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新首都圏ネットワーク

2004年4月5日付け東京新聞掲載記事に対する福島大教職組の抗議文


中日新聞社東京本社 御中
2004年4月22日
福島大学教職員組合中央執行委員長 坂上康博

 去る4月5日付『東京新聞』に掲載された記事「こちら特報部 国立大裁量労働制の功罪」は、当組合にとって、たいへん迷惑なものです。この記事の掲載について、貴社に対して、強く抗議いたします。同時に、この記事については、当組合として疑問点がありますので、ここにお尋ねする次第です。貴社代表者もしくは編集責任者、ならびに記事を執筆された藤原正樹記者より、書面をもってお答えいただきたく存じます。

 この記事は、「今月一日からすべての国立大学が法人化されたのに伴い、東京大学など過半数の大学で教職員の『裁量労働制』が導入された。」という一文で始まり、主として裁量労働制にかかわる問題点を指摘するものとなっています。記事中には以下のごとく、2箇所にわたって「福島大人事課」のコメントが引用されています。
 【コメントA】「福島大人事課も『タイムカードは管理されるイメージが強く教員たちには受け入れられない。しかし、教員自身を過労から守る手段なので、タイムカードやICカードの導入もある』と予想する。」
 【コメントB】「福島大人事課は『裁量制はコスト削減が狙い。今まで以上の成果を上げなければ、教員の給与削減もありうる』と明言する。」

 当組合にとって、この記事はたいへんに迷惑なものです。理由は三つあります。
 第一に、この記事は、国立大学の労働運動に関心をもつ人々の間に、当組合に対する誤った見方を植え付けかねません。当組合は、国立大学においては珍しい、いわゆる過半数組合です。ゆえに大学当局が教員について裁量労働制を導入する場合には、当組合と労使協定を結ばねばなりません。そのような事情は、他大学の労働組合などにもよく知られています。さて、当組合と大学当局は4月1日に労使協定を締結し、福島大学では1年間の暫定措置として裁量労働制が実現されています。その事実を知り、かつ記事を読んだ人は、当組合について、どう考えるでしょうか。「当局側がコスト削減を狙い、給与削減も視野に入れて成果主義を目指しているのに、あたら労使協定に応ずるとは、何と愚かな、堕落した組合なのだろう」と考えたとしても、不思議ではないでしょう。
 第二に、この記事は、4月8日付『河北新報』にも転載されました。東北地方に強い影響力を持つ同紙への掲載によって、福島大学の地元の人々にも、上のような誤った見方が広がりかねないことになりました。この点については、河北新報社のみならず貴社にも責任があるはずです。
 第三に、この記事は、福島大学における労使相互の信頼関係を傷つけかねないものです。裁量労働制を含む新しい労使関係の枠組みを構築するにあたって、当組合と大学当局とは20回にも及ぶ交渉・懇談を重ねてきました。また、特に裁量労働制については、各学部教授会懇談会などでの説明も行われています。これらの機会において、当局側は「コスト削減」や「教員の給与削減もありうる」などといった説明はしていません。また、当組合は交渉の場において、今回の裁量労働制を成果主義の導入につなげないことについて、学長から確約を得ています。したがって、上記コメントBが責任ある当局者の発言の正確な引用であるとするならば、当組合はもはや大学当局を信頼できなくなるのです。

 以上のように、この記事は、当組合に多大な迷惑を及ぼすものですが、それでも、この記事が十分な取材に基づいて真実を伝えるものであるのならば、当組合は、このような抗議と質問をすべきではないでしょう。しかし残念ながら、この記事は、そのような良質なものではないと、私たちは考えます。理由は二つあります。
 第一に、この記事は、正確な事実をつかむための十分な取材を経たものとは思えません。福島大学には、コメントA・Bに登場する「人事課」なる部署は存在しません。大学のような組織の方針について記事に書く場合、取材の相手方の職名などを確認し、その人物がその問題について責任ある発言ができる立場にあるのか否かを見極めることは、ごく当然ではないでしょうか。そのような基本すら踏まえていない記事に、信をおくことはできません。
 第二に、この記事は、事実を客観的にみるための十分な取材を経たものとは思えません。裁量労働制は、全国どこの職場でも同じような制度として実施されるものではありません。労働基準法は、裁量労働制を導入する場合には労使協定を結ぶべきことを定めています。ゆえに裁量労働制は、それぞれの職場における労使の交渉によって、ありていに言えば労使の力関係によって、その内容が大きく異なるものとなるのです。したがって、特定の職場を例にあげながら裁量労働制の問題点を指摘する記事を書くのであれば、その職場の労使双方に取材をすべきでしょう。4月5日付の記事は、当組合に何らの取材もなく書かれた点で、少なくとも福島大学に関する限り、客観的なものとはいえません。

 要するに、4月5日付の記事は、当組合の名誉を傷つけると同時に、貴社自身の名誉を傷つけるものでもあると、私たちは考えます。今後においては貴社の社是「真実、公正、進歩的」に恥じぬ紙面づくりに励んでいただきたいものです。

 最後に、貴社ならびに藤原正樹記者に対して、3点の質問をいたします。
 この記事の作成にあたって、どのような取材活動をなさったのでしょうか。
 この記事は、正確な事実をつかむための十分な取材に基づくものだとお考えでしょうか。
 この記事は、事実を客観的にみるための十分な取材に基づくものだとお考えでしょうか。

 なお、本状ならびにご回答については、公開させていただくことを申し添えます。