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新首都圏ネットワーク


『毎日新聞』2004年4月20日付

熊本大学:法人化で財政運営厳しく


 全国89の国立大学が今月1日に国立大学法人となり、熊本大学(崎元達郎
学長)も民間の経営手法を取り入れた大学運営に移った。経営効率化を図りな
がら、大学の使命である教育や研究の質をいかに保つか。難しいかじ取りを迫
られる。【山田宏太郎】

 ■重い4億円減

 「大学病院は民間の病院では行い得ない高価な機器を用いた高度先進医療を
実施することに加え、学生や研修医などの教育機能を備えている。にもかかわ
らず文部科学省は毎年2%、2億8000万円の増収を前提に病院の交付金を
算定している。非常に頭の痛いこと」。1日の国立大学法人熊本大学設立式の
あいさつで、崎元学長は率直に思いを述べた。

 国の行財政改革に端を発した法人化。国立大学は国立大学法人の運営となり、
これまで国立学校特別会計としてひとくくりだった予算は、法人ごとの個別予
算となり、国からは運営費交付金が配分される。法人は6年間の中期目標・中
期計画を策定。文科省に置かれた国立大学法人評価委員会が6年ごとに目標の
達成度などをチェックし、交付金額を査定する。さらに、交付金は経営効率化
を見込んだ算定で毎年減額される。

 熊本大学の今年度の予算は総額431億円。運営費交付金は164億円で収
入の約4割を占める。自己収入は202億円でそのうち7割が病院の収入だ。
支出は人件費が5割に上り、教育研究などの活動費は36億円のみ。こうした
状況で、病院の病床稼働率向上や一般管理費などの節減を前提として、交付金
は年約4億円程度、予算の約1%が削減される見込みだ。

 ■学生評価も

 崎元学長は「従来は物件費、人件費など費目ごとに予算が決まっており、基
本的に流用できなかったが、法人化後は渡しきり予算。人件費を減らして教育
研究費にあてることもできるが、逆に人件費が増えれば研究費も減ることにな
る。ここをどうするか」と悩む。

 授業料の見直しも可能で、文科省が現行ベースの110%までの増額を認め
ている。しかし、崎元学長は「教育の機会均等という基本精神を果たすため運
営費交付金などが措置される。使命は重く、在任中は値上げは考えていない」
と明言する。

 必然的に支出の半分を占める人件費の見直しは避けられない。同大は学内に
評価委員会を設け、教官らの個人活動評価を今年度から試行し、06年度から
本格実施する。評価には学生のアンケートなども反映させる。

 ■裁量生かす

 しかし、やり繰りに腐心するだけでなく、法人化による裁量を生かし、自由
な発想で発展を図る方策も模索している。

 中期目標・計画では国の科学研究費補助金などの外部資金の25%増加を掲
げる。法人化と関連し国は大学の競争資金として「21世紀COEプログラム」
と「特色ある大学教育プログラム」などの助成制度を設けた。その一つとして
申請を検討しているのが、高度情報化に対応した教育プログラム。1年時に情
報系のカリキュラムを必修にし、高度情報化キャンパスと銘打ち無線LANな
ども整備。学生の全体的な情報能力の底上げを図り、専門教育にもつなげる。

 知的財産の権利は今後、法人に帰属することから、戦略的な研究、開発が必
要となる。法人化を間近に控えた先月29日、三洋電機(大阪)と「次世代技
術開発についての包括的連携に関する協定」を締結した。今後、共同研究や受
託研究の実施と研究者の交流▽熊大の学生へのインターンシップ−−などを行
う予定だ。また、意思決定機関の役員会の理事に法務担当理事として民間弁護
士を配置。特許などの知的財産権の保護に備えた。

 付属病院についても高度医療や地域医療への貢献を充実させる考え。県や熊
本市との協議が必要だが、今後、救急救命医療センター化を目指すことにして
いる。

 法人化による改革が学生や社会にプラスに働くかはまだ不透明。同大の今後
の取り組みにかかっている。大学の国への隷属が強まるという懸念もあるが、
同大はかつて夏目漱石が教べんを執り、水俣病問題では原因追及や患者の実態
把握に大きな役割を果たした歴史を持つ。崎元学長は「法人化で学長にはトッ
プマネジメントが期待されているが研究の自由を守り、質の高い教育と高度な
研究医療を保証するためにリーダーシップを発揮すべきと考えている」とプラ
イドを見せる。