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新首都圏ネットワーク


『文部科学教育通信』2004年4月26日号 No.98
 教育ななめ読み 45 「埋蔵金?」
 教育評論家 梨戸 茂史

 大学の研究というのはそんなに簡単に成果のでるものではない。何か埋まっ
てると思いこんだところから間違いが生じてはいないだろうか。

 大騒ぎの果て発足した大学のTLO(技術移転機関)が批判されている。いわく
研究成果が売れない、TLOの力不足・・・。

 全国の大学のTLOで、その運営費をまかな売り上げがあるとされているのは、
東大や電通大などごくわずか。大学TLOの三分の二が赤字とか。うまくいってい
るのはブランド力のある特定の大学に限られているのが現状。そこで思いつい
たのが「知的財産本部」。昨年七月に整備事業として採択された。国立が東大
や九大など二五件、公立は大阪府立大学等合同で一件、私立は東京理科大等な
ど七件、国立情報学研究所等大学共同利用機関が集まったもの一件、合計三四
件に上った。面白いのは「整備事業のモデルとして採択とまではしないが、独
創的で注目すべき機能や手法を含むと認められるもの」として九件を選定し、
支援することだ。たとえば、新潟県の国立大学と私立大学の連合が自治体と一
体的活動をするのが入っている。「惜しかったね」グループなのか。

 さて、知的財産本部とTLOは、一体どんな活動の違いがあるのか。簡単に言え
ば前者は特許管理の組織で後者はそれの売り込みだそうだ。おおもとはあまり
変わらないように見える。どちらも特許になりそうな研究を発掘し特許化し、
それを売り込む話のようだ。お役所はひとつがうまくいかない場合に違う名前
のシステムをこしらえて予算をとってくる。実際の業務は現場の苦労。形と予
算をつけて事たれりの机上の事業(理論)ではないのだろうか。

 最近の科学技術研究への予算のつぎこみかたは異常なほど。毎年三兆五、六
千億円との計算もある。「これだけ使ってなんら成果が還元されないではない
か」の非難の合唱がそろそろ始まるのだ。

 一方で、東大の海洋研究所の「惨状」を掲載するマスコミ(Y新聞〇四年二月
二五日夕刊)。謎だったウナギの産卵場所を太平洋にみつけたり基礎研究で多
くの成果を上げていると評価。しかし五階建ての本館は四十年もので耐震性に
問題あり、一人当たりの研究スペースが基準の半分、廊下には実験装置やロッ
カー。守衛所も研究室に改装、敷地内の貨物コンテナも観測機器の倉庫になり、
高価な質量分析機がプレハブ内に設置され近くを走る車の振動の影響を受ける
などなど"涙を誘う"お話。あげくに「・・・法人化後、研究費の削減も予想さ
れる」と述べる。

 これは予想などではなく"現実"になる。およそ基礎研究など、すぐには役立
たないものが多く、ウナギの寝床がどこにあろうがちゃんと日本近海に回遊し
てくれて"土用の鰻"に間に合ってくれれば良いのであって、TLOや知的財産本部
で有用な「特許」として認められるのは難しいのだ。

 大学にはこの類の基礎研究は山ほどある。明日の産業になろうがなるまいが
「面白い」から研究しているのだ。

 その中に、すぐには成果が出たり価値が分からないが、後世の人類の福祉や
幸福に役立つものが埋もれているはず。これが本当の"宝の山"で、幕府が埋め
た「埋蔵金」を見つけて、直ちに産業界の役に立たそうという発想とは次元を
異にする。

 ところで、マスコミにお願いしたいのは、最初に大学にはお金になる研究が
ある、と言ってバラ色の夢をばらまき、すぐに成果が出なければそれを非難し、
「それみたことか」式の記事づくりはやめてください、ということ。わが国の
学術研究に本当に大事なことは何か、冷静に、事実を載せて、その向かうべき
方向を示唆し、結果をしっかり報道、将来の国民のためになるよう論陣を張る
ことではないでしょうか。それが「社会の木鐸(ぼくたく)」ではありません
か。ペンの力でそれを成し遂げるのがマスコミではないのだろうか。

 本人が思っている異常に影響力があるのがみなさんですよ。