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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』夕刊2004年5月12日付
 
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 東大、「基金教授」の機動力活用
 産学連携で問われる主体性


 東京大学先端科学技術研究センターが、医薬品企業からの寄付金4億円を生か
し「基金教授」を設けたことは、今春の国立大学法人化を象徴する一つのニュー
スといえる。教員が公務員でなくなったいま、企業の金で雇われる正規の教授
ポストが誕生したからだ。

 東大は87年から寄付金にもとづく講座をつくり、その数は今年3月現在で39を
数えた(寄付研究部門を含む)。しかし文部科学省の規制の下、開講期間は3年
以上5年以下。教授の身分も教授会のメンバーではない「客員教授」にとどまっ
ていた。法人化によって大学は文科省の枠から自由になり、「基金教授」は人
事権をもち、教授会にも出席するようになる。

 発足したシステム生物医学(興和基金)分野に1日付で着任した児玉龍彦教授
によると、教授の任期は基金が維持されるまでの間で、今回のケースは少なく
とも10年以上。激しい国際競争にさらされるゲノム研究にとって「安定的かつ、
新しい研究に挑戦できる機動的なポスト。社会へのフィードバックの道筋がで
きた」と児玉教授は高く評価する。

 伊地知寛博・一橋大助教授(科学技術政策研究)も、「研究費はあっても、
それに見合った新しい研究ポストを迅速に設置できないなど、国立大学の研究
環境に対する制度上の制約が多かった中で、意義は大きい」と肯定的だ。その
うえで、「寄付企業の強い影響を受けないような主体性を保つために、研究成
果が適切に公開されていくことが重要」と付け加える。

 東大はこの制度の積極的な活用をはかりたいとしており、文科省も今後、他
の国公立大学で同様の動きが強まるだろうとみている。

 もっとも、産学が連携を強めることに対しては、従来の推進派のなかにも疑
問の声があがりつつある。大学改革に携わってきた生駒俊明・東大名誉教授
(電子工学)はこのところ、産学の関係に「いきすぎ」が目立つと警告する。
「寄付講座自体は有意義なことだが、企業の介入から主体性を保つには相当の
覚悟が必要だ」

 大学法人化に当初から反対してきた岩崎稔・東京外語大助教授は「現代思想」
4月号で、法人化後に国が提唱する「柔軟で弾力的な人事システム」にふれ、
「産官学融合のための再編」と批判している。

 「画期的」(橋本和仁・先端研所長)と自賛される東大の試みは、大学改革
の行方を占う一つの試金石には相違ないだろう。

(藤生京子)