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新首都圏ネットワーク


『神戸新聞』社説 2004年4月4日付

激変する教育環境/「学びの基本」見つめ直す好機に


 教育を取り巻く環境が、新年度から大きく変わった。

 神戸大学など八十九の国立大学が法人化し、六十八の国公私立の法科大学院
もスタート。兵庫県内の神戸商科大学、姫路工業大学、県立看護大学の三県立
大も統合し、新たな「兵庫県立大学」も開学した。

 一方、文部科学省は、高校に続き、小学教科書でも「発展的内容」の記述を
全面的に復活し、高度授業を容認する方向に急カーブを切った。

 教育環境の激変については、当然、さまざまな見方がある。が、要は、新し
い枠組みに右往左往するのではなく、あらためて「学ぶとは何か」を考える機
会とするべきではないか。

      ◇

 国立大の法人化は、明治の帝大創設、戦後の新制国立大発足に次ぐ、高等教
育の大改革と位置づけられる。

 「国立大学法人」は、当初、大学、旧文部省で強い反対があったが、省庁改
革の中で押しきられた経緯がある。

 それだけに、教授会から学長への権限移行にともなうきしみをはじめ、なじ
みの薄い経営協議会、外部の評価委員会がどう機能するのかなど、不透明な部
分もある。

 予算を握る文科省の関与は、なお続くとみられる中、真の独立法人となれる
のか。研究、教育の成果を示す手段として数値目標も求められている。一面で
は、営利企業並みの「成果主義」も必要だろうが、教育現場に、その強要は似
合わない。

 確かに、法人化により現場での裁量権が増え、より自由な活動が可能になる。
そこに、重点的に法人化によるメリットを見出すべきだ。学長のトップダウン
も重要だろうが、一人の学長ができることは知れている。学生も含め、多くの
知恵を結集し、いたずらに、目前の数値や成果だけにとらわれず、学問の基礎
と発展を見据えた着実で真摯(しんし)な取り組みも忘れてはならない。

グローカルを深めよ

 兵庫県立大も、大学新時代の中で、注目される「総合大学」となった。

 三大学とも、独自の伝統と最新の設備、教育システムをもつ有力校として、
多彩で多様な人材を輩出してきた。統合せずとも単独で十分に教育・研究機能
を発揮してきたし、今後もそれは可能だっただろう。

 だが、その成果をさらに上回る統合効果に、将来を託した。「先導的・独創
的な研究を行う個性豊かな大学」「世界に開かれ地域とともに発展する夢豊か
な大学」と位置づけた。

 個性豊かな旧三大学の特色を十分に生かした講座を、テレビ授業などを通じ、
それぞれの学生が自由に受講できる。六カ所にも分かれたキャンパスの不便さ
を、最新のIT技術でカバーする。「学部ミックス」は大学教育の原点でもあ
ろう。新しい産業や福祉、文化が生まれる予感もある。

 いま、兵庫県を主なフィールドとして総合的な研究を精力的に展開している
大学はと問われても、残念ながら、その姿は大きく浮かびあがってこなかった。
もちろん、個々の貴重な地域研究や、多くのハイレベルな研究成果もあげてい
ることを忘れてはならないが、一方で、兵庫は、大学の地域貢献が見えにくい
県でもあった。

 新しい県立大学は、まず、そんな課題をクリアするため「産学連携センター」
「国際交流センター」とともに「生涯学習交流センター」を新たに設置し、社
会貢献機能を充実させる。これまでの活動は、神戸や姫路中心だったが、統合
後は、全県的にも拡大し展開してもらいたい。

 国際的に思考し(シンク・グローバリー)地域的に行動(アクト・ローカ
リー)する。逆に地域的に思考し、国際的に行動する。これが「グローカル」
の思考、行動様式だが、言葉だけが先走り、実体のないまま流行語となってい
る。

 兵庫県立大は、この「グローカル」を、実のあるものにする、最適、最高の
舞台となるはずだ。統合を、その実現に向けての確実な一歩としてほしい。

「多様な学力」育もう

 教育環境の激変は、同時に、学ぶ者にも変革を迫ってくる。

 何を、どう学んでいくか。学習は小さな努力の積み重ねだ。初等教育があっ
て、中等、高等教育が成り立つ。

 改革の枠組みが固まり、新制度がスタートしたが、大学に本当の新しさが見
えるのは、新しい初等、中等教育の洗礼を受けた学生を迎え入れるときだとも
いえる。

 毎年、児童・生徒の学力低下が指摘される。学力とは何か、簡単に答えは出
せないが、日本の学力の弱点は、多様な思考を苦手とし、読解力、独創力、難
問解決力など学習の基本ともいえる分野で、欧米先進国に劣るとされる。

 こうした指摘もあって、来春から使われる小学校の全教科書に、指導要領を
超える「発展的内容」が盛り込まれることになった。弱点の克服には、多様な
学力を育(はぐく)むことが必要だが、現場では、その適切な運用に十分配慮
しつつ「新しい学力」をつける積極的な取り組みが求められる。

 こうした一連の、いわば「学習改革」とあいまって、大学改革も進展するは
ずだ。激しく変わる教育環境を「学びの原点」を見詰め直す好機ととらえたい。