうがオンリーワン戦略を立て
 られるし、改革モデルを作りやすい」。再度の転職を決意した。

 競争の中で生きてきた小畑さんには、今の大学はまだ「ぬるま湯ムード」と映
 る。入り口(入試)、中身(研究と教育)、出口(就職)という「三位一体改
 革」のため、こちらから打って出たいと考えている。手始めに、地の利を生か
 せる大阪で、高校と予備校の担当者向けの入試説明会を開くつもりだ。

 米科学誌「サイエンス」に、徳島大の青野敏博学長が顔写真入りで取り上げら
 れたのは今春のことだ。2年前の学長選で、文科省の競争的資金(優れた研究
 などに重点配分される)の採択を掲げて当選。公約通り、徳島大は昨年度、競
 争的資金の全5分野に採択され、計約10億円を手にした。最終ヒアリング前
 には、自らストップウオッチを手に、研究チームの予行演習を繰り返した。8
 9の国立大・短大で5分野の採択を得たのは、名古屋大と徳島大だけだった。

 徳島大は国立大医学部で唯一の栄養学科があり、国内に二つしかない「ゲノム
 機能研究センター」も持つ。法人化という荒波の中でこう考える。「人、モノ、
 カネでは、東大をはじめ旧帝大にはかなわない。特色を生かさない手はない。
 1点集中です」
 
 昨秋の素案から具体性を増した計画案をひろうと――。

 研究面では「科学研究費補助金の申請件数を50%増とする」(東京学芸大)
 などと資金獲得目標を定めた大学が多い。素案で数値目標を設けなかった東大
 は共用研究スペースの面積を「1万平方メートル」と明記した。

 教育内容では、お茶の水女子大が大学院に「遺伝カウンセリングコース」を新
 設、遺伝性疾患の人を支援する専門家を養成し、女性の新たな職業を開拓する。
 名古屋工大は理系基礎科目を十分に学んでいない学生向けの「補習」をする。
 東北大は入学者の5%、卒業生の15%程度を追跡調査し、入試方法や教育成
 果を検証する。

 福井大は「就職室」をつくり、全教員が学生と面談する時間を確保する「オフ
 ィス・アワー」を週1回以上設けるなど学生支援策を盛り込んだ。

 東京農工大は教育サービス提供だけでなく、環境保全や産業振興、防災協力な
 ど多方面で地域との連携事業に力を入れる。

◆「親方日の丸」脱却への一歩

 これまで文部行政の顔色をうかがう不自由さに耐えさえすれば、国の手厚い保
 護を受けられた国立大が、法人化で新設された役員会や経営協議会を経て、初
 めて将来の青写真を自ら描き出した。100年以上の歴史の中で「親方日の丸」
 的体質から脱却する一歩を踏み出したと言える。

 国立大が意識改革を迫られるのは今に始まったことではない。21世紀COE
 プログラムなどの競争的資金が02年度に導入され、ミニ東大を志向しがちな
 大学に「自分の売りは?」と内省を迫る契機になった。

 ただ、産学連携や学生の就職支援などの計画案の中には、似たり寄ったりの内
 容も少なくない。各法人の運営に当たる役員会や経営協議会を見ても、国との
 パイプ作りを念頭に置いたような人選もみられる。横並び意識や国への依存体
 質は容易には改まりそうもない。

 目標や計画が看板倒れに終わるのか、良質な教育・研究のプロローグとなるの
 か。し烈な競争の中で明暗を分ける日は遠くない。【千代崎聖史】

   ◆国立大の特色ある主な中期計画案◆

北見工大――05年度から優秀な成績を収めた大学院の学生の表彰制度を設ける

山形大――地域社会が直面する課題について、毎年200件以上の提言・助言を
する

お茶の水女子大――大学院博士課程で東京女子医大と連携し「遺伝カウンセラー」
を養成する

東京外大――国際社会全般の基礎知識を備えた学生を受け入れるため世界史を受
験科目に

東京農工大――地域との連携事業を中期計画の期間中に60件以上実施する

横浜国大――法科大学院では司法試験合格率を70%程度とする

愛知教育大――05年度をめどに大学卒業者のための小学校教員免許状取得コー
スを設ける

豊橋技科大――外国人教員、研究者は協定校などから教員の5%程度以上を受け
入れる

金沢大――非常勤講師依存率を法人化前の50%をめどに減少させる

京都工芸繊維大――英語の単位認定で自己申告に基づきTOEIC等の成績を反
映させる

兵庫教育大――留学生の受け入れを2割増やす

奈良教育大――大学院入学定員のうち25%以上の現職教員を受け入れる

九州大――特許出願を07年までに150件に増やす

九州工大――国内外の主要雑誌などへの論文掲載数を03年度比で50%増やす

琉球大――03年度実績と比べ、競争的研究資金の採択額の50%増加を図る