トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』2004年4月21日付

郵政公社、法人化の国立大・・・損保、新市場で争奪戦



 大手損保各社が公社化や法人化した国の機関という「突如出現した未開拓市
場」の争奪戦を繰り広げている。従来は、郵便配達のバイクが事故を起こした
り、国立大学の施設の不備で学生がけがを負ったりしても、国の予算から賠償
金が支払われていた。しかし、公社や国立大学法人、独立行政法人になったこ
とで、コスト削減や賠償費用の捻出(ねんしゅつ)を迫られ、保険をかける必
要が生じたためだ。

―自動車保険、頭打ちで危機感

 「こんなに安くあがるとは思わなかった」

 日本郵政公社が今月から加入した自動車保険の入札は、公社側が見込んだ保
険料の3分の1以下と、公社の担当者も驚く安値で決着した。

 新たに入った保険は全国の郵便局が配達などに使う自動車、バイク計約14
万台が対象だ。2月末にあった入札では、公社側は、年間の保険料を約15億
円程度と見込んでいた。ところが、東京海上火災保険、損保ジャパンなど大手
損保がそろって5億円前後で応札。結局、4億1600万円で応じた三井住友
海上火災保険が競り落とした。

 郵便局の自動車、バイクが起こす事故は年間約8千件。国が支払っていたカ
ネは、年間約10億円の賠償金に事故処理担当者の人件費などを加えた計約1
7億円に上っていた。事故処理の経費は約4分の1に圧縮される。

 損保業界では主力の自動車保険の頭打ちが続いている。業界全体の自動車保
険の正味収入保険料(売上高に相当)は、03年度には、戦後初の2年連続前
年度割れが確実な状況だ。7日に出そろった主要損害保険9社・グループの0
3年度営業成績も1社を除いて前年度と比べて減少した。割引競争の激化や買
い替えサイクルの長期化などで、保険料の単価下落が続いているためだ。

 海外事業など新たな収益源の開拓に懸命な損保各社にとって、郵政公社の自
動車保険は願ってもない大型案件だった。落札した三井住友海上の三浦浩・公
務第2部長は「最大限の工夫をしてギリギリの条件を出した」という。郵便局
向けの安全運転指導で事故減少が見込めることなども織り込んだという。だが
「普通の自動車保険から考えれば赤字のはず」との声も聞かれる。

 法人化でも、業務によっては国家賠償法の対象から外れるため、保険加入の
必要性が生じる。今月法人化した全国89の国立大学は、まとめて様々な種類
の保険に加入する共同保険方式を採用した。そこでも、大手損保がシェア獲得
にしのぎを削った。

 大学施設の火災などに対応する財産保険では、大手損保7社のうち、最大手
の東京海上、AIGグループのAIU保険の2社が、保険料が見合わないこと
などを理由に途中で参加を取りやめたほどだ。国立大学協会は、「共同保険」
を採用した効果も含めて「各大学が個別に加入した場合と比べ、保険料は大幅
に安くなった」とみる。現在105ある独立行政法人も、その多くが新たに保
険に加入している。

 安値受注を強行する背景には、公社や法人に勤務する「個人」への広がりが
見込めるからだ。郵便局は普通局と特定局を合わすと約2万5千カ所。職員は
非常勤も含めると約40万人に達する。「火災保険、傷害保険など新たな需要
への期待は大きい」(大手損保)とそろばんをはじく。

 国立大学向けでも、今回の共同保険を足がかりに、学生や教職員向けの保険
に照準を定める。