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新首都圏ネットワーク


『東奥日報』社説 2004年4月8日付

変革が問われる法人弘大


 全国八十九の国立大学が、四月一日から国立大学法人として新たなスタート
を切った。

 国の直轄から離れ、それぞれ独立した法人が大学運営に当たる。昭和戦後、
一九四九年の新制大学発足以来の制度改革である。

 各大学は、学長を中心とした経営重視の運営組織に基づき、自らの判断と責
任で教育、研究を進める。それらは業績評価され、国の予算配分にも反映され
る。

 これまでの国による護送船団方式、横並び意識から脱して、個性と創意が問
われる。少子化で学生が大学を選別する時代だ。競争の波は、さらに高まる。

 県内では弘前大学が法人に移行した。各方面に人材を送り出し、地域社会に
貢献してきた半世紀余の経験と実績を生かしながら、新たな大学像をどう打ち
出していくのか。変革は待ったなしだ。

 忘れてならないのは、経営や業績重視のあまり、すぐには成果につながらな
い基礎研究や教育分野をおろそかにしないことだ。

 学ぶ主体は学生であり、研究者である。多様な関心を狭めるような運営や管
理が先行しては、魅力を欠く場になってしまう。

 研究の相互交流や地場産業起こし、学生支援、経営基盤の強化など、地域社
会との連携もますます必要になる。

 そうした開かれた自前の大学運営に努めれば、おのずと顔も見えてくる。そ
のことは、取りも直さず活性化につながる道だろう。

 法人化で大きく変わったのは運営組織である。従来の評議会に代わり、権限
が強化された学長と理事五人からなる役員会が重要事項を決める。理事の一人
は学外者が義務づけられた。

 経営協議会と教育研究評議会も設けられ、これらにも学外有識者らの声を反
映させる。民間の発想を取り入れる狙いだ。経営基盤の強化には地元からの資
金協力も必要だ。経営協はオープンな議論が望ましい。

 各大学の業績評価は、第三者機関の評価委員会が行う。文部科学省は、各大
学が提出する中期計画を認可するが、その際、評価委の意見や評価に基づき運
営費交付金を決める。

 問題がないわけではない。文科省の意向や評価基準である。独立とは裏腹に
文科省の意向が強く示されたり、評価基準があいまいでは、法人化は半端なも
のになる。国の財政難で予算の削減も懸念される。

 弘大は義務づけられた組織改革のほかに、独自の施策も進めていく。教職員
の資質や実績を総合的に判断する「評価室」を設け、給与などに反映させる。

 産学官の連携や就職支援の拠点とするため、東京都内に事務所と分室も開設
した。学外拠点は、これまで青森と八戸に分室的なサテライトがあったが、県
外にも拡充する。

 学生支援をはじめ、地域との連携や国際交流なども図る弘大後援会も発足し
た。

 環境づくりは着実に動きだしているが、教職員の意識改革も欠かせない。法
人移行の記念式典で、遠藤正彦学長は「地域に根を下ろした」努力を訴えた。
地方大学の原点に立った意識改革を望む。

 大学間競争の中で、弘大を取り巻く状況は厳しい。大都市圏から離れた場所、
先進大学との研究レベルの差、地域の経済基盤の弱さなどが指摘される。秋田
大や岩手大との統合・再編問題もある。

 学生が集まる魅力ある大学づくりには、そうした課題に取り組む地道な努力
と知恵の結集が、これまで以上に求められる。

 六日には入学式もあった。法人化とともに歩む学生たちが「ここで学んで良
かった」と卒業の時に言えるよう、変革に向けた前進を期待したい。