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新首都圏ネットワーク

>>>福岡教育大学発 国立大学法人化関連情報 第2号(2004年5月5日配信)<<<

*転送・転載を大いに歓迎します。
 新たに情報の配信を希望される方や、バックナンバーを必要とされる方は、
cki13631@rio.odn.ne.jp までご連絡ください。また、配信を不要とされる方も、お手
数ですがご連絡ください。

HEADLINES 【1】情報発信局の「開設地」が決定

      【2】法人化後第1回目の教授会をウォッチングする(4月22日)

           (1)教授会はどう変わったか

           (2)冒頭から波乱

           (3)松尾学長や新理事が挨拶、議場に白々とした空気

      【3】松尾学長が制定した教授会規程に対し教授会で改正動議、改正案が可決される(4月22日)

           (1)これまでの経緯

             1) 公開質問状の提出とその後の松尾学長の対応(3月19日〜22日)
 
             2) 松尾学長提出の教授会規程案が否決され廃案に(3月26日)

             3) 法人発足直後、松尾学長が一方的に教授会規程を制定(4月1日)

           (2)教授会規程制定に関する松尾学長の説明

           (3)教授会における規程改正案の可決

              

 【1】情報発信局の「開設地」が決定

 国立大学の法人化から1ヶ月が経ちました。「情報発信局開設」と高らかに宣言して
おきながら、新学期の忙しさに法人化のどさくさが重なり、情報発信が滞っておりまし
た。国立大学が混沌とした状況に置かれているなかで、ついつい気分も萎えがちになり
ますが、希望に胸ふくらませてやってきた初々しい新入生や、来春の卒業に向けて就職
活動などに真剣に取り組む4年生たちと接するなかで、私たちもしっかりせねばと自分
に言い聞かせる今日この頃です。

さて、この情報発信局は、前号でご説明したような事情から、「開設地」を特定でき
ないままウェブ上を漂流しておりましたが、このたび下記の通り開設地が決定しました
。こちらから配信する情報に対するご意見・ご感想や、ご提供いただける情報がありま
したら、ぜひ情報発信局までお寄せください。

 今後も九州の一角から研究・教育現場の視点に立ちつつ、そして言論の自由の重みを
かみしめながら、ねばり強く情報発信していきますので、ご理解とご声援のほど、よろ
しくお願いします。

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福岡教育大学発 国立大学法人化関連情報

情報発信局: cki13631@rio.odn.ne.jp

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 【2】法人化後第1回目の教授会をウォッチングする(4月22日)

    (1)教授会はどう変わったか

 4月22日、福岡教育大学が法人化されて第1回目の教授会が開催された。その末席
で教授会の模様をウォッチングしてみた。法人化前と法人化後で、福岡教育大学の教授
会は、どのように変貌したのであろうか。
 
 法人化以前の福岡教育大学の教授会は、旧国立学校設置法のもとで総合大学の「学部
教授会」とは性格を異にし、単科大学に特有の制度として、「評議会」の役割を兼ね備
える「大学教授会」の位置づけを与えられていた。大学教授会の議長は、学長であった
。もっもと、大学教授会とはいっても、200余名の構成員が毎回一堂に会することの
難しさもあったため、いわゆる「分散教授会」と呼ばれる開催形態がとられ、学問分野
に応じて教員を第一部会から第4部会に分散させ、同一議題を同時並行して審議してい
た。そのために、各部会には学長とは別個に構成員の投票により選出される「学部主事
」という議長職(総合大学の「学部長」に相当する。国立学校設置法施行規則にこの職
が規定されていた。)が置かれてきた。その一方で、昨年度の例でいえば、中期目標・
中期計画の策定など、大学運営に関わり全学規模で意見を交換し集約する必要がでてき
た場合には、構成員全員が参集する「全学教授会」の形態がとられてきた。

 松尾祐作学長は、国立大学法人法の内容を恣意的に解釈し、またこの法律の存在を過
大視するあまり、法人化後はこれまでの大学運営のあり方が全て「リセット」されると
の発言をしてきたが、これは、教授会のあり方についても例外ではなかった。「大学教
授会」は、「学部教授会」と大学院担当者のみからなる「研究科教授会」に再編され、
その権限も、法律が予定する以上に相当大幅に縮小された。事前に配布される教授会の
議案書も、以前と比べて非常に薄っぺらいものとなった。しかし、こうした法人化後の
教授会のあり方を定めた教授会規程は、4月1日の法人発足日に松尾学長が一方的に制
定したものであった。これに対して、学内からは不満の声が上がり、教員有志や複数の
講座会議からは、規程を見直すべきとの意見書が松尾学長に提出された(この点につい
ては、【3】−(1)を参照。)。しかし、松尾学長からは回答や所信が一切示されず
、構成員の不安や不信が払拭されないまま、法人化後第一回目の教授会の日を迎えたの
である。

 4月22日午後2時半、第1回目の「学部教授会」が開催された。開催形態も、「分
散教授会」型から「全学教授会」型へと変更された。しかし、議長席に松尾学長の姿は
ない。学長は、法人役員会のメンバーということで教員とは明確に一線を画することに
なり、教授会の構成員ではなくなったのである。「ボトム」に位置するわれわれ教員の
声は、果たして十分に松尾学長に届くのだろうか。

 思い起こせば、法人化前の本年1月、松尾学長は、法人化後の本学の運営組織をはじ
め、法人移行準備に関わる重要事項をいっさい教授会に諮らないことを突如一方的に宣
言した。これに対して、教員の間から抗議の声があがり、法人化に向けての大学運営方
針について審議するため、学内規程に則り二度にわたり「全学教授会」の開催要求が出
されたが、松尾学長は、これを無視し続けた。あげくには、構成員の過半数による「教
授会の長としての信を問う」ための全学教授会の開催要求も出されたが、これも拒否し
た。おそらく、松尾学長は、ここから多くのことを「教訓」として学んだに違いない。
その結果、松尾学長は、教授会の権限を大幅に縮小したうえ、自らが議長として教授会
に責任を負ったり、構成員と直接対話したりすることに煩わされないようなシステムを
作り上げたのである。こうして法人化後に開かれた「全学教授会」は、法人化のまえに
開催要求され続けた「全学教授会」とは似て非なるものであり、学長の大学運営のあり
方をチェックするものとしてはすっかり無力なものとなった。

 さて、そのようなことが頭のなかをめぐるなか、学長に代わって議長席に着座ましま
したのは、教育学部長であった。このポストは、単科大学である本学にはこれまで存在
しなかったが、「大学教授会」が「学部教授会」へと組織替えされたことに伴い新設さ
れたものである。教育学部長は、学長が任命した副学長がこれを兼任するものであり、
学部教授会構成員の投票によって選出されたものではない。しかも、この学部長人事は
、ようやく法人化直前の3月26日、理事や副学長の人事とともに公表されたものであ
り、その選考プロセスは、一切明らかにされていない。学部長を学部教授会で公選でき
ず、学長がいわば「官選」するなどということは、他の国立大学の例にあるのだろうか
。これまで本学のような単科大学では、大学と学部が一体のものとして運営されてきた
ため、「学部の自治」という考え方がなかったが、法人化により大学運営に対する学長
のリーダーシップが強化されたからには、学長権限に対するチェック・アンド・バラン
スの機能を有するものとして、学部教員組織の自主・自律権が確立されなければならな
いだろう。しかし、本学の現状は、それにはあまりにほど遠い。

   (2)冒頭から波乱

 教授会の冒頭、教育学部長は、開催要件である定足数充足、すなわち構成員現員の5
分の3以上の出席を確認し、開会宣言をしようとした。しかし、これに対して、そもそ
も定足数計算の基数が不明のままであり、それを明確にせよとの要求が出た。というの
も、旧教授会規程には、別表として講座別の定員数が明記され、その合計数から欠員数
などを差し引くことにより定足数の基数を割り出すことが出来たが、こうした定員表は
、学長が制定した新規程ではきれいさっぱりなくなっており、他の規程のどこをみても
、講座の定員数を明記したものがない。この点に関しては、学長が教員定員を手元で一
元的に管理し、欠員が出た講座ポストを随意に後任不補充としたり、そのポストを他の
講座に配分することなども可能となり、個々の講座に対する生殺与奪の権利を掌握する
ことにもなりかねないのではないか、という懸念が広がっている。こうした懸念を反映
し、定足数の基数問題に絡めて、今後の定員管理の方針についての質問も出された。こ
の質問に対して、教育学部長は、定員管理方針については役員会等の審議事項でもあり
自らの一存では回答できないとし、ただ大学全体の教員定員数が210である旨答える
にとどまった。

 さらに、こうした定員の不明瞭さに加えて、教授会の招集時には、欠員数も不明確で
あった。というのも、4月1日に教授から理事に任命された2教授について、教授と理
事の併任なのか、それとも教授を辞して理事専任の形を取るのか、一切明らかにされて
いなかったからである。このときの質疑で、この2名の理事が専任であり、よってこの
分が欠員扱いとなることもようやく明らかとなった。

 定足数の充足が確認され、ようやく教授会開会の運びとなった。冒頭、教育学部長か
ら、まずは松尾学長による挨拶と新理事3名の紹介があると告げられた。その際、教育
学部長は、松尾学長からは教授会規程を4月1日に制定した経緯についての説明がある
と述べたうえで、教員からの質問には一切答えないとクギを刺した(恋人が発覚したア
イドルの記者会見でもあるまいに)。これに対して、教員からは、教授会として学長の
説明を一方的に受け入れなければならないのは納得がいかない、といった発言もあり、
いったんなされた教授会の開会宣言を教育学部長が撤回したうえで、松尾学長らを議場
に迎え入れることにした。

   (3)学長や新理事が挨拶、議場に白々とした空気

 松尾学長と3名の理事が入場してきた。法人化を象徴するセレモニーであり、通常で
あれば一同万雷の拍手となってもおかしくないところだが、議場は、水を打ったように
静まりかえり、ある種異様な空気が漂っていた。学長の挨拶にも、教員からの反応はな
い。学長からは、新理事の紹介があった。学内理事として、南出好史理事(3月まで本
学教授・副学長、企画・教育担当)、藏源一郎理事(3月まで本学教授・副学長、総務
・財務担当)、学外理事として吉武忠彦理事(元福岡市教育委員会理事、学生・社会連
携担当)、の3氏が簡単な挨拶をした。上述のように、これらの人事は、法人化直前の
3月26日になりようやく公表されたものである。ちなみに、理事人事の発表までは、
文部科学省から赴任している事務局長の理事就任が懸念をもって取りざたされていたが
、実現はしなかった。理事選考のプロセス自体が一切公表されていないのであるから、
その理由は、知る由もない。
 
 3理事の挨拶のあいだも、教員側は、全く無反応であり、ひとつの拍手も起こらなか
った。その一方で、一人一人の理事の挨拶が終わるたびに、列席の幹部事務職員たちが
申し訳なさそうに頭を下げており、何とも痛々しかった。学外から理事となった方をは
じめて教員が迎える場であり、そのような教員側の白々、寒々とした対応は、礼を欠き
大人げないといえばそれまでであるが、松尾学長をトップとする法人体制への強い不信
を何よりも雄弁に物語るものといえよう。

【3】学長が制定した教授会規程に対し教授会で改正動議、改正案が可決される(4
月22日)

  (1)これまでの経緯

 松尾学長は、教授会開会に先立つ挨拶のなかで、4月1日に自らが制定した教授会規
程について、その制定の経緯などを説明した。その説明内容に触れるまえに、関連する
これまでの経緯を説明しておきたい。

   1) 公開質問状の提出とその後の学長の対応(3月19日〜22日)

 本学では、本年1月に松尾学長が法人移行準備を教授会に諮らずに専決的に進めると
宣言して以来、このような大学運営をめぐって教員のあいだで異論が噴出した。2月2
0日には、教員有志により学長に対して辞職要求声明が出される事態にまで発展し、地
元のマスコミもこのニュースを取り上げた。そこで教員有志は、この状況を打開し、大
学運営を正常化するため、3月19日、松尾学長に対して公開質問状を提出した。その
質問内容は、4点に及ぶが、その中の1点として、「法人化後の役員会規程、教授会規
程など諸規程の制定、役員人事などの案件がいつ教授会に提示されるのか」という趣旨
の質問も出された。

 ところで、公開質問状のニュースは、20日付の朝日新聞(西部本社版)、毎日新聞
(同)、西日本新聞の朝刊、21日付の読売新聞(西部本社版)で取り上げらた。これら
の記事には、松尾学長のコメントとして、「(公開質問状の)内容については吟味する
が、このような卑劣(一紙では『卑怯』)なやり方に憤りを感じる」との発言が掲載され
た。これに対して、公開質問状を提出した有志は、3月22日に松尾学長に面会し、「
いったい何をもって『卑劣』あるいは『卑怯』と言われるのか、その真意を明らかにし
、謝罪することを求める」との抗議文を手渡した。発言の真意を糾された松尾学長は、
「学内の問題をマスコミに公開したことを卑劣・卑怯と言っている」と述べた。有志か
らは、「質問状を読めば、学内の問題にとどまらないことがわかるはず。国立大学の公
器性を考えなければならない。学長が学内の規定や慣行を無視した大学運営を行い、い
っさい応じようとしない。私たちとしては、この選択肢しかなかった。私たちが、なぜ
、ここまでせざるを得なかったか考えてほしい」との発言がなされたが、松尾学長から
はそれ以上の発言は聞かれなかった。

 この面談の席で、松尾学長からは、多忙を理由に公開質問状への回答を口頭で済ませ
たいとの意向が示され、その場で回答がなされた。回答では、法人移行準備については
学長の専決事項であるとの基本姿勢を維持しつつも、教授会規程に限り急遽3月26日
に臨時の分散教授会を開催して審議に付すとの方針が示された。多少は公開質問状がク
スリになったというべきか。

    2) 学長提出の教授会規程案が否決され廃案に(3月26日)

 3月26日に臨時の分散教授会が開催され、学長提出にかかる教授会規程案が審議に
付された。この案は、いろいろな問題点を抱えていた。そもそもこの案の素性について
は、いかなるプロセスで作成されたのかなど、全く不明であった。本学では、法人移行
準備を進めるための教授会の下部組織として、「基本構想委員会」が機能不全に陥りな
がらも存在していたが、この案がそこで作成・審議されたという事実はなかった。

 むろん、規程案そのものの内容も、多くの問題をはらんでいた。なによりもまず、審
議事項が大幅に限定された。学部や研究科の教授会が審議権を有するのは、(1)教育課
程の編成に関する具体的事項、(2)学生の在籍および学位の授与に関する事項、(3)その
他教育研究に関する具体的事項のいわゆる「3事項」に限定された。そして、人事・予
算をめぐっては、「教員の採用、昇任等又は研究科担当に関する具体的事項」や「学部
又は大学院に配分された講座又は専攻への教育研究予算の具体的事項」(日本語として
おかしいが、原文のままとした。)について、教育研究評議会などからの審議依頼があ
るときに限り「審議することができる」とされ、教授会に固有の審議権がなく、審議さ
せるかどうかは最終的に学長の裁量にゆだねられているものと解された。

 教授会規程案とともに学長から提出された提案理由書「教授会規程の基本的な考え方
」には、(I)経営協議会や教育研究評議会の審議事項との重複を避け、教授会の役割分
担を明確にすること、(II)経営協議会や教育研究評議会は、「方針」を含めた全体を審
議するのに対して、教授会はその方針を踏まえた「具体的事項」を審議すること、(I
II)審議事項の運用的解釈によって、審議の円滑化を図ること、などが盛り込まれて
いた。このうち、(I)については、総合大学とは異なり、本学のような小規模単科大学
では大学運営組織と学部・研究科の運営組織の境界線がスッキリとは引かれないし、無
理して硬直的な線を引けば弊害も生じうるが、こうした点が全く考慮されていない。こ
うした単科大学の実状を度外視し、国立大学法人法下で大学運営組織として位置づけら
れている経営協議会や教育研究評議会と、そうではない学部や研究科の教授会のあいだ
で審議事項の重複を避けるべきことをいたずらに強調すれば、大学運営のための法人組
織やその権限が無用に肥大化する一方で、その下に置かれた学部・研究科教授会は、「
役割分担を明確にする」どころか、際限なくその役割を形骸化されてしまうことになる


 「教授会規程の基本的な考え方」の(II)や(III)からも、教授会の形骸化の危険が見
て取れた。(II)によれば、大学運営の「方針」決めるのは法人組織のトップであり、「
ボトム」である教授会は、トップが描いたグランド・デザインにしたがって「具体的事
項」を唯々諾々と処理すべし、ということになる。規程案において、教授会が審議権を
もつとされる「3事項」があくまでも「具体的事項」に限定されているのは、そうした
考えを反映したものである。しかし、教育課程の編成をとってみても、法人トップのみ
で様々な学問分野からなるカリキュラムの隅々まで手が行き届くように方針や原則を立
てることは、全能の神でもない限り、およそ不可能であり、ナンセンスな話である。さ
らに、(III)にいたっては、「審議事項の運用的解釈」などという、およそ日本語セン
スを疑いたくなるような表現が飛び出してくるが、要は、「3事項」についても、最終
的には学長のさじ加減でどのような「具体的事項」を教授会の審議にかけるかどうかが
決まるということなのだろう。学長のリーダーシップが強化された法人化後の大学運営
においても、ボトムからのコンセンサス形成の機能やチェック機能が欠かせないはずで
あるが、こうした機能を中心的に担うべき教授会が形骸化してしまえば、万が一トップ
が暴走しても、これを止められないことにもなる。

 何より、よりよい教育や研究のためには、闇雲に学長がリーダーシップを振りかざす
のではなく、教育・研究を担う教員の自治組織としての教授会について、上述のような
本学の単科大学としての特殊性も考慮に入れつつ、相応の発言権や自主・自律権を保障
していく必要がある。このような観点から、教育研究に関わる事項全般について、矮小
化された「具体的事項」のみならず、大学としての「方針」についても、教授会の審議
権が保障されてしかるべきであろう。さらに、人事・予算についても、およそ教育研究
の根幹に関わる部分に関しては、その基本方針も含めて教授会の審議権を保障すべきで
ある。こうしたことは、「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなけれ
ばならない」とする学校教育法59条1項にも合致している。国立大学法人法は、人事
・予算事項を教育研究評議会や経営協議会の審議対象としているが、これは、当該事項
について教授会が審議することを排除するものではない。大学の実状と自主・自律性に
基づいてそれを教授会の審議対象とすることは、法律上も当然に許されるのである。

 以上のように、学長が提出した教授会規程案には、看過しえない問題点が含まれてい
た。このほか、当日の分散教授会の議論では、(1)人事に関する事項については、人権
に関わる問題であることから、採用や昇任のみならず、懲戒処分を等を含めて全般的に
教授会の審議権を確立すべきである、(2)教授会の議長は、学長によって指名された教
育学部長や研究科長ではなく、構成員の選挙によって選出されるべきである、(3)現行
教授会規程(当時)では構成員の要求による教授会開催や議案提出が保障されており、
この部分があえて今回の規程案から削除されているのは納得できない、これらをきちん
と規定すべきである、といった意見が出された。

 審議の結果、学長の提出した教授会規程案は、第一部会から第四部会までの4つの分
散教授会のうち、3つの部会において反対多数で否決され、教授会運営に関する申し合
わせにしたがい即時廃案となった。これは、松尾学長に対する教授会からの不信任の表
明であるとみるほかなかろう。たとえ松尾学長がその地位に固執し、法人化へと滑り込
んでも、そのもとで成立した法人体制は、何らの正統性もない空虚なものというべきで
ある。

 ところで、今年に入って非常勤予算半減問題に端を発し法人化後の予算の不明朗さが
指摘され、この問題についてたまたま同日午後に全学説明会が開催されたが、その席上
、松尾学長は、教授会規程案否決の善後策を問われ、「日程的には3月中に何とかする
ことが非常に厳しい状況となった」「(法人化後に)空白ができるが、やむを得ない」
と答えた。

 松尾学長は、昨年度、自らが提出した法人化後の中期目標・計画案が2度にわたり教
授会で否決され、今回で三つ目の黒星を喫したことになるが、その心中はどのようなも
のであったろうか。なお、教授会規程案否決のニュースは、3月27日付の朝日新聞朝
刊(西部本社版)、毎日新聞夕刊(同)、西日本新聞夕刊、28日付読売新聞朝刊(西
部本社版)によって伝えられた。

    3) 法人発足直後、松尾学長が一方的に教授会規程を制定(4月1日)

 法人化後の4月8日付で、「教授会規程制定の経緯と教授会規程の基本的な方針」と
いう1片の学長文書が教授会構成員に突如配布された。4月1日の役員会で教授会規程
を決定したというのである。当の教授会が全くカヤの外に置かれての出来事であり、し
かも、教授会の一般構成員に規程制定の事実が知らされたのは、1週間も過ぎてからだ
った。

 文書には、「教授会は法人化後も引き続き重要な審議機関であると考えている」と書
かれている。これは、あえていうまでもないことである。問題はその後である。「それ
は経営協議会や教育研究評議会等のチェック機能を果たすという意味で重要なのではな
く、これらの機関とともに一体となって福岡教育大学の運営をもり立て、教育研究の質
を向上させていく機関として重要である」と書かれている。待て待て、これは、教授会
が最終的には学長の太鼓持ちに成り下がれということか。戦前の大政翼賛会と変わらな
いではないか。とても大学運営の最高責任者、そしてそれ以前に大学人の言葉とは思え
ず、ワンマン社長が「黙って俺に付いてこい」というのと大差がない。どこかにゴース
トライターでもいるのだろうか。

 文書には、4月1日に制定されたという教授会規程が添付されていた。この規程につ
いては、否決された規程案に対して改善を試みた跡が多少はある。例えば、教授会が審
議権を有する「3事項」について、審議対象を「具体的事項」に限定する文言が消えて
いる。しかし、本質的な問題点は、解消されていない。人事・予算事項についても、若
干の文言修正はあるが、「審議することができる」との文言が残され、教授会に固有の
審議権がなく、審議させるかどうかを最終的に学長の裁量にゆだねる規定であると読め
る。また、構成員の要求に基づく教授会開催が盛り込まれたが、「教授会の開催を要求
することができる」とされるにとどまり、要求を受けての教授会開催義務は、規定され
ておらず、やはりここでも学長の裁量の余地が見て取れる。

 このような松尾学長による教授会規定の一方的な制定に対して、教員のあいだからは
反発の声が相次いだ。教員有志や、複数の講座から、規定の見直しを求める意見書が立
て続けに提出された。

  (2)教授会規程制定に関する松尾学長の説明

 さて、話を4月22日に戻そう。松尾学長は、4月1日に自らが教授会規程を制定し
た経緯などを説明した。
 松尾学長は、大略次のような説明をした。「昨年度末、教授会規程案が否決された。
できれば、昨年度内に再度諮りたいと思ったが、日程的に無理だった。万やむを得ず、
法人法に則って、4月1日に教育研究評議会に諮り、教授会規程を作った。これで十分
な規程になったとは思わない。ただし、昨年度末の分散教授会で出された要望は、可能
な限り取り入れた。規程制定後も、有志、講座からいくつかの提案が来た。これらに目
を通し、役員会で判断したが、ただちに修正・訂正することは考えていない。ただ、教
授会規程のみならず、他の規程等についても、走りながら変えることはあるとおもう。
皆さんの知恵を頂くこともあるかもしれない。トップダウンだけだとは毛頭考えていな
い。全力を挙げて、より良い大学に変えていきたいと思っている」。

 議場は、相変わらず静まりかえっていた。それにしても、奇妙な話である。法人法に
則れば、学長が一方的に教授会規程を制定できるらしい。やり方によっては、旧教授会
規程を温存しつつ新年度の教授会で新規程を制定するという方法もあったはずである。
しかし、無茶なことに、松尾学長は、4月1日、教授会規程を含む学内諸規程について
、個々の規程の改正の要否などの吟味もなく、その全てを廃止する旨の規程を制定して
しまった。まさに松尾学長が言明していたように、法人化により全てが「リセット」さ
れてしまったのである。そして、4月1日になると、教授会規程を含め、誰がどこで作
業して作ったのか、氏素性のわからない新規程がぞろぞろとでてきた。しかも、様々な
規程の至る所にずさんな箇所が見受けられる。松尾学長は、法人化後の学長予定者の指
名を受けた者の責任と権限において法人移行準備を専決的に進めると宣言しておきなが
ら、その責任を果たしてはいないことになる。法人化した今になって「他の規程等につ
いても、走りながら変えることはあるとおもう。皆さんの知恵を頂くこともあるかもし
れない」というのでは、あまりに都合がよすぎる。

 自らの挨拶と説明をすませ、3理事の挨拶も終わり、松尾学長は、足早に議場を去ろ
うとしていた。松尾学長の説明に対する質問は受け付けないとクギを刺されてはいたが
、何人かの教員が質問を求めた。一人の教員が「事実関係の確認くらいはさせてくれ」
と食い下がり、ようやく松尾学長がこれに応じた。昨年度の分散教授会で教授会規程案
が否決された日、松尾学長が「空白ができるが、やむを得ない」と発言したことの確認
を求めると、「話したこと自体は記憶にない。ただし、後から、長く空白を置くことは
まずいと思ったことは覚えている」と答えた。また、先ほどの説明の趣旨について、「
十分な教授会規程となってないから、いずれ修正する時もある、という意味か」と確認
を求めると、「規程はパーフェクトではない。手をつける部分もあろう。これが完全と
は言ってない」と答えた。この短いやりとりをすませると、松尾学長は、これ以上は問
答無用とでもいうような雰囲気をにじませながら議場を後にした。

 私たちは、教員との対話を拒み続ける松尾学長の姿勢に慣れっこになっている。しか
し、この日は、新年度最初の教授会であり、新任教員も何人か出席していたはずである
。彼らの目に、自らの任命権者である松尾学長の姿は、どのように映っただろうか。彼
らが新しい職場に失望してしまわないか、それが心配である。

  (3)教授会における規程改正案の可決
 学長と新理事3人が退出した後、教育学部長は、教授会の開会宣言をやり直した。す
ると、教員から教授会規程の改正動議が出て、動議の支持者も現れた。教育学部長は、
予定の議題をすませてから動議を取り上げると渋々約束した。予定の議題は、休学、退
学などの教務関係の追認事項やそのたの報告事項などで、1時間もしないうちに審議が
終了した。そこで、規程改正動議の成立を再度確認した後、改正についての議論に入っ
た。

 改正提案者は、規程の改正案について、改正理由とともに説明した。改正案の骨子は
、(1)学部と大学院で一本化されている規程を二本立ての規程にする、(2)教員人事と教
育研究予算に関する審議権を明確に保障する、(3)構成員の要求による教授会開催およ
び構成員の議案提出の権利を明確に保障する、の3点であった。改正理由として、(1)
については、学部と大学院はそれぞれ別の組織であり、構成員と担当部局長が異なるこ
と、(2)に関しては、最終決定が役員会で行われるにせよ、教育研究を直接担当する当
事者がそれに関する重要事項を審議し合意形成プロセスに参加することは、何ら国立大
学法人法にしないこと、(3)については、自律的な審議機関の構成員として当然の権利
を保障すべきであり、教授会が他律的かつ恣意的に運営される余地を残すべきではない
こと、があげられた。

 提案を受けての審議において、先ほどの学長の説明をもってしても教授会規程を一方
的に制定した経緯がはっきりしないから、教育学部長が説明すべきである、との発言が
あった。しかし、教育学部長は、自分の一存では答えられないと述べた。これに対して
、それではこの教授会に対して誰が大学運営の説明責任を負うのか、と疑問の声があが
った。そして、このこととの関連において、現規程では教育学部長を議案提出者として
いるが、 これを学長に改め、大学運営に関する説明責任を学長に果たさせるべきだ、
といった意見も出た。これに対して、改正提案者は、「その問題は、次のステップで考
えていけばどうか。とにかく今は、一日も早く教授会が適正に運営されるように、現規
程に最小限度の改正を施して、まず第一歩を踏み出したい」と発言した。

 投票の結果、規程改正案が賛成多数で可決・成立し、学部教授会が閉会した。引き続
き開催された研究科教授会においても、同様の規程改正案が可決成立した。このニュー
スは、1週間遅れではあったが、4月29日付の毎日新聞朝刊(西部本社版)に掲載さ
れた。

 次回の教授会は、5月27日開催予定である。規程改正に対する松尾学長の対応が注
目される。