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新首都圏ネットワーク

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Academia e-Network Letter No 103 (2004.04.30 Fri)
http://letter.ac-net.org/04/04/30-103.php
ログ http://letter.ac-net.org/log.php
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イラクで人質となったかたがたへの敬意表明と激励の緊急アピール
賛同者数 2795名(メッセージ1290通)
http://ac-net.org/honor

━┫AcNet Letter 103 目次┣━━━━━━━━━ 2004.04.30 ━━━━

【1】イラクで人質になった方々への敬意表明と激励の緊急アピール
世話人から(2004.4.29)

【2】 寄せられたメッセージ1290通より
http://ac-net.org/honor/message.php

【3】 An Urgent Appeal
http://ac-net.org/honor/honor-message-en.php

【4】再掲:伊丹万作:「だまされていた」といつて平気でいられる国
民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。」
全文:http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/itami_mansaku.htm

【5】都立大の危機 FAQ より
「首大」設置申請についての2004年4月28日NHK番組について
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-m.html#nhk042804

【6】法律・教育学関係者緊急アピール
東京都教育委員会の「日の丸・君が代」強制に抗議する
《現代版・踏み絵》に異議あり
http://university.main.jp/blog/archives/000879.html
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伊丹万作が58年前の1946年21年4月、敗戦8ヶ月後に書いた予言【3】
は、次第に現実味を帯びてきている。

「「だまされていた」といつて平気でいられる国民なら、おそ
らく今後も何度でもだまされるだろう。いや、現在でもすでに
別のうそによつてだまされ始めているにちがいないのである。」

【2-4】で赤松氏が指摘しているように、今回のバッシングは、ネッ
トの匿名掲示板のせいだ、というよう単純な話しではない。身近な
親しい人たちの口から「自己責任論」が当然のように語られるのを
聞いて衝撃を受け意気沮喪した人が少くないことが、賛同者の千を
超えるメッセージを読むとわかる。大学関係者からも自己責任を当
然とする意見がいくつか寄せられている。

今回、政府高官とマスメディアによる情報操作は白昼堂々と行われ
たのだから、「騙されていた」とは言えまい。むしろ、自己責任論
を口にすることで、自分が体制派であることを周囲に伝え自分を安
全なとこに置くという要素があろう。そして、多くの人たちが、こ
の時期としてはまだ過剰とも言える自己保全行動をとったことが、
バッシングの駆動力となったと言えるだろう。これは、戦前に多く
の人々が戦争協力に走らされることになる直前の様相に近いのでは
ないだろうか。現在のような均衡が微妙な時期に、生物としての本
能に過剰に屈し自分を安全なところに置こうとして「反日分子」を
追及する人たちが出現し、数としては少ないが均衡を崩すには十分
な効力を持ち、言論を封殺する時流が一気に加速したのであろう。

なお、今回の問題はフェアーかどうか、という切口でも見るべきで
あろう。「フェアー」か否かは議論を成立させる場の正当性に関す
るものであり、それが欠ける場で正論を展開しようとすること自身
が論者のモラルハザードを証明する。何の後だてもない人を、政府
全体とマスメディア全体が袋だたきにし、それを支持するひとが例
外ではなかったことは、日本社会が根底において、フェアーか否か
に全く無関心であることを証明したようなものである。

この様相は不気味なものとして海外で広く知れわたった.大学改革
では、国際的に通用する人物を育成しなければ、と二言目には言う
「有識者」が多いが、その人たちは今沈黙できるのだろうか。「ダ
ブルスタンダードの有識者」とは語義矛盾ではないのだろうか。

今回のバッシング事件がうやむやに終われば、それは日本社会に大
きな負の教訓を残すことになり、極めて危険である。バッシングを
意図的に行なった存在の責任が、選挙や不買運動を通して、明確に
追及されていかなければならない。それにより「国民主権」が日本
ではじめて真剣に人々の意識に現実的な言葉として生命を持ちはじ
めることになろう。

━ AcNet Letter 103 【1】━━━━━━━━━━ 2004.04.30 ━━

イラクで人質になった方々への敬意表明と激励の緊急アピール
世話人から(2004.4.29)
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昨日、今井さんのお母さんから、代表世話人へ電話をいただきまし
た。これまでの激励への感謝のお言葉をいただき、いずれ体調が回
復されたら、来京してお目にかかりたいと言うお話でした。その折、
このWEBのことをお話しましたら、「東京にいるうちから、ぜひ
拝見します」とのことでした。

皆様の暖かいメッセージが無事帰国された5人の方々に通じている
と思います。

━ AcNet Letter 103 【2】━━━━━━━━━━ 2004.04.30 ━━━━━━

寄せられたメッセージ1290通(2004.4.30 3am 現在)より
http://ac-net.org/honor/message.php

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【2-1】私は、福井空襲直後の西の空が真っ赤に燃えた光景と積み
上げられた黒焦げの死体の山を今でもはっきりと覚えています。私
はその処理にあたった一人です。戦争で痛めつけられた子供たちを
助けにいった人々を悪く言うのは誰だ。
(****・福井県/101歳 元農業)
http://ac-net.org/honor/message1.php?t=20040428005211

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【2-2】Subject: SUPPORT FOR THE FORMER HOSTAGES

Hello Friends,

I want to join with you in showing my support for those
wonderful, caring people who were recently held as hostages
in Iraq! I don't understand how these innocent people are
being blamed for the actions taken against them by
terrorists! Lets please show our hostages the Love and
support they deserve! They have already gone through a
terrible unjust ordeal in their lives!

Tom Davis (Davis Tom・U.S.A./Pennsylvania)
http://ac-net.org/honor/message1.php?t=20040429040420

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【2-3】許しがたいことです。微力ですがともに頑張りましょう。
この歪んだ現象に対して、日本の良識と常識がどのように対応し、
いかにこれを克服しようとしているのか、世界も注目しています。
(近江 吉明・パリ在住/歴史学)
http://ac-net.org/honor/message1.php?t=20040429022239

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【2-4】5人の方々に対する政治家、メディア、一般国民の非人道
的なやり方には大変ショックを受けました。そして直接被害に遭わ
れた方々とはまるで比べ物になりませんが、今回のことで私自身も
精神的なダメージを負っています。私は今30歳ですが今まで生きて
きてこれほど衝撃を受け、失望したことはありません。政治家やメ
ディアに対してはこれまでも不信感を抱くことが多かったのですが、
一般の国民に対してもこれほどの不信感を抱くことは今までありま
せんでした。たとえ今行われている誹謗中傷が止んだとしても、日
本がこういう国(こういう国民性)である以上は、この不信感と嫌
悪感、そして同じ日本人としての恥は拭えません。今回の事件その
ものもショックですが、日本がこんな国になってしまった、あるい
はこんな国だったと分かったことが大変残念で、恐ろしいことだと
思います。それと今回のことをインターネットや嫌がらせを行った
一部の人たちに焦点をあてて語られ始めていることに危険を感じま
す。もちろんそこにも問題はあるのですが、負のイメージがそこに
集約されてしまわないか、すべてそこに結びつけてしまわれないか
心配です。ネットもメディアも政治家も問題があるのですが、私が
一番危険だと思うのは自分たちの周囲にいる一般の人々の中に“自
己責任”を振りかざして人質になった方々を批判するような人間が
多かったということです。(赤松 幸洋・東京都)
http://ac-net.org/honor/message1.php?t=20040429051209

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【2-5】どうして人質問題がおこったかということまで考えをめぐ
らせてほしいと思います。いま議論されるべきは、「自己責任」で
はなく、「政府責任」でしょう。日本政府の米追従によるイラク侵
略加担により、いままで良好だった日本と中東の間の関係を台無し
にするだけではなく、僕ら現場にでる人間たちも非常なる迷惑をこ
うむることになっているのです。(高橋 邦典・ボストン・ヘラル
ド紙、ボストン、北米/写真部)
http://ac-net.org/honor/message1.php?t=20040429074946

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【2-6】Thank you so much for do ing this. I planned to write
a personal letter, but this solidarity is better. I want to
tell the kidnap victims and their families that I support
them and pray that the undue pressure they have had will
stop. It is inappropriate and cruel.
(Hoeffel Gwendolyn・愛知/pastoral care)
http://ac-net.org/honor/message1.php?t=20040426102855

━ AcNet Letter 103 【3】━━━━━━━━━━ 2004.04.30 ━━━━━━

An Urgent Appeal

Let us show our respect for the actions of the people who
were taken hostages in Iraq, and stop unfair criticism and
slander against these people!

Members of the faculty and staff at the University of Tokyo

http://ac-net.org/honor/honor-appeal-en.php
(To sign, visit: http://ac-net.org/honor/apply.php)
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While majority of the Japanese people were relieved at the
news of the hostages released in Iraq, the Japanese
government and some of the mass media are intensifying a
campaign to emphasize the "personal responsibility" of the
released hostages. Moreover, some of the media are trying to
find fault with the personal history of the released
hostages, and spreading vile slander. It is arguable whether
the decision of the five Japanese to enter Iraq under the
current circumstances was without problems. But think; even
the U.S. government, with all the powerful intelligence
network, has repeatedly made irreparable mistakes in
Iraq. We must face the reality behind this incident in Iraq,
and must not evade the real issue by reducing it to
"personal responsibility."

After all, five people entered Iraq in order to report
worldwide the tragic situation of the wartime Iraq, or to
support the people suffering from war, poverty, and
environmental disruption. Le Monde in France described the
people who were taken hostages as "messengers of the ideas
that refuse war, violence, and intolerance" "who extended
their hands to the victims."

U.S. Secretary of State Collin Powell said, "The Japanese
people should be very proud that they have citizens like
this ... that they are willing to take that risk." "But even
when, because of that risk, they get captured, it doesn't
mean we can say, 'Well, you took the risk. It's your
fault.'"

Considering these voices from abroad, we can confidently say
that we should be proud of these youths who let the world
know the courageous, humanitarian spirit of the Japanese.

One of the ex-hostages said, "After all, I still cannot
possibly dislike Iraqi people." These words, through the
efforts of Iraqi people who try to respond to these words,
might be saving lives of many Japanese (including members of
the Self Defense Force). However, the Japanese Government
and some of the mass media seem to claim as follows: "The
five people caused enormous trouble for the government."
"We took a great deal of trouble to save them." "They must
apologize." We lose our words, and shudder at such a cruel
and inhumane attitude.

From these points of view, we urge the Japanese Government,
journalists, and all the Japanese people the following:

1. We urge those of you who are responsible to stop
unprincipled slander against the five ex-hostages and their
families.

2. We Japanese should be proud of the five ex-hostages
who were deeply worried about the tragic situation in Iraq
and tried to extend their hands as journalists and
grass-roots volunteers. We express our respect for the
courage and enthusiasm of these people, and urge the
government, the mass media, and all the people in Japan to
express their appreciation and their intension to encourage
the five ex-hostages.

━ AcNet Letter 103 【4】━━━━━━━━━━ 2004.04.30 ━━━━━━
再々掲

伊丹万作:「だまされていた」といつて平気でいられる国民なら、
おそらく今後も何度でもだまされるだろう。」

http://www.ac-net.org/dgh/blog/archives/000088.html
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全文:http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/itami_mansaku.htm


伊丹万作『戦争責任者の問題』1946年4月28日
(「伊丹万作全集1」筑摩書房刊)

「・・・・・はからずも、いま政治的には一応解放された。しかし
いままで、奴隷状態を存続せしめた責任を軍や警察や官僚にのみ負
担させて、彼らの跳梁を許した自分たちの罪を真剣に反省しなかつ
たならば、日本の国民というものは永久に救われるときはないであ
ろう。

「だまされていた」という一語の持つ便利な効果におぼれて、一切
の責任から解放された気でいる多くの人人の安易きわまる態度を見
るとき、私は日本国民の将来に対して暗澹たる不安を感ぜざるを得
ない。

「だまされていた」といつて平気でいられる国民なら、おそらく今
後も何度でもだまされるだろう。いや、現在でもすでに別のうそに
よつてだまされ始めているにちがいないのである。

一度だまされたら、二度とだまされまいとする真剣な自己反省と努
力がなければ人間が進歩するわけはない。この意味から戦犯者の追
求ということもむろん重要ではあるが、それ以上に現在の日本に必
要なことは、まず国民全体がだまされたということの意味を本当に
理解し、だまされるような脆弱(ぜいじやく)な自分というものを
解剖し、分析し、徹底的に自己を改造する努力を始めることであ
る。・・・・・」

━ AcNet Letter 103 【5】━━━━━━━━━━ 2004.04.30 ━━━━━━

都立大の危機 FAQ より
「首大」設置申請についての2004年4月28日NHK番組について
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-m.html#nhk042804
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2004年4月28日に NHK首都圏ネットワークで「首大」設置申請の話
が取りあげられたそうですが,どんな内容だったんですか?

ポーカス博士

わしは残念ながら帰宅途中だったので,ビデオに録画することがで
きなかったから,正確なレポートはできない。通りすがりの電気屋
のテレビで見ることができたのだが,うろ覚えで話の骨子をまとめ
てみると,こんな風だった。

石原都知事の発言:「大学がだめなんだ。すべての大学がだめなん
だ。」(2回) 「首都大学東京」の特徴の説明(「都市教養?」
の説明,「単位バンク」の説明 これまでの経緯の説明。

(1) 「8・1事件」以前から改革構想は進んでいた。

(2) 「知事の強い意向」で新たな案が登場した。

(3) 「一部の教員や学生から反対の声が上がった」。

(4) しかし,東京都の側も話し合い を始め,教員も96%が「新
大学」へ移行する予定になっている。

西澤学長予定者のインタビュー:「これから教員と話し合うつもり
だ。 教育に対して注ぐ情熱は共通して持っている」

小柴先生のインタビュー:「東京都の側がちゃんとした協議体制を
作っていない。」

早くて7月末には,「首都大学東京」が認可される。

とまあ,だいたいこんな内容だったと思う(不正確な表現や重大な
聞き漏らしがあったら教えて欲しい)。結論から言おう。今回の報
道にわしは極めて不満だ。おそらく都知事の目から見れば,満足の
いくものだったに違いない。

この報道を見た普通の人は,「そうか,これで来年の4月から新し
い大学ができるんだな。今はもう,反対運動は行われていないんだ」
と思うに違いない。まず経過説明が非常にゆがめられている。
「知事の強い意向」で新たな案が登場したと言うと,「そうか,石
原知事が強い指導力を発揮したんだ」と思うじゃろう。現実はどう
だったか? 話し合いを拒否して,非合法なことを強引に行って,
勝手に自分好みの改革案をでっちあげたのだ。これを,NHK用語で
は「強い意向」 と呼ぶのだとしたら,非常識にも程がある。これ
まで出た 数々の声明を読んだことがない記者がおとなしい言葉で
まとめたとしたら,非常に罪作りな表現じゃ。

「一部の教員や学生から反対の声が上がった」というのは,2003年
10月頃のマスコミ報道だ。その後,「新構想」に対して学生がいか
に支持していないか,4大学の教員がいかに支持していないかが明
らかになり,そのような報道は消えていた。「一部が反対」 とい
う表現はあまりにも誤った印象を与える。10人いて,その一部が反
対といったら,せいぜい2〜3人だろう。しかし現実には,4大学合
計で797人中451名(57%), 都立大589人中381名
(65%) が反対しているのだ。学生も2000人以上が反対して
いる。これを矮小するのはとんでもない間違いだ。常に公平性を考
慮して報道をすることをNHKは心掛けているとしたら,今回の報道
はあまりにも配慮の欠けたものだった。

教員も96%が「新大学」へ移行する予定というのも,そのような
数字が出てくるまで,法的根拠のない意思確認書をめぐって, 文
部科学省も巻き込んだごたごたがあり,再三に渡る恫喝が行われ,
何が書いてあっても,部分的に文面が書き換えられていても提出さ
れたものとしてカウントした のが96%という数の背景と実態だ。
そのような事実に一切触れることなく, あたかも96%の教員が
すんなりと「首大」へ移行するかのような報道をしたのは非常に遺
憾だ。

今後,教員が就任承諾書を出すことになっているという件には,さ
らりと触れたが,今の一番大きな関心事は, (1) 設置審から,ど
のようなクレームがつくか?ということと, (2) 果たして,どれ
くらいの人が就任承諾書を出すことを拒むか? という2点にある。
この2点に踏み込まずに,ただ無批判に「単位バンク」 をパネル
を使って紹介し,これが「首都大学東京」の大きな特徴ですなんて
説明するなんぞ能天気としか言いようがない。

━ AcNet Letter 103 【6】━━━━━━━━━━ 2004.04.30 ━━━━━━

法律・教育学関係者緊急アピール
東京都教育委員会の「日の丸・君が代」強制に抗議する
《現代版・踏み絵》に異議あり
http://university.main.jp/blog/archives/000879.html
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東京都教育委員会は、今春の卒業式における「君が代」斉唱の際に
「起立しなかった」、「ピアノ伴奏をしなかった」都立学校の教職
員176名と公立小中学校などの教職員20名を戒告処分に付すること
を決めました。同教委は今年2月にも、周年行事に際して同様の態
度をとった教職員10名を戒告処分としましたが、今回はそれを上回
る大量処分であり、しかも弁護士の立ち会いを排除した強引かつ一
方的な「事情聴取」を行っただけの極めてずさんな処分です。

都教委が今回の処分を断行した背景には、昨年10月23日に全都立学
校の校長宛に発せられた「国旗・国歌」に関する「通達」および
「実施指針」があります。これらの文書において同教委は、「日の
丸」掲揚、「君が代」斉唱の具体的な方法について事細かに指示し、
さらにこれに従わない教職員は処分の対象となるとしました。今回
の処分は、「10・23通達」の本格的な発動ということができます。

この通達にいたる都教委の議論では、1999年国旗・国歌法制定時に
述べられた「国旗・国歌を尊重する気持ちを子どもに強制するもの
ではない」とする政府の説明自体を疑問視して、子どもに強制を働
かせるために邪魔になる教師を選別し、追い落とそうとする意図が
表われていました。

さらに3月16日の都議会予算特別委員会において、横山教育長は、
「君が代」斉唱時に起立しない、歌わない生徒が多数いた場合は、
担任教師等を調査し、不適切な発言等があれば処分するという驚く
べき発言をしました。子どもたちに自分で考えることを保証しよう
とする教師がターゲットとされており、同時に、担任の教師を人質
にとって子どもに順応を迫るという極めて卑劣な強制方法であるこ
とは明らかです。

このように、「日の丸・君が代」をめぐる都教委のやり方は、子ど
もから自主的思考を奪い、ただひたすらに体制に順応することを強
制する点で、もはや教育の名に値するものではなく、教育基本法に
のっとって子どもの「人格の完成」をめざした教育を行う教師の権
利を踏みにじり、同時に、子どもの学ぶ権利、思想・良心の自由を
侵害するものです。まさに、《現代版・踏み絵》といわざるをえま
せん。

日本国憲法19条の「思想および良心の自由」は、個人の人格の核心
である思想・信条、つまり内心における精神活動がいかなる外部か
らの干渉も受けずに、自律的に行われるべきことを保障しています。
この自由は、人格形成の途上にある子どもにとっては、とりわけ重
要です。子どもが自分と社会や国家との関わりかたを認識し、その
アイデンティティを確立していく過程は、親や教師の援助を受けつ
つも、可能なかぎり自律的なものでなければならず、これを国家が
統制することは、子どもの人格的自律を将来にわたって妨げること
になるからです。

また、親とともに子どもの良心形成に関わる教師が、「国旗・国歌」
の問題で吟味された判断の素材を子どもに提供する一方、子どもの
自律的な人格形成を阻害するような政府や教育行政当局の干渉に抵
抗することは、教育者としての重要な職責に属します。教育基本法
10条1項が、教育に対する「不当な支配」を禁止しているのは、こ
のような教育の条理を規範化したものとみることができます。

なお都教委は、「『内心の自由』は認めるが、それを表現すること
は職務命令違反になる」と主張しています。しかし、憲法が保障す
る「内心の自由」は、少なくとも自己の良心に反する行為を拒否す
る自由(消極的な表現行為の自由)を含むはずです。これを許さな
いのは、憲法19条を否定するものです。憲法が職務命令よりも優先
されることはいうまでもありません。

以上のように、都教委による「日の丸・君が代」の押しつけは、憲
法・教育基本法・子どもの権利条約などに違反するのみならず、制
定時に「強制はしない」との政府答弁がなされた国旗・国歌法の趣
旨にも反します。学校教育法との関係でいえば、このような強制が
同法の定める学校教育の目標である「自主及び自律の精神を養うこ
と」(小学校・18条)、「公正な判断力を養うこと」(中学校・36
条)、「健全な批判力を養い、個性の確立に努めること」(高等学
校・42条)などに反することは明らかです。さらに、都教委が強制
の《根拠》として持ちだす学習指導要領(文部科学省告示)につい
ては、最高裁が、同文書は強制にわたるものであってはならない旨
を判示しています(1976年・学力テスト事件判決)。

政府・文部科学省が推進する「教育改革」では、《自立性・主体性・
創造性を備えた人材の育成》が喧伝されていますが、国旗・国歌に
向きあう姿勢まで一方的に決めつけ、「起立・斉唱」行動を強制す
るようなやり方は、いかなる意味でも子どもの自立性・主体性・創
造性を養うことにはなりません。

このように、都教委の《現代版・踏み絵》は、教育のあり方として
大いに疑問であり、また憲法・教育基本法が明確に規定している教
育に関する法のルールにも反するものです。私たちは、次代を担う
子どもたちの自律的な人格形成に重要な責任を自覚する研究者とし
て、このような異常事態を黙認するわけにはいきません。ここに連
名により、異議申し立てを行うものです。

2004年4月
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毎日新聞(4/28)
法律学・教育学者247人、君が代、東京都教委の処分で緊急アピール
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20040429k0000m040131000c.html

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